THAIBIZ No.157 2025年1月発行日タイ企業が「前例なし」に挑む! 新・サーキュラー エコノミー構想
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公開日 2025.01.10
日本の首都圏を縦横無尽に走る首都高速道路。1962年の開通以来半世紀以上にわたり首都圏の大動脈として機能してきた。総延長は327.2キロメートルにおよび、ネットワークはほぼ完成を迎えた今、直面する課題は老朽化する構造物の維持管理である。首都高グループはそこで培った最先端の技術とノウハウを活かし、次なるステージとして海外展開を進めている。2024年6月には「首都高インターナショナル・タイランド株式会社」を設立し、急成長するタイのインフラ課題に日本の技術で挑んでいる。
首都高速道路株式会社 海外・社会インフラ事業部 海外事業推進課
(首都高インターナショナル・タイランド株式会社 取締役) 益子直人 氏
首都高速道路株式会社 首都高速道路株式会社は首都高速道路公団(1959年設立)の民営化により2005年に誕生。首都高速道路の計画、建設、維持管理などを通じ、効率的な道路交通の円滑化を図り続けている。2024年6月には、SITを設立。道路をはじめとしたインフラ整備や維持管理等のコンサルティングサービスの提供を行う。
木下 首都高グループは、日本国内で多くの実績を築かれていますが、御社の設立経緯、海外展開を視野に入れた背景について教えていただけますか。
益子 首都高速道路株式会社は、1959年に設立された首都高速道路公団の民営化により2005年に誕生しました。1日約100万台が利用する首都圏の大動脈である首都高速道路の計画、建設、維持管理、更新、運営など、高速道路に関する幅広い事業を担っています。さらに、駐車場事業や社会インフラ支援事業など、多様な分野でグループ会社一丸となって積極的に取り組んでいます。
タイと首都高の関係は、1980年代のJICA長期専門家派遣に始まり、その後のタイ運輸省道路局(DOH)、タイ高速道路公社(EXAT)、バンコク高速道路・地下鉄(BEM)などとの技術協力覚書の締結に基づく技術交流を継続的に実施してきました。2011年にはバンコク駐在員事務所を開設し、事業強化を行う中で、高度化するタイ側のニーズに応えるため、2024年6月に現地法人であるShutoko International(Thailand)Company Limited(以下、「SIT」)を設立しました。
現在、タイの高速道路(MortorwayおよびExpressway)は総延長が500キロメートルを超え、本格的な高速道路ネットワーク構築の時代に突入しています。また今後は、建設から30年を超えることから構造物の老朽化による損傷が大きな課題になることが見込まれます。高度に都市化された首都圏内の高速道路ネットワークの構築、交通運用および維持管理の経験・ノウハウを有する首都高グループは、タイのさらなる発展に貢献できるものと自負しております。
木下 日本で培った高度な技術をタイに導入する際、現地のニーズや社会背景にどのように適応させているのでしょうか。そのプロセスについても教えてください。
益子 首都高グループは、インフラの高齢化が急速に進むなか、維持管理を担う技術者不足に備え、インフラの効率的な維持管理を支援・実現するスマートインフラマネジメントシステム「i-DREAMs®」を開発、運用しております。タイでも人手不足が深刻化することが予想される中、人の手による作業を極力減らしながら、維持管理の効率化を図ることが必要です。
そのシステムを構成する重要なツールが「InfraDoctor®」です。この技術は、車両(写真1)に搭載した3次元計測装置から構造物に向けてレーザーを1秒間に200万回照射し、測定対象を立体的に捉えることができます。
同時に撮影した全方位動画と各種台帳や地図データをGISに搭載することで、現場に赴くことなく工事の安全性確認(写真2)や図面作成および舗装の損傷状況の図化などシステム上で把握することができ、業務の効率化に貢献できます。
これらの技術をJICAのSDGsビジネス支援事業を活用し、DOHが管理する橋梁区間(約6.2km)にてシステムの導入と試行運用を実施しました。
木下 タイでの業務において、どのような課題に直面されていますか。また、それらの課題に対して、どのように取り組まれているか、具体的なお話を聞かせてください。
益子 現在、タイの道路構造物は建設から30年を経過した区間が30%を占めます。一方で首都高では50年を経過した区間が30%を占めており、その一部の構造物は更新時期を迎えています。更新は構造物の性能向上が見込める一方で多くの労力を要します。
そのためタイの道路管理者に対して維持管理の重要性を訴え続ける必要性を感じています。2023年5月と12月に実施したInfraDoctor®の操作説明会や理解促進セミナーの開催(写真3)はその一環です。今後も、タイの道路管理者や関係者へ適切な維持管理の啓蒙活動を継続します。
また、首都高グループが持つ知見やノウハウを、タイ社会にどのように適応させるかも大きな課題のひとつです。例えば、取得した点群データには正確な位置情報を付加する必要がありますが、タイでは電子基準点などの整備が不足していました。これに対しJICAによる支援を通じて整備した社会基盤を活用することで、必要な精度を確保することができました。
また、取得した点群データを確認すると、首都高速では路肩に設置する排水がタイでは車道内に設置されている区間があり、検知システムがそれを「舗装の損傷」と誤認識する課題も発生しました。前例がない課題に対しては、その都度日本国内のエンジニアがエラーつぶしを適切・丁寧に行い、地道な取り組みを通じて、精度の高いデータに基づくシステム構築を試みました。
木下 公的機関との連携が、御社の海外事業にどのような役割を果たしているのか、また今後の展望についてお聞かせください。
益子 JICAなど公的機関の支援を活用することが非常に有益であると実感しています。首都高グループがタイとの関係構築を深化できたのも、JICAの長期専門家派遣制度やSDGsビジネス支援事業を通じて構築された人的ネットワークが大きな役割を果たしていると思います。また、現地機関との調整・折衝はJICAの仲介をいただくことで円滑で確実な進捗を得ることができました。こうした官民連携は、日本の海外展開における大きな強みだと感じています。
SITはまだ誕生したばかりです。首都高グループ全体のバックアップ、地元企業や日系企業の力をお借りしながら、これまで以上にタイとの関係を深化させ、「チームとなって」タイのさらなる発展に貢献できる企業になることを目指します。
THAIBIZ No.157 2025年1月発行日タイ企業が「前例なし」に挑む! 新・サーキュラー エコノミー構想
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JICAタイ事務所
Representative
木下 真人 氏
タイの社会課題解決につながる日系企業のビジネス支援を担当。インドネシア、中国、シンガポール、トリニダード・トバゴなどで15年以上にわたり海外のJICA、日本大使館の国際協力業務に従事。2008年以来二度目のタイ赴任。International Institute of Social Studies 開発学修士。
Email:[email protected]
JICAタイ事務所
31st floor, Exchange Tower, 388 Sukhumvit Road, Klongtoey
Bangkok 10110, THAILAND
TEL:02-261-5250
Website : https://www.jica.go.jp/overseas/thailand/office/index.html
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