カテゴリー: カーボンニュートラル, バイオ・BCG・農業
公開日 2023.12.26
日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所は11月29日、タイ投資委員会(BOI)、東部経済回廊事務局(EECO)と共催で、「カーボンニュートラル達成に向けたサステナブルビジネスセミナー2023」と題するウェビナーを開催した。今回はタイ温室効果ガス管理機構(TGO)とEECO、タイ中央銀行(BOT)が、脱炭素化の政策やエネルギー・トランスフォーメーション向けた支援策などを紹介したほか、日本とタイの民間企業が脱炭素化達成に向けた事業と協業の可能性などを発表した。
目次
同セミナーではまず、ジェトロ・バンコク事務所の黒田淳一郎所長が開会あいさつし、「カーボンニュートラルに向けた取り組みは世界共通のアジェンダとなり、タイと日本を取り巻く環境も大きく変化する中で両国の協力関係も新たな形に変化してきている。そのような中で、投資促進の支援、特に脱炭素化やデジタル、バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済に関する新規投資を促進することを目的に、2022年1月にジェトロ・バンコクはBOI、EEC事務局と、協力の覚書(MOU)を締結・更新した」と報告した。
さらに同所長は、「カーボンニュートラルの実現と持続的社会の共創は、各国の政策だけでなく、民間の活動がなければ実現できない。ジェトロは、BOI、EECOと連携して、本日のウェビナーを通じて、日本とタイの企業が新たなビジネスチャンスをつかむきっかけを作り、日タイさらにはASEAN全体のカーボンニュートラルに向けた新たなチャレンジと連携構築への積極的な取り組みを支援していく」と訴えた。
続いてタイ投資委員会(BOI)のナリット長官が登壇。「現在、エネルギー省は『ユーティリティ・グリーン・タリフ』の開発を進めており、将来は産業部門にクリーンエネルギーを供給する主要な仕組みとなる」とした上で、「タイは運輸部門における二酸化炭素削減を重視している。政府が国内での電気自動車(EV)普及を促進する施策『EV3.0』を導入したが、『EV3.5』に引き継いでいく」と報告した。
同長官はまた、「政府とBOIは、日本の自動車メーカーが内燃機関(ICE)車からハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)、バッテリーEV(BEV)、燃料電池車(FCEV)、水素エンジン車といったエネルギー削減やクリーンエネルギーを使用する新技術への転換を重視している。BOIは最近、『自動車産業の高度化に向けた投資促進措置』を承認した。この措置は、生産効率の改善のために自動化システムを導入し、クリーン技術やエネルギー削減技術を活用する自動車を開発する計画を持っている自動車メーカーに対して、法人税を免除するものだ」と説明。さらに、BOIはバイオ・コンプレックスの推進や、温室効果ガス排出削減のためのカーボンクレジット制度の推進などで、新たな投資奨励策も準備していることを明らかにした。
続いて東部経済回廊(EEC)のチュラ事務局長が講演し、BCG経済の支援におけるEECの役割について「2018年から2023年8月までのEEC地域における投資データによると、BCG経済に関連する投資額は1400億バーツ以上で、そのうち日本の民間企業による投資は112億バーツ以上、BCG経済への投資の8%を占め、持続的に拡大するトレンドにある」と指摘した。
同事務局長によると、EEC事務局は経済特区(SEZ)における事業者へのインセンティブを検討している。持続可能性に配慮した事業の実施や、周辺地域社会への貢献などがインセンティブ付与の重要な要素の一つとなり、「グリーン経済と循環型経済における技術やイノベーションへの投資を促進したい。具体的には、①エネルギー技術:クリーンエネルギーやスマートグリッド、グリーン水素エネルギーなど②リサイクル技術:使用済み製品管理(End-of-life Management)に関する技術など③炭素管理技術:二酸化炭素(CO2)回収・利用・貯留技術(CCUS)やカーボンクレジット取引の促進など―に取り組む企業を対象としている」と説明した。
次に、タイ温室効果ガス管理機構(TGO)のローンペット・ブンチュアイディー副事務局長がタイにおけるカーボンクレジットについてレクチャーした。タイのカーボンクレジットの仕組みは、国内レベルと国際レベルで異なり、まず国内レベルでは、タイ自主排出削減プログラム(T-VER)があり、国内炭素市場でカーボンクレジットを取引できる「スタンダードT-VER」と、国内と国際炭素市場の両方でカーボンクレジットを取引できる「プレミアムT-VER」の2種類に分けられると説明。国際レベルでは、タイと日本の「二国間クレジット制度(JCM)」があり、日本が温室効果ガス削減プロジェクトに技術や資金を支援するが、温室効果ガス排出削減・吸収量はカーボンクレジットとして計算し、両国に配分する。現在までに、約4000トンが認証されたと報告した。
また、同副事務局長は「カーボンニュートラルやネットゼロを実現するためには、炭素排出をコストとし、炭素削減が利益になることが重要であり、カーボンプライシングが必要だ」と締めくくった。
さらに、東部経済回廊事務局(EECO)のチョラチット・ヴォラワンソー・ヴィラクン事務局長補(マクロ経済担当)がEECにおける新産業の投資家誘致のための持続可能な発展に関する説明を行い、「EECの12のターゲット産業のうち、①医療・健康産業②デジタル産業③次世代自動車産業④BCG産業、⑤サービス産業−という5つが主要グループだ。BCG産業でポテンシャルがある分野は、再生可能エネルギーやバイオ燃料・バイオケミカル、先端農業・バイオテクノロジー、機能性食品などだ」と報告した。
そしてEECの投資恩典措置として、法人所得税の免除は最大15年間で、税制措置以外ではでは長期滞在ビザなどがあるとした。また、EEC事務局で工場の設置許可証などの44種類の許可証を発行でき、2024年1月1日からデジタルチャンネルを通じたワンストップサービスの提供を始めることを明らかにした。
第1部での最後ではタイ中央銀行のタリット・パンピエムラット総裁補(金融機関政策担当)が脱炭素化に向けた企業部門の転換を支援する銀行部門の役割について講演した。特に環境面で持続可能な経済活動の分類基準である「タイランド・タクソノミー(Thailand Taxonomy)」について、「タイランド・タクソノミーのレベルは交通信号のように、①グリーン:環境に優しく、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」の目標に沿った経済活動②アンバー(琥珀色):まだネットゼロ・エミッションに達成していないが、今後グリーンとなる可能性がある活動③レッド:脱炭素化目標に貢献しない活動−の3段階に分類されている」と説明。「フェーズ1」は2023年6月にエネルギー部門と運輸部門から始まり、その後は製造業、農業、建設・不動産、廃棄物管理部門に拡大していく予定だとの方針を示した。
第2部の「ビジネスモデルとパートナーシップ」では、「BLCP Power」、「Kemrex」、「Azbil (Thailand)」、「Algal Bio」、「ECOMMIT」の日タイ企業5社が事業概要を紹介した。このうちタイ側のKemrexは「鋼スクリュー杭基礎」の技術を提供しており、掘削せずに地面に打ち込むことが可能で、掘削や建設現場からの土の運搬による二酸化炭素排出量を削減できる。また、撤去後に鋼スクリュー杭基礎を再使用、リサイクルすることも可能だ。一方、日本側のECOMMITは、不用品を回収し、選別して再販する事業を行っている。具体的には伊藤忠商事と共同で、消費者から衣類を回収し、選別して再販売、再資源化する事例では、これまでに日本で6000トン回収できたと報告した。
TJRI編集部
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