
連載: 在タイ日本人駐在員の挑戦
公開日 2026.02.10
「自社の存在価値を高めるために、何ができるのか」。その問いを現場で考え、行動に移せるビジネスパーソンがどれほどいるだろうか。阪和興業株式会社のタイ法人、HANWA THAILAND CO., LTD.(以下、阪和タイランド)で鉄鋼部門のマネジメントを担う山田祐也氏は、「タイを起点に鉄鋼のバリューチェーンを構築し、すべての取引先がWin-Winとなる関係を実現したい」と、商社機能の最大化に向けた挑戦について語る。
目次
阪和興業は1947年設立の商社で、鉄鋼部門を主力としながら、多角的な事業をグローバルに展開しています。阪和タイランドは1976年9月に設立され、今年で50周年を迎えます。現在、鉄鋼、マテリアル、リサイクルメタル、食品の4事業を展開しており、従業員数は93名、このうち日本人駐在員は10名です。
私は2011年に阪和興業へ新卒入社し、東京本社において建設資材を扱う営業部門で7年間従事しました。その後、人事部に異動し、採用や研修業務を5年間担当。さらに、北米での半年間の営業トレーニングを経て、2024年4月よりタイに赴任しています。
現在は阪和タイランドの鉄鋼部門において、スタッフのマネジメントをはじめ、トレーディングビジネスにおける既存顧客の取引拡大、新規顧客の開拓、新規ビジネスの創出など、幅広い業務を担当しています。

タイのマーケットは、人間関係がものを言う“信頼ベース”の商売が根強く、スピード感はありつつも、合意形成を丁寧に進める文化があるという印象を持っていました。
この点については、これまでの仕事人生において人間関係の構築を最重要視してきた自分のスタンスと重なる部分が多く、大きなギャップを感じることはありませんでした。相手が何を考え、何を求めているのかを徹底的に追求する姿勢は、携わる領域や国が違っても変わらない軸だと考えています。
一方で、互いに第二言語でコミュニケーションを取るタイでの仕事においては、日本で築いてきたような信頼関係の構築が、決して容易ではないとも痛感しました。自分の“想い”や“情熱”を十分に伝えきれないもどかしさがあり、また相手の意図を汲み取る点でも難しさがあります。
加えて、日本で培ってきた人脈をそのまま活かすことはできず、新たなフィールドでゼロからビジネスの関係性を築いていく必要がありました。信頼関係を何よりも大切にしてきた自分だからこそ、大きな葛藤を抱いたのだと思います。
この課題を単なる「言葉や文化の違い」で片付けてはいけないと感じ、当初はスタッフの営業に同行しながら、相手がどのような価値観を持ち、どんな人物なのかを観察し、対話を重ねていきました。会う頻度を増やしてコミュニケーションの機会を確保すること、そして相手が本当に求めている情報は何かを考え、提供することを日々意識しています。
当社の鉄鋼部門は、さまざまな要因から、事業の成長に苦労した時期が長くありました。しかし、先人たちが時間をかけて丁寧に蒔いてきた種が、ようやく確かな芽となって現れつつあります。いま私に課されている使命は、この芽生えを大切にし、しっかりと花開くところまで育てていくと共に、次の成長ステージへと導くことだと考えています。
具体的に取り組んでいるのは、既存取引先との関係をさらに深掘りしながら、売り先・仕入れ先の開拓を加速させ、タイを起点に川上から川下までを一気通貫でつなぐ新たな鉄鋼部門のバリューチェーンを構築することです。
鉄鋼は、原料から製品に至るまで、価値が幾層にも積み重なっていく素材です。必要なタイミングで、必要な仕様・品質保証を伴った製品をお届けする—その流れを設計し、実現することこそが、商社の存在意義だと考えています。
バリューチェーンが確立されれば、各工程に関わる世界中の専門企業がそれぞれの強みを発揮でき、当社およびすべての取引先がWin-Winの関係を築くことが可能になります。
チーム内はもちろん、本社や世界中にある海外事務所の頼れる仲間たちとも密に連携しながらこの取り組みを推進し、最終的には現場の生産性向上、調達の安定化、コストおよびリードタイムの改善といった、目に見える成果でお客様の役に立ちたいと考えています。
来タイ前は「駐在員はチームの先頭に立ち、自ら稼ぎ頭になる存在だ」と考えていました。しかし実際には、タイ人社員の力がなければ何も成果は生まれません。だからこそ、彼らのモチベーションをいかに高め、自信を持ってもらうかを常に意識しています。

まずは、小さなことでも成功体験を積んでもらい、それをマネジャーである私が見逃さずに評価すること。些細に思える取り組みかもしれませんが、それが個々の力となり、チームの力となり、やがて会社の信頼につながっていきます。
その信頼こそが、次の仕事や新たな仲間を呼び込む原動力になるはずです。駐在員として私が果たすべき役割は、この好循環の起点をつくり、現地化を推進することです。
一方で、“商売感”は、同じ環境や顧客、メンバーの中にいるだけでは磨かれにくく、意識的に鍛える必要があります。
そのためタイ人社員に対しては、過度に干渉はせずとも、できるだけ深く関わることを心がけ、トレンドをアップデートしつつ、自身の成功や失敗の経験も共有しながら、商売感を共に磨いていきたいと考えています。
やはり最大の目標は、当社の持続的な成長基盤をしっかりと築くことです。現在進めているバリューチェーン構築は、その基盤を強くするための中核的な取り組みであり、これを形にすることで商社としての提供価値が高まり、結果として業績の向上にもつながると考えています。
また、かつて私の上司が自身の挑戦を後押ししてくれたように、上司という立場になった今、私がタイ人社員一人ひとりの挑戦を支えたい。チームメンバーのことを一番に応援しながら、一丸となってビジネスを創り上げていくことを目指しています。
山田 祐也 氏
Steel Department General Manager
HANWA THAILAND CO., LTD.
阪和興業に2011年新卒入社。東京本社で建設資材の営業に7年間従事後、人事部で採用・研修を5年間担当。北米での営業研修を経て、2024年よりタイ赴任。現在は阪和タイランド鉄鋼部門で、トレーディングを通じた既存取引の拡大や新規顧客・事業開拓を担う。

THAIBIZ編集部
白井恵里子


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