THAIBIZ No.152 2024年8月発行タイ老舗メーカーのブランド再生術の極意
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カテゴリー: 会計・法務
公開日 2024.08.09
企業間取引には、相手方企業が契約に従って債務を履行しないというリスクが伴う。万が一そのリスクが現実化した場合、交渉や訴訟によって解決を目指すこととなるが、相手方企業に対して債務の履行を命じる判決が確定したにもかかわらず、相手方がなお債務を履行しない場面も想定される。そこで今回は、金銭の支払を命じる判決が確定した場合の民事執行について概観する。
まず、前提として、相手方に対して金銭の支払を命じる判決が確定したからといって、相手方が任意に支払をするとは限らず、裁判所その他の機関が立て替えて支払ってくれるわけでもない。仮に相手方が任意に支払をしないのであれば、まずは、相手方に対して通知書等で支払を催促することとなるだろう。それでもなお支払わないのであれば、民事執行により相手方の意思にかかわらず強制的に債権回収を図るという手段を検討せざるを得ない。
金銭の支払を実現するための一般的な民事執行の手段は、相手方の財産の差押えである。すなわち、相手方の財産を差し押さえて強制的に換価し、その換価金をもって支払に充てるという方法である。
財産の差押えを行うためには、前提として、判決や裁判上の和解書などを取得することが必要である。そして、実際に民事執行を行う場面では、まず、裁判所に対して民事執行を担当する執行官の選任を求める申立てを行い、その後、執行局という裁判所とは別個の役所に対し、民事執行を開始するよう求める申立てを行う。
民事執行の開始後は、例えば不動産を差し押さえたのであれば、執行官の管理のもと、日本と同様に不動産が競売にかけられる。そして不動産が売却されれば、その売却代金から債権の回収を図ることとなる。預金を差し押さえた場合には、執行官が預金を回収し、これを債権者に対して交付するので、これによって債権の回収を図ることとなる。
ただし、日本と同様、差押えの対象となる財産は、差押えを申し立てる債権者自身が特定しなければならない。あらかじめ相手方の不動産や預金口座などの財産が具体的に分かっていれば特定も容易であろうが、何も分からない場合には、DBDに提出されている財務書類の取得、土地局での相手方名義の不動産の照会(確定判決を有する債権者による照会であれば、土地局は対応する)などの方法で、費用や時間をかけて相手方の財産を調査せざるを得ない。
調査の結果として何の財産も見つからない可能性もあれば、見つかったとしても、すでに抵当権が設定されていて債権回収が期待できない可能性もある。
そのため、紛争が発生する前に、相手方に対して定期的な財産状況の開示を求める、取引額が大きくなるときは保証や抵当権など担保の取得を試みる、取引限度額を設定し厳格に運用することで万が一のときのダメージの軽減を試みるなど、紛争が生じた場合を見越して事前の対策をとっておくことが望ましい。
なお、判決等を取得すればいつまでもずっと民事執行を試みることができるわけではない。民事執行が可能な期間は判決等の日から10年間に限られていることに注意が必要である。
最後に、債権回収の確実性を上げる方法として、これまでは小切手を振り出してもらう手段もあった。タイの小切手に関する法令には「小切手の不渡りを出した者には刑事罰を科す」という規定が存在しており、この刑事罰の存在がいわば担保となって、小切手の不渡りが生じにくいとされていたからである。
しかしながら、現在、この刑事罰を廃止し、小切手の不渡りがあっても刑事罰を科さないこととする方向での法改正が進行中である。そのため、今後、小切手の振出しを受けても不渡りとなる場面が増加するおそれがあることを念頭に置いておくべきであろう。
この点、日本では小切手の不渡りは大幅な信用力の低下や取引停止処分を招く。しかしながら、タイでは、関係金融機関における信用力は低下するかもしれないが、他の金融機関に不渡りの事実が通知されることはなく、基本的に取引停止処分ともならない。刑事罰が廃止されるとすれば、この意味でも、タイは日本よりも小切手の不渡りが生じやすい環境になるといえる。
THAIBIZ No.152 2024年8月発行タイ老舗メーカーのブランド再生術の極意
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GVA Law Office (Thailand) Co., Ltd.
代表弁護士
藤江 大輔 氏
2009年、京都大学法学部卒業、2011年に京都大学法科大学院を修了後、司法試験合格。2012年にGVA法律事務所に入所。 2016年より同事務所パートナー弁護士に就任し、2017年にバンコクでGVA Law Office (Thailand) Co., Ltd.を設立、同代表に就任。2021年より大阪に弁護士法人GVA国際法律事務所を設立し、代表を兼任。
URL : https://gvalaw.jp/global/3361
CONTACT : [email protected]
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