ArayZ No.113 2021年5月発行迫り来るEVシフト
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カテゴリー: 組織・人事
連載: リブ・コンサルティングの経営戦略
公開日 2021.04.30
3月号の記事では日系企業の改革が進みにくい要因として、現状認識のズレ、危機感度のズレ、改革サイクルのズレの3つを挙げた。どれも、在タイ日系企業というタイにおいては特殊な事業体であることが起因していることも説明した。
今回はそれらのズレを乗り越え、改革を前に進めるために必要な3つの武器について解説する。
改革の基本は、図1のように外部環境が変化した時に、戦略・組織・人材の一貫性を作り出すことだが、これから紹介する3つの武器はそれを実現するために非常に有効だ。いずれも目新しいものではないが、弊社リブコンサルティングが日系企業で担当した多数のプロジェクトの中でも、改革の推進力として最も効果的な取り組みであったため、ぜひ参考にしていただきたい。
シナリオプランとは、将来的に発生確率の高いシナリオを複数持ったうえで、それぞれのシナリオに対する施策を検討する手法である。
長期的な市場の見通しや競合企業の脅威などは不確実性が高く、将来シナリオを1つに絞って考えるのは非現実的と言えるだろう。そのため、ある程度の幅を持たせた複数のシナリオを用意することで、ベストケースからワーストケースまで発生確率の高い将来を予測していくことが必要だ(図2参照)。
これは5年~10年といった長期的な市場予測だけでなく、コロナの影響を加味した今期の市場規模など短期的な予測にも役立つ。
例えば自動車業界であれば、長期的には「EVの普及に伴って市場がどう変化していくか」が、短期的には「コロナの影響により製造数量がどの程度見込まれるか」が論点となるだろう。どちらも市場を変化させる主要因の振れ幅を想定し、複数のシナリオを構築する。
特にワーストシナリオを明示し、企業内で同一の危機感を持つことが重要だ。人間は誰もが不都合な真実から目を逸らしたくなるが、シナリオプランニングを通して、最悪のケースに向き合う姿勢を持ちやすくなる。
中長期ビジョンの策定が重要と言うと、特に目新しさは感じないかもしれない。しかし、自社のありたい姿を5年~10年スパンでビジョンとして示している日系企業が実際にどれほどあるだろうか。
ここで言うビジョンとは、単純な業績計画だけではなく、「顧客の満足度」「社会からの認知」「従業員の満足度」「ベースとなる価値の発揮方法」などを含めた肌触り感のある「ありたい姿」である。
改革のブレーキ要因となりやすい改革サイクルのズレを考慮すると、前提として自身(駐在員経営者)が帰任した後も引き継がれるような時間軸でビジョンや戦略を示しておきたい。
5年~10年というスパンは、シナリオプランニングで想定しやすい範囲であり、かつ駐在員経営者の一般的な任期(3年~5年)を超えた時間軸であるため、現地従業員に安心感を与える武器になる。
また、ビジョンを効果的に浸透させるにあたって注意しておきたいことがある。それは、Why-What-Howのストーリーと合わせて説明することだ。
日系企業の中には理念やビジョンはあるものの、現地従業員から納得感を得られておらず、その原因を深堀していくと、「そもそも、なぜ理念やビジョンがそのように定義されているのか」を社員が理解できていないことが多い。
それらを改善するためにも、WhatやHowだけでなく、Whyについて経営者から想いを語っていただきたい。
日本人経営者があまり重視しないものの、改革に効果的な仕組みの1つに「人事評価制度」がある。
日本では評価制度と言っても形式的なもので、そこまで社員の行動変革に繋がらないと考える管理者も多いが、海外市場では賃金や賞与を決める「社員の生活に直結する機能」であるため、すべての社員が関心を持ち、行動変革を促す大きな武器になる。
また、人事制度は給与水準を決める機能という以上に、経営者からのメッセージを伝える機能でもある。将来を見据えて、「どんな人材になってほしいのか」「どのような努力をして、どのような成果を出してほしいのか」、それを言葉だけでなく、給与水準に影響させることで経営者の本気度を伝えられる。
また、ここ数年は画一的な評価よりも半年または一年ごとに個別の目標をセットするMBO型の評価制度も浸透し始めている。
具体的には、経営者が示す経営目標を管理者が自部門の目標に落とし込む。その後、部門目標の達成に貢献できるように社員が自身の目標テーマや達成水準を設定するという流れだ。
こうしたプロセスを経ることで、経営者と社員間で具体的な目標を握ることとなり、目標設定後の行動が大幅に改善されていく。また、定期的に個別の目標について話し合うことで、上司・部下間のコミュニケーションを活性化させる良い機会にもなるだろう。
昨今の新型コロナウイルスの影響により、外部環境は大きく変化した。そして、ニューノーマルという言葉に代表されるような新たな市場環境にシフトしてきている。
一方で、そうした変化に合わせて、自社も変わることができているだろうか。どこかで、「今を凌げばなんとかなる」「いつか元に戻るのを待っている」と考えてはいないだろうか。
最も大きな脅威は、市場変化でも競合企業でもなく、変化できない自社や変化しようとしない組織だと私たちは考えている。そこで、「100%の確信を持てない中でも最善策を判断し変化しようとする姿勢」こそが改革の第一歩であることを明言しておきたい。
成果主義・現場主義を重視した日本発の経営コンサルティングファーム。
「“100年後の世界を良くする会社”を増やす」を理念に掲げ、
企業や政府機関へのコンサルティングを通じてタイ国を良くするため、
戦略から実行まで「成果コミット型」で支援している。
ArayZ No.113 2021年5月発行迫り来るEVシフト
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LiB Consulting (Thailand)
プリンシパル
ベン 氏(Sra Chongbanyatcharoen)
文部科学省の奨学金を受け日本に留学、一橋大学経済学部卒業。リブコンサルティング入社後は東京で勤務した後、タイオフィスで勤務。日系企業の構造改革支援に加え、財閥系企業や上場企業などタイのエクセレントカンパニーの経営支援も担当している。タイオフィスを代表するトップコンサルタント。
LiB Consulting (Thailand)
プロジェクトマネージャー
ペス 氏(Darin Lanjakornsiripan)
文部科学省の奨学金を受け日本に留学、東京大学理学部、東京大学大学院博士課程卒業。数学オリンピック金メダル取得。 主に、通信業界、農業・食品業界、住宅業界、自動車製造業などで、戦略立案から実行支援までを一貫して支援している。タイオフィスの戦略チームをリード。
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