タイになかった「美味しい」トマトを作る 〜JACA 迫田昌社長インタビュー

THAIBIZ No.152 2024年8月発行

THAIBIZ No.152 2024年8月発行タイ老舗メーカーのブランド再生術の極意

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タイになかった「美味しい」トマトを作る 〜JACA 迫田昌社長インタビュー

公開日 2024.08.09

温暖な気候に恵まれたタイは農業大国としても知られているが、実は通年で美味しいトマトを生産するには過酷すぎる環境だ。Japan Agri Challenge Asia Co., Ltd. (以下、JACA)の迫田昌社長は、タイに美味しいトマトがないことに着目し、日本の農業技術を土台にトマト農場をゼロから立ち上げた。さらに最近では、順調に生産量を拡大させている。迫田氏に、生産体系確立の経緯や生産拡大に向けた戦略について話を聞いた。

<取材・執筆=白井 恵里子>

JACAの迫田昌社長

トマト栽培には適さないタイで事業をスタート

Q. JACAについて教えてください

迫田社長:2015年にJACAを設立し、タイでトマト栽培を開始しました。現在はペッチャブーン県とチェンライ県にある二つの農場で、タイ人スタッフが中心となって「びじんトマト」を育てており、生産量は年々増加しています。

「びじんトマト」はタイの大手スーパー、300店舗以上の飲食店やホテルに卸しているほか、シンガポールやカンボジア、香港などアジア諸国6ヵ国へ輸出もしています。また、無添加トマトジュースの生産・販売に加え、日本の農産物の輸入事業も手がけています。

タイという熱帯地域で、日本の品種を使って1年中美味しいトマトを栽培し、適正価格でのマス供給を目指す会社は、極めて稀だと思います。

無添加トマトジュースも好評を得ている

Q. なぜタイでトマトを栽培しようと思われたのですか

迫田社長:タイ国内のスーパーであらゆる野菜やフルーツを調査したところ、日本産とのギャップが一番大きいと感じたのがトマトだったからです。美味しいトマトがない理由には、通年でトマトを生産するには過酷すぎるタイの気候の特徴がありました。

乾季は気温的にも湿度的にもトマトが育てやすく、市場にも比較的豊富に出回っています。しかし、高温度、高湿度、日照不足となる雨季は、トマトの生産量は通常の3割に留まるほど、生産管理が難しい環境です。

だからこそ「タイで甘くて美味しいトマトの市場を開拓しよう」と挑戦に踏み切りました。ただ、気候や環境が日本とは大きく異なるため、当然日本のやり方をそのまま持ち込んでも、上手くいくはずはありません。

最初は豪雨によりビニールハウスが全壊してしまったり、病気でトマトを全滅させてしまったり、失敗の連続でした。日本の農業技術をどうタイで応用すれば良いのかと5〜6年ほど試行錯誤した結果、頼れる日本人指導者の協力もあり、徐々に自分たちのやり方を確立していきました。

様々な苦難を乗り越え、生産量の拡大目指す

Q. 具体的にどのような苦労があり、どう乗り越えてこられたのですか

迫田社長:まず、トマトの安定的な生産体系の構築に苦労しました。独学で習得した方法で少量の栽培は成功しましたが、通年で安定した生産量を確保するには合理的な栽培方法が必要でした。

そのため、収集したデータに基づいて、人間が有効的にコントロールできる部分のみに絞って「やるべきこと」を追求。糖度や品質といった点で強みを持つ日本の農業技術を土台としつつ、生産性向上のためにデータを活用するオランダの技術も取り入れて何度も試験を重ねました。徹底的な研究が功を奏し、3年ほど前にようやく安定した美味しいトマトの生産が実現できたのです。

次に待ち受けていた困難は、生産と販売のバランスでした。安定的な生産が可能となり、需要も高まり売上が伸びていたので、生産量を増やし続けたところ、あるピークシーズンで余剰が生まれてしまいました。需要と供給のバランスを見ながら生産量を加減することが非常に困難でした。

営業をかけて販路を拡大しつつ、増えた分だけ多く生産する、という調整を継続的に行うことで、余剰生産の回避と生産の拡大を両立できるようになりました。

Q. 生産の拡大には、どのような戦略をお持ちですか

迫田社長:自社だけでは限界があるので、2023年から、ローカル農家に私たちの技術を伝授する「パートナー農家」の取り組みを開始しました。具体的には、信頼できるローカル農家に栽培方法を指導し、使用する資材を指定します。私たちと同じ方法で彼らが生産したトマトのうち、安全・品質基準を満たしたものを買取り、「びじんトマト」として販売しています。

「信頼性」がキーワードとなっており、農家の選定基準や買取り基準は厳密に定めていますが、現状ではこの取り組みが非常に上手くいっています。生産量は順調に右肩上がりとなっており、今後も年次20〜30%の増加を予定しています。パートナー農家の生産するトマトが、確実に私たちの目標生産量に貢献してくれています。

日本の農業技術で人々の食の幸せに貢献

Q. 持続可能な農業の実現のために、取り組んでいることは

迫田社長:私は、持続可能な農業の実現には、経済的に成り立つことが必要不可欠であると考えています。もちろん環境に負荷のかからない技術も必要ですが、農家の安定した生活や良好な経済状況があってこそ、初めてそれらに着手できるのではないでしょうか。

現在、複数農家とパートナーシップを組んでいますが、彼らの収入は増加しており、Win-Winの関係性を築けています。技術の伝承という意味でも、パートナー農家の取り組みは今後も広げていきたいと思っています。

また、規格外品の販路拡大や加工に取り組んでおり、トマトのフードロスはほとんどありません。輸入品においても規格外品をうまく売り切ることでフードロスの最小化に努めており、廃棄物削減に本気で取り組んでいます。食育を通じて私たちの活動を未来に繋げられるよう、日本人学校や幼稚園と連携して、トマト栽培やフードロスに関する講演や農場見学の機会提供なども行っています。

Q. 今後のビジョンについて教えてください

迫田社長:農業分野では素人だった私がここまで来られたのは、地道に試験と改善を続け、当たり前を徹底的に実践してきたからだと思っています。根底には「日本の農業技術で世界中のお客様の食の幸せに貢献したい」という強い思いがあり、「びじんトマト」や輸入農産物を「美味しい」と言って食べてくださるお客様の存在が日々の原動力となっています。

今後は、ローカル農家と協力しながら継続的にトマトの生産量を増やしつつ、輸入事業にもより一層注力していきます。茨城県のさつまいもや苺、北海道の長いも、岡山県の白桃やシャインマスカットなど、四季が感じられる野菜やフルーツを、生産者から直接仕入れています。日本の美味しい農産物をタイの人たちに楽しんでもらえるよう、「美味しい・安全・高品質・適正価格」をモットーに挑戦を続けていきます。

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THAIBIZ編集部

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