カテゴリー: 会計・法務
公開日 2025.08.08
2025年6月5日、タイ投資委員会(BOI)は、BOI恩典のもとで外国人労働者を雇用する企業に対して、新たなビザおよび労働許可の運用指針を発表した。今回の指針は、これまでのビザ・労働許可に関する運用に実質的な変更をもたらす内容であり、BOI企業に対して少なからず影響があるだろう。
新指針の柱は二つである。第一に、職種・役職ごとに異なる最低月額給与の導入、第二に、製造業に対して適用されるタイ人従業員比率の基準である。
まず、最低給与に関しては、以下のように細かく区分されている。経営幹部(Executive)については月額15万バーツ以上、管理職(Management)は7万5,000バーツ以上(ただし学士号以上を有する者は5万バーツ以上でも可)、一般職(Operational)は5万バーツ以上、専門職(エンジニア等)は7万5,000バーツ以上(同様に、学士号以上の場合は5万バーツ以上で可)とされている。
なお、最後に述べた専門職(エンジニア等)に関しては、2024年告示(3/2567)の内容にも注意しておきたい。同告示では、専門職の実務経験要件に関して、「工学の学士号を有する者には2年以上の関連分野での実務経験」または「工学の学位がない者には当該分野での直接的な実務経験が10年以上」という要件が指定されており、この要件は引き続き適用される。
次に、タイ人従業員の比率については、製造業に従事し、かつ従業員数が100名を超える企業に対して、タイ人従業員が全体の70%以上を占めることを求めている。
この雇用比率の要件は、あくまで製造業に対して一定のナショナルスタッフの雇用を求めるものであり、製造業以外のBOI企業には適用されない。
なお、実務的な影響は大きくないと思われるが、上記条件には一部例外が存在する。具体的には、BOIにより承認された「タイ国内での滞在期間が6ヶ月以内の一時的なポジション」については、上記の給与基準および雇用比率要件の適用除外とされている。
新要件の適用時期は以下のとおり段階的に設定されている。
2025年10月1日以降:2025年6月5日以降にBOI証書が発行された企業が対象
2026年1月1日以降:2025年6月4日以前にBOI証書が発行された企業が対象
適用開始日以降、企業が新たに外国人を雇用する場合には、所定の給与水準を満たす雇用契約書を提出しなければならない。また、製造業に該当する企業は、タイ人と外国人の比率が基準を満たしていることを証明する書類の提出も求められる。
さらに、すでに在籍している外国人労働者についても、適用開始日以降の給与・報酬が新基準を満たす必要がある。特に、ビザや労働許可の更新時にはこの点に焦点を当てた審査が行われる可能性が高く、形式的な運用では済まされない状況が予想される。
今回の変更は、タイ人の雇用促進と人材育成を中長期的に図る政策の一環であり、広い意味での外資規制の更新の一つに含まれる。
日系企業の進出件数で突出してきたタイに対し、東南アジア各国が外資規制の緩和を図ってきたという状況の中、タイがこれからどのような外資規制を採用していくか、今後の動向が注目される。
GVA Law Office (Thailand) Co., Ltd.
代表弁護士
藤江 大輔 氏
2009年、京都大学法学部卒業、2011年に京都大学法科大学院を修了後、司法試験合格。2012年にGVA法律事務所に入所。 2016年より同事務所パートナー弁護士に就任し、2017年にバンコクでGVA Law Office (Thailand) Co., Ltd.を設立、同代表に就任。2021年より大阪に弁護士法人GVA国際法律事務所を設立し、代表を兼任。
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CONTACT : info@gvathai.com
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