日系企業とアジアをつなぐJAXAの現地戦略 宇宙ビジネスの可能性を広げる挑戦

THAIBIZ No.162 2025年6月発行

THAIBIZ No.162 2025年6月発行激動するタイ市場を走破せよ! 三菱自動車が挑む日本のHEV最前線

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    日系企業とアジアをつなぐJAXAの現地戦略 宇宙ビジネスの可能性を広げる挑戦

    公開日 2025.06.10 Sponsored

    「ロケット」や「宇宙飛行士」の印象が強いJAXA。しかし、近年は宇宙市場拡大を見据えて宇宙戦略基金の運用を開始するなど、ビジネス支援の取り組みも加速化している。

    アジア太平洋地域で唯一のJAXA海外拠点であるバンコク駐在員事務所では、地域の社会課題解決と宇宙ビジネスの共創を目指し、民間企業と現地機関の橋渡しに取り組んでいる。JAXAの新たな挑戦について、中村全宏所長に話を聞いた。

    第3回】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)


    JAXAバンコク駐在員事務所 所長 中村 全宏 氏

    国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)バンコク駐在員事務所 アジア太平洋地域における宇宙関連技術や研究開発の国際協力を推進する拠点。各国の宇宙機関や関連機関との連携を深め、共同プロジェクトの支援や人材交流支援、宇宙ビジネス共創支援を行うほか、地域各国の宇宙政策や宇宙機関の技術動向、宇宙ビジネスの動向などの調査分析にも取り組む。これにより、日本と地域諸国との宇宙分野における連携強化と相互発展を図っている。

    お問い合わせ TEL: 02-104-9270 Website: www.jaxa.jp


    木下 JAXAがどのような目的で活動し、なぜタイに拠点を構えているのか、ご存じない読者も多いと思います。まずはJAXAの役割やタイ進出の背景について教えてください。

    中村 JAXAの目的は二つあります。ひとつは地球規模の課題を解決し、持続可能な社会経済の発展に貢献すること。もう一つは、人類に新たな知見や価値をもたらすために宇宙を活用することです。

    JAXAは日本政府の宇宙政策の実施機関として研究開発や技術支援を行い、宇宙経済の拡大・市場創出にも取り組んでいます。特に後者のビジネス支援は比較的新しい取り組みで、まだ広くは知られていないかもしれません。

    JAXAがタイに拠点を設けたのは、1987年に前身のNASDAが海洋観測衛星「もも1号」を打ち上げたことがきっかけです。衛星データの受信には東南アジアでの地上設備が必要だったため、各国と協議し、最も積極的だったタイに1988年受信局を設置し、日本人技術者が常駐しました。

    その後、技術進展により地上局は不要となり受信局はタイへ譲渡。以降は衛星データの活用促進を目的に、地域機関と連携した研究や実証に取り組んできました。

    木下 最近は研究フェーズから実利用・ビジネスのフェーズへと移り、宇宙が“民間企業の挑戦の場”にもなりつつあります。JAXAが進めるビジネス支援にはどのようなものがあるのでしょうか。

    中村 2008年の宇宙基本法施行以降、宇宙の商業利用を促進する制度環境が整い、日本では新規参入がしやすくなりました。JAXAもこうした政策に対応し、役割を進化させながら民間連携を強化しています。

    従来は、JAXAと日系企業との間の宇宙オープンイノベーションパートナーシップ「J-SPARC」が中心でしたが、2024年から運用がはじまった宇宙戦略基金により、宇宙市場創出を目指す企業の挑戦をより一層支援しはじめました。

    当事務所では、優れた技術力による商品やサービス、ソリューションを持ち、タイをはじめアジア太平洋地域に海外展開意欲のある企業と、現地ニーズを持つプレイヤーとの間のマッチング支援に注力しています。

    木下 ASEANや新興国との連携で、特に注力しているテーマはありますか。

    中村 この地域には、自然災害対応、農業の生産性向上、通信インフラの拡充、環境汚染改善、経済格差是正など共通的な課題があります。

    これらの解決には、宇宙技術を活用したデジタル・通信イノベーション、そして産業化による持続可能性の確保が重要です。JAXAも、技術的のみならず社会的・経済的側面からの貢献が求められています。

    タイでは、タイ地理情報・宇宙技術開発機関(GISTDA)と協力し20年以上にわたり衛星データ活用による災害対応・農業支援を推進してきました。Hydro Informatics Institute(HII)とも連携し、水資源管理や洪水早期警戒の高度化を進め、農業や水資源管理に貢献しています。

    現在はこうした成果を活かし、社会実装フェーズへと移行しています。自然災害対応についてはJAXAがリードし、GISTDAをはじめとする地域の宇宙機関や防災当局、国際機関等が加盟する衛星地球観測ベースの災害対応枠組み「センチネル・アジア」を2006年に設立し、現在127機関が加盟し機能しています。

    災害は地域全体で激甚化・頻発化しています。これからは公的機関だけでなく民間とも連携し、人命を守りつつ経済損失を最小化する災害対応のシステムやサービスを共に構築することも必要ではないかと考えています。

    衛星データを基に解析した3月28日のミャンマー地震後のバンコク都心の建物被害推定マップ

    木下 実際に、日系企業がJAXAの支援を活用するにはどのような方法がありますか。

    中村 支援内容は企業ごとの強みと相手方のニーズに応じて異なります。当事務所では丁寧にヒアリングし、現地ニーズと照らし合わせたマッチング支援を行います。資金面では宇宙戦略基金があります。10年間で1兆円規模の資金支援を目指し、各募集テーマが公開され、企業の皆さまの応募を歓迎しています。基金に関しても当事務所ではアジア太平洋地域に海外展開を目指す企業の案件を支援しています。

    また、GISTDA主催の「Thailand Space Week」(今年から「Thailand Space Expo」に改称)への参加や、「CONSEO(衛星地球観測コンソーシアム)」という宇宙コミュニティでの活動を通じて、企業との接点づくりにも取り組んでいます。CONSEOは約300法人が加盟し、JAXAがハブとしてコミュニティ運営を支えています。加盟は無料で義務もありませんので、関心のある企業はお気軽にご連絡ください。

    木下 JAXAの支援を受け、タイで具体的に動いている日系企業の事例を教えてください。

    中村 現在、小型衛星製造基盤の構築に向け、日本の製造業とタイの大学が連携するプロジェクトが進行中です。新規事業に挑む日新電機タイ、海外拠点構築を目指す由紀精密、就職機会を拡大したいKMUTNB(キングモンクット大学)など、各主体のニーズを結びつけた好事例です。今後は近隣諸国への展開も視野に入れています。

    また、水田からのメタン排出を削減し、カーボンクレジット化して農家の新たな収入源にする取り組みも進めています。GISTDAやカセサート大学、民間企業等と連携し、低所得農家の新たな収入源と環境対策を両立するプロジェクトとしてエコシステムの確立を目指して取り組んでいます。

    衛星データを用いた水田からのメタン排出削減の実証圃場の現地調査

    木下 最後に、技術はあるのに事業化が進まないという課題に悩む企業に向けて、アドバイスをお願いします。

    中村 「良い技術があっても、それだけでは市場は生まれない」という現実をまず受け止めることが重要です。日本国内の市場規模は限られており、欧米市場は競争が激しい今こそ、アジア太平洋地域という成長市場に目を向けていただきたいと思います。

    当事務所では、タイ政府やJICAなど日本の公的機関と連携し、企業の現地展開や社会課題解決を支援しています。単に技術を持ち込むのではなく、それを現地で“機能する形”に仕立てる仕組みづくりが私たちの役割です。共に課題解決に挑むパートナーを常に歓迎しています。どうぞお気軽にご相談ください。

    JICAタイ事務所
    Representative

    木下 真人 氏

    タイの社会課題解決につながる日系企業のビジネス支援を担当。インドネシア、中国、シンガポール、トリニダード・トバゴなどで15年以上にわたり海外のJICA、日本大使館の国際協力業務に従事。2008年以来二度目のタイ赴任。開発学修士、MBA保有。
    Email:[email protected]

    JICAタイ事務所

    31st floor, Exchange Tower, 388 Sukhumvit Road, Klongtoey
    Bangkok 10110, THAILAND
    TEL:02-261-5250

    Website : https://www.jica.go.jp/overseas/thailand/office/index.html

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