廃棄米を独自技術でアップサイクル バイオマスプラスチック樹脂が変える未来

THAIBIZ No.159 2025年3月発行

THAIBIZ No.159 2025年3月発行シンハーが明かす「勝てる」協創戦術

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廃棄米を独自技術でアップサイクル バイオマスプラスチック樹脂が変える未来

公開日 2025.03.10

日本をはじめアジアの人々の多くが主食としている米。タイでも年間2,000万トン余りが生産され、うち800万トン強が輸出に回されている。しかし、成分等の基準をクリアできず規格外となった米が大量に廃棄されていることはあまり知られていない。

この未活用の廃棄米に着目し、新たな価値を生み出しているのが株式会社バイオマスレジンホールディングスだ。同社は、独自技術で廃棄米をバイオマスプラスチック樹脂へとアップサイクルし、環境に優しい製品の開発・普及を進めている。そして今、CO2排出量の削減や海洋汚染の緩和が期待される画期的な技術を活かし、タイの環境問題解決に挑んでいる。


株式会社バイオマスレジンホールディングス 代表取締役 CEO 神谷 雄仁 氏

株式会社バイオマスレジンホールディングス 
2020年3月東京に設立。2017年11月に国内初の拠点工場として国内有数の米生産地である新潟県南魚沼市にバイオマスレジン南魚沼社を設立。米を中心とした植物由来のバイオマスプラスチック樹脂製造工場にて量産化を開始し、国内外で複数の提携工場設立。現在は高機能素材の開発に取り組み「農作物や食品残渣など」の高度利用として新素材・新技術開発に注力。


木下 御社の事業概要と、御社が取り組んでいる植物由来のバイオマスプラスチック製品の特徴について詳しく教えていただけますか。

神谷 当社グループは、政府備蓄米や古米などのうち食用としても飼料としても利用できない米を原料として、独自技術を用いてバイオマスプラスチック樹脂を製造しています。

展開する主なブランドは、従来のプラスチック樹脂の代替となる「RiceResin(ライスレジン)」と、生分解性プラスチック樹脂の「Neoryza(ネオリザ)」の2種類です。さらに最近ではネオリザを使用した最終製品のブランド「SARIINA(サリーナ)」を立ち上げ、日用品や生活雑貨などの製品展開を進めています。

ライスレジンは、非食用米とポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)といった一般的なプラスチック素材を混ぜ合わせて製造しており、焼却時に排出されるCO2を削減できるほか、原材料としての化石燃料の使用を減らすことが可能です。ネオリザは、自然界に存在する微生物の働きによって、最終的にCO2と水に完全に分解されるため、仮に海洋へ流出したとしても汚染を引き起こしません。

バイオマスプラスチック樹脂を原料とした製品は、これまでに800種類以上が商品化されています。そのラインナップには、カトラリーやタンブラーといった食器類、歯ブラシやヘアブラシなどの衛生用品、子ども向けの玩具や文房具、レジ袋やごみ袋など様々な用途の製品が含まれます。さらに、企業向けのノベルティや記念品にも活用され、日本郵便をはじめとする大手企業にも採用されています。
 

バイオマスプラスチック樹脂を用いた商品

木下 御社が、海外市場で特にタイに着目をした理由と、現在の海外進出状況について教えてください。

神谷 東アジア、東南アジア、南アジアは、世界有数の米の生産地ですが、どの国も廃棄米の問題を抱えています。また、プラスチックによる環境汚染が世界的に深刻化する中、こうした課題に対し、私たちは「そのまま廃棄されてしまう米に独自技術を掛け合わせることで、新たな価値を生み出し、海外の社会課題解決に貢献できる」と考えました。

まずは、世界最大の米生産国である中国で技術供与を開始しました。その後、ベトナムに自社工場を建設し、バイオマスプラスチック樹脂の製造・販売を本格的に展開しました。米の輸出量で世界第3位を誇るベトナムでは、現地生産、現地消費(地産地消)のモデルを確立。これを踏まえ、同じく主要な米生産国であるタイでも事業化を見据え、JICA案件化調査事業を活用し、調査を実施しました。

タイは、政府がいち早くレジ袋の全廃に取り組むなど、環境意識が高い国です。この点も、事業展開を決める上で重要な要素となりました。また、かつては世界最大の米輸出国だったタイは生産量が多いため、余剰米も相当な量にのぼることが調査により明らかになりました。現在は本格的な事業化に向け、現地のプラスチック製造会社と当社技術活用について協議を進めています。
 

タイ国内の倉庫に山積みされている余剰米

木下 タイやアジア諸国では米の生産量も多く御社の事業には大きな可能性がありそうですね。一方で、タイでの事業化を進める上で、どのような課題が想定されるでしょうか。

神谷 日本でバイオマスプラスチック樹脂の生産を始めた当初、原料が米という天然素材であるため、安定した品質での量産が想像以上に難しいという壁に直面しました。しかし、粘り強く技術開発を続けた結果、解決の糸口を見出し、一気に普及を推し進めることができました。

タイでも同じような課題に直面する可能性は十分にあると考えています。しかし、日本で培った経験を活かしながら、乗り越えていくつもりです。また、タイ米と日本米の特性の違いや、文化的な背景を考慮しながら、地産地消を重視した事業展開を進め、タイの環境問題の解決にも貢献していきたいと考えています。

木下 JICAの支援制度を活用して得た気づきや、今後海外展開を考えている日本企業へのアドバイスがあれば、ぜひお聞かせください。

神谷 足場のない未知の海外市場に踏み出すにあたり、JICAなど政府機関の支援制度を活用することは、非常に有益だと実感しました。案件化調査ではタイの省庁など公的機関の関係者や業界団体のトップなど、通常では接触が難しい方々からも話を聞くことができました。

私自身、これまで何度もタイを訪れ、現地のニーズや課題に触れてきましたが、案件化調査を通じて初めて知った事実も多く、公的機関の持つ影響力の大きさを改めて実感しました。また、JICA事業の報告書は求められるレベルが高く、その基準を満たすために考えを深める機会が増え、多くの気づきを得ることができました。結果として、事業の方向性や課題に対する理解がより明確になったと感じています。

特に海外展開では、単に製品を売り込むのではなく、ノウハウを持ち込むことが重要です。そのためには現地の市場や文化、原料の特性を理解した上で、技術を適用できる仕組みを構築することが求められます。JICA事業を通じて、この点への理解が深まりました。

タイでのこれまでの調査や現地企業との対話を通じ、特に若い世代のサステナビリティへの意識の高さを強く感じています。私たちもサステナブルな未来の実現に向けて、自社の技術をどのように現地に適用できるかを徹底的に考え抜く必要があると考えています。そして、常にこうした意識を持ちながら、国や世代を超えた連携を大切にし、新たなイノベーションを生み出し続けていきたいと思います。

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JICAタイ事務所
Representative

木下 真人 氏

タイの社会課題解決につながる日系企業のビジネス支援を担当。インドネシア、中国、シンガポール、トリニダード・トバゴなどで15年以上にわたり海外のJICA、日本大使館の国際協力業務に従事。2008年以来二度目のタイ赴任。International Institute of Social Studies 開発学修士。
Email:[email protected]

JICAタイ事務所

31st floor, Exchange Tower, 388 Sukhumvit Road, Klongtoey
Bangkok 10110, THAILAND
TEL:02-261-5250

Website : https://www.jica.go.jp/overseas/thailand/office/index.html

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