THAIBIZ No.154 2024年10月発行なぜタイ人は日系企業を選ぶのか
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カテゴリー: 会計・法務
公開日 2024.10.10
タイにおける一つの債権回収手段として民事訴訟がありますが、民事訴訟で勝訴しても相手方が任意にその履行をしてくれるとは限らず、強制執行によって債権回収を検討せざるを得ないことがあります。ところが、タイでは民事訴訟の第一審に1年程度を要し、上訴等があれば2、3年を要すため、債務者がその間に財産を隠したり処分したりして、勝訴判決が確定する頃には強制執行できる財産が消え失せているという事態も起こりえます。このような問題を回避するため、タイにも民事保全制度があります。そこで、今回は、金銭債権を保全するための仮差押えについて解説します。
日本では、民事訴訟提起前に仮差押えの申立てを行うことができます。しかしながら、タイで仮差押えの申立てができるのは、民事訴訟提起と同時、または民事訴訟提起後に限られます。そのため、いまだ訴訟提起していない場合は、仮差押えの準備とともに訴訟提起の準備を進めることが必須となります。
裁判所は、仮差押えを認めるべきか否かを審理します。ここで裁判所が検討するのは、債権の存否、および「債務者が、自己の財産を隠したり処分したりするなどして、判決の執行を妨害したり、債権者に不利益をもたらしたり意図を持っている恐れがあるか」です。債権者としては、債権が存在しており、債務者がこのような悪意を有している可能性が高いことを主張立証する必要がありますが、債務者の悪意の有無は内面の問題なので、その立証には困難が伴います。
またタイの裁判所は、日本の裁判所と異なり、仮差押えへの審理手続の中で債務者を呼び出し、債務者にも話を聞くことがあります。この場合、債務者は当然ながら近いうちに仮差押えをされるかもしれないと気づくため、仮差押えを受けそうな財産を仮差押え前に隠したり処分したりする機会を持てることを意味します。
以上のとおり、タイの仮差押えは、主張立証に難しさがある点、および債務者が財産処分の機会を持てる可能性がある点で、実効性に欠けるきらいがあります。
日本では、裁判所が仮差押えを認める条件として、債権者に対し、担保金を供託させます(この担保金は、民事訴訟で勝訴判決が確定した場合や債務者が同意した場合など、一定の場合に債権者に返還されます)。タイでも仮差押えが認められる場合には、担保金を供託しなければなりません。したがって、仮差押えの申立てをするときには、供託金の準備もしておく必要があります。
仮差押えされると、日本と同様、債務者はその財産を自由に処分することができなくなります。そして債権者は、民事訴訟にて確定した勝訴判決を得れば、その財産を強制執行の対象として、債権回収を図ることができます。
日本では仮差押えを申し立ててから裁判所が仮差押えに関する決定を出すまで、おおよそ1週間程度かかります。他方、タイでは数ヶ月を要することもあります。
ただし、タイ法では、「緊急の仮差押え」という制度が規定されています。これは、緊急の必要がある場合、債務者の呼出しをせず、1日程度で仮差押えの可否を決定する制度です。この緊急の仮差押えを用いれば、債務者に知られることなく迅速に仮差押えをすることができます。そのため、まずはこの緊急の仮差押えを試みるべきです。
ただし、緊急の仮差押えも、通常の仮差押えと同様、訴訟提起と同時またはその後にしか申し立てることができません。また、債権者は、緊急性があること(例えば、債務者が今にでも財産を処分しそうなこと)を主張立証しなければならないため、緊急の仮差押えは、通常の仮差押えよりもハードルが高いものとなっています。なお、緊急性があると裁判所が認めなかった場合には通常の仮差押えを試みることも可能です。
以上のとおり、タイでも日本と同様に仮差押えの制度はあります。しかしながら、使いにくく実効性に欠けるのが実情です。もちろん、仮差押えが有効に機能する可能性もありますが、できる限り担保を設定しておくなど紛争が発生する前に債権の保全を試みておくことが重要です。
THAIBIZ No.154 2024年10月発行なぜタイ人は日系企業を選ぶのか
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GVA Law Office (Thailand) Co., Ltd.
代表弁護士
藤江 大輔 氏
2009年、京都大学法学部卒業、2011年に京都大学法科大学院を修了後、司法試験合格。2012年にGVA法律事務所に入所。 2016年より同事務所パートナー弁護士に就任し、2017年にバンコクでGVA Law Office (Thailand) Co., Ltd.を設立、同代表に就任。2021年より大阪に弁護士法人GVA国際法律事務所を設立し、代表を兼任。
URL : https://gvalaw.jp/global/3361
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