カテゴリー: 会計・法務
公開日 2023.05.05
目次
付加価値税(Value Added Tax、以下VAT)とは、タイ国内において物品を販売やサービスの提供、または輸入の際に生じる付加価値を課税対象とした税金です。日本の消費税と同じように間接税ですので、税金の負担者は最終消費者ですが、企業が納税義務を負います。
物品の販売やサービスの提供を継続的に行い、年間180万バーツを超える売上がある事業者はVATの納税義務があり、税務署で納税登録を行う必要があります。
VAT登録事業者は、毎月売上VATと仕入VATを計算し、PP30(Phor Phor 30)という申告書で翌月15日までに申告・納税します。E-taxを導入している場合の申告・納税期限は翌月23日までです。サービスを輸入している場合の申告書はPP36(Phor Phor 36)ですが、申告・納税期限は源泉税と同じため翌月7日、電子申告の場合は15日です。
無申告の場合には本来納付すべきVATの200%、税額計算の誤り等で過少申告の場合には納税不足額の100%の加算税が課されます。
また、申告期限を過ぎた場合には未払税額を上限として毎月1.5%の延滞税が課されます。
VATは登録事業者である限りは月次の取引数が0であっても申告が必要ですので、ご注意ください。無申告の場合は加算税とは別に、500バーツ/月のペナルティが課されます。
VATの標準税率は歳入法典第80条に基づき10%ですが、現在は7%に軽減されています。課税取引区分と主な対象項目は以下の通りです。
課税取引
・タイ国内での物品の販売
・タイ国内でのサービスの提供
・物品及びサービスの輸入
0%課税取引
・物品の輸出
・タイ国内で提供され、タイ国外において利用されるサービスの提供
・航空機または船舶による国際輸送
・保税倉庫間及び輸出加工区間の取引
非課税取引
・農産物、動物、食肉、飼料、畜産物、畜産用の薬品及び化学製品の販売
・新聞、雑誌、教科書の販売
・教育機関のサービス
・法定監査、法定弁護に関するサービス
・医療機関のサービス
・国内運輸業務
・国際運輸のサービス(ただし、航空機または船舶によるものを除く)
・不動産賃貸業
・宝くじ、切手、印紙の販売
なお、0%課税取引の場合対応する仕入VATは還付請求ならびに控除できますが、非課税取引は対応する仕入VATの還付請求ならびに控除は不可となっています。
登録事業者は、物品の販売やサービスの提供時にVATを課しますが、これを売上VAT(インプットVAT)と呼びます。一方、物品やサービスを購入した際に支払うVATのことを仕入VAT(アウトプットVAT)と呼びます。納付額を計算する際は、売上VATの合計額から仕入VATの合計額を控除します。
VAT納付額 = 売上VAT – 仕入VAT
仕入VATが売上VATを超える場合は、3年以内であれば還付を選択するか翌月以降の売上VATからの控除を選択することができます。還付請求の場合、VATだけでなく法人税などほかの税目にも歳入局からの調査が入ります。還付金を受け取れるのは税務調査終了後です。
なお、輸出の割合が高く、毎月還付が発生する企業は優良輸出企業または登録輸出企業に登録することで税務調査無に還付を受けることができるようになります。優良輸出企業または登録輸出企業の登録に申請する際には税務調査が入りますが、還付手続きの簡素化のため、申請要件を満たしている企業は検討してみるといいかもしれません。
VAT納付額を計算する際、以下の仕入VATは控除ができないので注意が必要です。
1. Tax Invoiceがない又はTax Invoiceを提示できない場合 |
2. Tax Invoiceの記載事項に誤りや不備がある場合 |
3. 事業に直接関係しない支出に係るVAT |
4. 交際費に係るVAT |
5. Tax Invoiceの発行する権利の無い者が発行したTax Invoiceに基づくVAT |
6. 登録事業者の名称、住所、納税者番号が事前印刷もしくはパソコンにより印字されていないTax Invoiceに基づくVAT |
登録事業者は物品の販売やサービスの提供の際に売上金額とVATの金額を記載したTax Invoiceを発行しなければなりません。Tax Invoiceの記載内容に不備があると仕入VATを控除または還付できない場合があり、Tax Invoiceは売手と買手双方にとって重要な証票です。受領したTax Invoiceと発行したTax Invoiceの控えは関係書類や記録とともに少なくとも5年は保管する必要があります。
歳入法典第86/4条に基づき、Tax Invoiceの記載要件は以下のように定められています。
1. 「Tax Invoice」という表示(明確に見えるように記載) |
2. 発行者の名称、住所および納税者番号 |
3. 購買者の名称、住所、事業所および納税者番号 |
4. 本店、支店区分 |
5. Tax Invoiceの番号および冊番(あれば) |
6. 商品・サービスの名称、種類、区分、数量および価格 |
7. 商品・サービスの価格から計算し、商品・サービスの価格と明確に区別したVATの額 |
8. 発行年月日 |
9. 局長が定めるその他の事項 |
Tax Invoiceの記載内容の修正をする際には、Debit Note(D/N)もしくはCredit Note(C/N)を発行します。売上を増額修正する場合はD/N、減額修正の場合にはC/Nです。Tax Invoiceの修正に対して、D/Nを発行する値上げ修正の場合は歳入局は幅広く解釈しますが、C/Nを発行する値下げ修正の場合は厳密に解釈されます。
VAT納税義務が生じるタイミングを課税点といいますが、取引の種類によって課税点が異なるため注意が必要です。
物品の販売の場合、以下のうちいずれか早い時点が課税点です。
・物品の引渡し時点(原則)
・物品の所有権の移転
・物品の対価の受領
・Tax Invoiceの発行
サービスの提供の場合、以下のうちいずれか早い時点が課税点です。
・サービスの対価を受領したとき(原則)
・サービスの使用
・Tax Invoiceの発行
物品の輸入の場合の課税点は以下の通りです。
・輸入関税の支払時点
・輸入関税が免除されているときは、通関手続完了時
サービスの輸入の場合の課税点は以下の通りです。
・当該サービスの対価を支払った時点
サービスの輸入に係るVATについては、タイ国内にいる支払者(輸入者)にVATの納税義務があり、PP36という申告書で翌月15日まで(E-tax導入の場合は23日)までに申告・納税する必要があります。ここで支払われたVATについては、翌月PP30の売上VATから控除することができます。なお、サービスの輸入の場合、歳入局の発行した領収書がTax Invoiceの代わりになります。
源泉徴収制度とは、所得が発生したタイミングで納税を要求する、個人や法人に対する所得税の前払いシステムです。源泉徴収税という形で所得税の一部の納付義務を支払者側(企業)に負わせることで、受取者が確定申告を怠ったとしても徴収漏れを防ぐことができる、というのが狙いです。月次で会計処理が必要な主な源泉徴収税は、PND1、3、53、54が挙げられます。
源泉徴収税の納付・申告期限は、支払いが行われた月の翌月7日までですが、E-taxを導入している場合の申告・納税期限は翌月15日までとなっています。
申告漏れの場合のペナルティとしては、納税額に対して毎月1.5%の加算税が課されます。未提出の場合には別途200バーツが課されます。
個人の給与所得にかかる源泉徴収税はPND1(Por Ngor Dor 1)という税務申告書で雇用主が申告します。
年間の推定課税所得から経費控除および所得控除を差し引いた後、累進課税で確定申告時における納税額を算出し、それを月数で除した金額を給与支払い時に雇用主が源泉徴収し、納税します。
個人所得税の累進課税率は以下の通りです。
課税所得 | 税率 |
---|---|
0~150,000バーツ | 0% |
150,000超~300,000バーツ | 5% |
300,000超~500,000バーツ | 10% |
500,000超~750,000バーツ | 15% |
750,000超~1,000,000バーツ | 20% |
1,000,000超~2,000,000バーツ | 25% |
2,000,000超~5,000,000バーツ | 30% |
5,000,000バーツ超 | 35% |
他社(もしくは個人)からサービスを受けた際、受領したInvoiceの記載内容を元に源泉徴収票(50TW)を作成します。そして一月分の源泉徴収票の内容をまとめ、翌月申告・納税します。この際支払相手が企業である場合はPND53(Por Ngor Dor 53)、個人である場合はPND3(Por Ngor Dor 3)という申告書を使用します。
主な支払項目と税率区分は以下の通りです。
支払項目 | 税率 |
---|---|
利息 | 1% |
広告料金 | 2% |
ロイヤルティ | 3% |
請負業務による所得、サービス | 3% |
資産の賃借料 | 5% |
タイ国内で事業を営まない法人への海外送金に対する源泉徴収税はPND54(Por Ngor Dor 54)という税務申告書で申告します。
タイ国内取引の場合、PND3やPND53に記載されるのは源泉徴収税額の合計ですが、PND54の場合、国外法人の社名や住所、支払内容等の詳細も記載しなければならないので、取引ごとに申告書を作成します。
タイ側で源泉徴収されることで着金額が請求額よりも減ってしまいますが、その分は外国税額控除により日本の所得税額から差し引く事が可能です(所定の手続きに従う必要があります)。
海外送金にかかる税率区分は以下の通りです。
所得の種類 | 税率 |
---|---|
仲介手数料および役務提供料 | 15% |
ロイヤルティ | 15% |
利子 | 15% |
配当金 | 10% |
キャピタルゲイン | 15% |
資産の賃貸料 | 15% |
自由専門業に対する報酬 | 15% |
なお、日タイ租税条約ではタイ国内に恒久的施設がなければ課税されないと規定されています。
タイで設立された会社および法人格を有するパートナーシップ(内国法人)は、タイ国内および国外を源泉とする利益に対して法人税が課されます。法人税は中間申告と確定申告の年に2回申告・納税する必要があります。
事業年度の中間期末日から2ヶ月(60日)以内に、PND51(Por Ngor Dor 51)という申告書を用いて中間申告を行います。中間申告では、事業年度の年間見積所得に基づき申告額を算出します。
中間申告における注意点としては、年間見積所得が実際所得を25%を超えて下回った場合、不足納税額の20%相当の罰金と、毎月1.5%の延滞税が課されます。ただし、中間納税額が前年度の年税額の1/2以上あれば「合理的な理由」としてペナルティを回避することができます。
なお、中間申告は会社設立直後の事業年度が12ヶ月に満たない場合や、会社を清算するなど事業年度が12月を下回る場合、また会社が決算日を変更し、変更後の事業年度が6ヶ月に満たない場合には例外的に提出義務がありません。
事業年度末日から150日以内に、PND50(Por Ngor Dor 50)という申告書を用いて確定申告を行います。
課税所得の計算方法は以下の通りです。
課税所得 = 会計上の収益 – 会計上の費用 ± 申告調整項目 – 繰越欠損金
法人所得税額 = (課税所得×法人所得税率) – 中間納付税額 – 源泉徴収税額控除 – 税額控除
課税所得を算出する際の申告調整項目は以下の通りです。
益金算入項目
会計上は収益計上しないが、税務上は収益を認識する項目
(例)
・無償または低譲渡等による受増益
・市場価格をベースとするみなし利益
・前受金の入金
損金不算入項目
会計上は費用を計上するが、税務上は費用を認識しない項目
(例)
・受取配当金
損金算入項目
会計上は費用計上しないが、税務上は費用を認識する項目
(例)
・税務上の特別償却費(一定の研究開発用設備の初年度40%償却)
課税所得が赤字の場合はそれを欠損金と呼びますが、タイにおいては税務上の欠損金は将来の課税所得に対する所得として、発生年度の翌年度以降5年間にわたり繰り越すことができます。これを繰越欠損金と呼び、課税所得を算出する際に控除することができます。
法人税率について、現行の税率は原則20%となっていますが、払込資本金が500万バーツ以下かつ収益が年度で3,000万バーツ以下である中小企業(SME)には累進課税が適用されます。
中小企業の所得 | 税率 |
---|---|
1~30万バーツまで | 0% |
30万超~300万バーツ | 15% |
300万バーツ超 | 20% |
特定事業税
金融機関、証券、保険、不動産販売業などの事業は付加価値の算定が困難であるため、VATの代わりに特定事業税が課されます。対象事業と税率は以下の通りです。
対象事業 | 税率 |
---|---|
商業銀行 | 3.3%(特定の取引は0.011%に軽減) |
金融、証券 | 3.3%(特定の取引は0.011%に軽減) |
生命保険 | 2.75% |
質業 | 2.75% |
商業銀行に類似する事業 | 3.3% |
不動産販売 | 3.3% |
有価証券 | 0.1%(現在は免税) |
特定事業税はPT40という申告書を用いて行います。申告・納税期限はVATと同じく翌月15日まで、E-taxを導入している場合は23日までとなっています。前述の通り特定事業税は主に金融業を中心とした事業が対象ですが、一般企業であっても土地の譲渡を行った場合や貸付金金利を受領した場合は特定事業税の納付が必要ですのでご注意ください。
印紙税
歳入法典に規定されている特定の事業取引を含む文書には印紙税が課せられます。税率は対象の文書の種類によって異なります。印紙税の納付・貼付漏れの場合当該文書が民事訴訟の際に証拠として認められなかったり、200%から600%の加算税が課されたりします。また、VATや法人税の還付請求を行った際の税務調査で未納を指摘され、追徴課税を課せられるケースもありますのでご注意ください。
J Glocal Accounting Co., Ltd. Managing Director
坂田 竜一 氏
バンコク在住。2007年大学卒業と同時に、東京の流動化・証券化に特化した会計事務所に就職。その後、バンコクの大手日系会計事務所で5年間、日系金融機関ほか日系企業の会計・税務、監査業務に従事。税務当局との折衝やDD業務を現地スタッフを介さずにタイ語で対応。2013年12月 J Glocal Accounting 設立。タイにおける会計・税務の専門家として、日系企業へのサポートを行っている。
J Glocal Accounting Co., Ltd.
Website : http://jga.asia/
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