カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2023.02.28
バンコク日本人商工会議所(JCC)は21日、2023年新年景気討論会を開催し、金融保険部会長と経済調査会長の基調報告、自動車部会などの部会報告の後、2023年の景気展望をテーマに来場者アンケートを実施、その結果に基づいたパネルディスカッションも行われた。
金融部会の豊田尚部会長(三井住友銀行)の基調報告「タイ経済の展望と見通し」では、タイ経済回復のカギを握ると見られている訪タイ外国人旅行者数について、2019年の3992万人をピークに新型コロナウイルス流行に伴い、2021年には43万人まで急減したものの、「タイ政府が2022年10月1日に入国制限を廃止したことで、2022年の累計外国人旅行者数は1115万人まで回復した」と説明。「2023年1月以降は中国人観光客が入国していることから2023年は年間で3000万人を超える可能性もある」との見通しを示した。同氏はまた、「ドル円は緩やかに円高推移すると予測」したほか、タイ中央銀行の「政策金利は現在1.5%だが、2.0%まで利上げする可能性がある」との予想を明らかにした。
一方、調査会長の黒田淳一郎ジェトロ・バンコク事務所長は「在タイ日系企業の動向」についての基調報告で、JCCが実施した2022年下期の日系企業景気動向調査とジェトロの2022年度アジア・オセアニア進出日系企業調査の主要項目を紹介するとともに、タイ投資委員会(BOI)のデータを引用し、「2022年の外国資本によるタイへの投資金額(認可ベース)」では、金額、件数とも日本が1位」だったものの、「中国と台湾との差が縮まっている」と指摘。景気動向では、「2023年上期はインバウンド増加、原材料不足の改善などの期待から改善の見込み」とした。
続いて各部会報告に移り、自動車部会の山下典昭部会長(トヨタ自動車)は、2022年の総市場(タイ国内販売台数)実績は前年比12%増の84万9000台になったと報告。同年のメーカーの国別シェアでは日系が85%と前年の87%から低下する一方、欧米系が前年の7%から9%に上昇、中国系は「BYDやNETAの新規参入もあったものの、MGがシェアを落とし、前年比微増の5%にとどまった」ことを明らかにした。さらに電気自動車(EV)市場については、「xEV市場は各社のモデル導入に伴い年々伸長」しており、ハイブリッド車(HEV)がxEV全体の74%(前年76%)を占め、プラグインハイブリッド(PHEV)が14%(同20%)とシェアを減らす一方、バッテリーEV(BEV)が前年の4%から13%に急拡大したと報告した。さらに2023年の4輪車市場について、販売台数は前年比2~6%増の870万~900万台、輸出は同9%増の1050万台になるとの予測を明らかにした。
電気部会の伊藤秀和部会長(パナソニックソリューションズタイ)は、コロナ流行による在宅需要の高まりからテレビ、冷蔵庫、洗濯機は2020年に過去最高の販売台数を記録した後、減少に転じたと報告。2022年の主要品目の輸出先では、テレビ、冷蔵庫、エアコン、洗濯機、HDD/コンピューター関連機器のすべてで、米国がトップになったと報告。特に冷蔵庫、エアコンのシェアは2019年の5~6%台から、2022年には20%前後に急増したが、これは米中貿易摩擦が影響したとの見方を示した。また2023年の展望では、国内市場については「物価の上昇傾向による市況回復の遅れが懸念される一方、中心産業である観光業の回復等による需要回復を期待」しているほか、輸出では「最大仕向け地の米国市場はインフレによる個人消費の減速を懸念」する一方、「エアコンは継続的に旺盛な需要を見込む」などと予想した。
第3部のパネルディスカッションではまず部会報告の延長で農水産食品部会の坂倉一郎部会長(タイ味の素)と流通小売部会の尾本正利部会長(イオンタイランド)がそれぞれ、2022年のレビューと2023年の見通しについてスピーチ。その後、会場の参加者へのアンケート調査が行われ、2023年のタイ景気の予想では、「良くなる」が92%、「悪くなる」が8%となったほか、タイ国内景気における最大のプラス要因は何かとの質問では、「タイ観光産業の復活」が86%とトップ、「世界経済の持ち直し」が8%で2位だった。
これらのアンケート調査結果を受けて、坂倉氏は「(タイ)国内では観光業の復活が非常に大きい。特に都市部が一番影響を受けると思われがちだが、実際には地方での影響がもっと大きいとみている。コロナの中で需要がかなり下がっていた。観光が戻ることで地方の活性化が非常に大きくなると思っている。外食産業は非常に厳しい時代を迎えたが、観光により屋台を含め復活してくるのでは」とコメントした。一方、尾本氏は「消費面では顧客の収入層によって時間差が現れるだろう。富裕層は現状のインフレの中でも活発に消費されている一方で、中間層以下は家計債務が過去最高となっている中で、3年間のコロナ禍で傷んだ財布を立て直すのが非常に厳しい状況だ。この層に観光や輸出の関連産業の利益が及ぶまで半年から1年ぐらいの時間差があるのでは。本格的にすべての消費者層に回復が行き渡るのは来年になるだろう」との見通しを示した。
一方、JCCの加藤丈雄会頭(タイ三井物産)は、アンケート結果について「観光産業の持ち直しから、時差を伴いながら中間層に届き、各業界で景気が良くなっていくという声が多かったということだろう」と総括。また、「今は選挙前で各党ともポピュリズム華やかな政策提案があり、どこの党が勝利しても最低賃金はもっと上がり、労働力の不足がもっと深刻になるだろう」とする一方、「タイの経済界の方々は政治の継続性では楽観的な意見を持っており、予算や政策を考えた時には今の政策がおおむね継承されるのではとの声もある」と報告した。
パネルディスカッションの後半では、「2023年に注目されるビジネストレンド」をテーマに再びアンケート調査を実施。「バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済はどのような影響があるか」との質問には、「大きなチャンスがある」が14%、「多少のチャンスがある」が36%、「影響はない」が29%、「悪影響がある」が1%、「わからない」が21%という回答結果だった。また、「中国企業のタイ進出の影響は」との質問には「プラスの影響がある」が21%、「マイナスの影響がある」が41%、「影響はない」が19%、「わからない」が20%だった。さらに「今後5年間の貴社のタイでの事業展開は」との質問に対しては、「拡大する」が71%と最も多く、「現状維持」が25%で、「縮小する」も4%あった。
これらの調査結果について、坂倉氏は「タイを含めASEANの人は若者も含めてサステナビリティーには非常に敏感だという調査結果もある。サステナビリティーはここ数年で当たり前になってくるだろう。このため早めに投資をして、早めに回収していかないと、数年たつと周りは皆やっていて、遅くなってしまう状況が出てくる。直近ではプラスチックの削減が非常に重要になってくる。環境や社会課題に敏感なZ世代にどのように対応していくのか。特にデジタルリテラシーが非常に高い人たち、マスメディアをあまり見ない人たちにどうやってサステナビリティーの情報を伝達していくのかがビジネスチャンスになるのでは」との見方を示した。
また、伊藤氏は、中国企業のタイ進出に関して、「特に電機業界では韓国企業、中国企業は非常に大きなコンペティターだ。圧倒的なコスト(競争力)から始まったが、中国という非常に大きな市場を背景に、品質、デザイン、戦略、経営のスピードがかなりのものになってきている。中国企業に対する脅威を皆さん感じられているのかなと思う」と指摘。その上で、われわれは何で中国企業に勝っていくのかと自問し、「状況が複雑化するほうがチャンスがあるのでは。それがBCGかもしれないし、環境などいろいろな切り口があり、日本企業が勝つために糸口を見つけたい」と訴えた。
そして山下氏は、BCGに関しては自動車業界でいえばカーボンニュートラル、電動化であり、タイでは部品メーカー、サプライヤーがどうなるかを注視していかなければならないと強調。一方、中国企業について、シェアは現在5%だが、「今後、現地生産をやっていくことになるので、確実に伸長してくると思っている。中国メーカーがどこまで伸びるかは慎重に見ていかなければならない」との認識を示した。
TJRI編集部
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