メコン5におけるスタートアップ市場動向(前編)

ArayZ No.129 2022年9月発行

ArayZ No.129 2022年9月発行キーワードは「協創」日タイ関係新時代

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

ログインしてダウンロード

会員ログイン後、ダウンロードボタンをクリックしてください。ダウンロードができない場合は、お手数ですが、info@th-biz.com までご連絡ください。

メコン5におけるスタートアップ市場動向(前編)

公開日 2022.09.10

みずほ銀行バンコック支店メコン5課が発行する企業向け会報誌 『Mekong 5 Journal』よりメコン川周辺国の最新情報を一部抜粋して紹介

メコン5におけるスタートアップ市場動向(前編)

松井 勇太|国際戦略情報部 グローバルアドバイザリー第二チーム 参事役

●アジアで高まるスタートアップへの注目度

近年のアジア各国は、経済成長を促進する手段の一つとして企業が有する革新的技術・先進的知見に注目した海外スタートアップ企業の投資誘致や、国内スタートアップ企業の育成といった取り組みを図ってきた。他方で、各国における経済水準や投資環境はASEANと一括りにできるものではなく、個別にその市場動向を見定めていく必要がある。

本稿では日系企業の視点から、前編ではタイとカンボジア、後編ではベトナムとラオスについてスタートアップ市場の動向を紹介したい。
※ミャンマーは政情不安により除く。

タイ

ASEANにおけるスタートアップ企業の市場では、シンガポールの存在感が強い。スタートアップ企業の事業環境ランキング「グローバル・スタートアップ・エコシステム・インデックス・リポート」の2021年版でも、シンガポールは世界10位であり、ASEANでは1位の座に就いている。

一方でタイは、同ランキングにおいて前年と変わらず50位(ASEAN4位)という結果であったが、政府による資金調達支援や情報プラットフォームの整備等が進んできたことで、昨今のスタートアップ市場は徐々に台頭しつつある(図表1)。

タイ政府機関におけるスタートアップ支援施策例

加えて、投資をすることで最大20年有効の居住ビザを取得できる独自の「タイランド・エリート・レジデンス・プログラム」を導入する等、投資家や起業家誘致といった点でも新たな取り組みを推進している。

タイ大手は積極的に投資
日系はスタートアップ進出増

タイにおけるスタートアップ企業数も増加傾向にある。21年には、Eコマース配送のFlash Expressがタイで初めてのユニコーン企業(企業評価額が10億ドル以上の未上場企業)となる等、現地企業の質的成長も窺える。この成長ドライブの要因として挙げられるのが、タイ大手企業の積極的なスタートアップ投資である(図表2)。

タイ大手企業にとって、スタートアップ企業が持つIT技術等を活用し、自社の製品やサービス向上を狙うことは有効な手段と認識されている。図表2の事例以外にも、カシコン銀行が最新技術を活用した資産管理のスタートアップ企業であるJITTA(チッタ)へ出資し、顧客管理等への活用を狙うといった動き等は、スタートアップ企業からすれば資金調達の幅が広がることとなり、それが研究開発の促進やさらなる成長へと繋がっている。

ところが日系企業を見ると、積極的にタイのスタートアップ企業に出資するといった動きはそれほど活発ではないようである。しかしながら、日系スタートアップが海外事業展開をする場として、タイ市場を選定するケースは徐々に増加しつつある。例えばフィンテック事業を展開するSYNQA(シンカ)は、米系シティバンクのタイ拠点とECによる支払いサービスの提携を開始している。

また植物肉のスタートアップDAIZ(ダイズ)は、タイの同業LOTTOFOOD(ロットフード)に原料として「ミラクルミート」の供給を開始したことを発表している。他にもタイが推進するスマート農業の分野で、日本農業やサグリといった日系スタートアップ企業が事業展開を進めている。このようにタイ市場を自社技術を活用する場として捉え、実証実験や事業拡大を図る動きは今後も継続することが予想される。

加えて、タイはASEAN屈指の工業国という側面と、農業をはじめとする一次産業も基幹産業として重要な位置付けにありつつも、スマート化等の課題が多く残るという側面が共存している。環境等に対する意識も高く、BCG(バイオ・循環型・グリーン)経済による成長戦略を掲げるといった一面もある。こうした様々なフェーズが混在するタイ市場は、スタートアップ企業が台頭する土壌を備えていると考えられ、日系企業においては事業展開の場としてだけでなく出資を絡めた事業検討も一案と言えよう。

カンボジア

ASEANにおいてカンボジアは、経済水準が依然低く、インフラ整備を筆頭に数々の課題を抱えた国である。まず経済発展を底上げしていくことが重要な国家課題である中、近年はスタートアップの育成を政策に組み込む動きが出てきている。

IT人材の育成やファンドの創設等、基本的な内容が中心であるが、カンボジア政府がスタートアップの重要性を認めて本腰を入れ始めたものと考えられる(図表3)。

その一環として、21年12月より「スタートアップ・カンボジア(SC)」というスタートアップ・エコシステム構築のデジタルプラットフォームを開始する等、スタートアップ企業数は増加傾向にある。また、アジア太平洋地域の高度な技術を持つスタートアップ企業が、社会的な問題解決に繋がる事業構想等に関して競い合うコンテスト形式の表彰イベント「アジア・アントレプレナーシップ・アワード(AEA)2021」においては、医療関連分野のITサービスを提供するカンボジア企業のPeth Yoeung Healthtech(ペス・ヨーウン・ヘルステック)が、同国初のオーディエンス賞を獲得。その技術面から、将来性のあるスタートアップ企業も徐々に誕生しつつある。

もちろん財政面を含めた課題は多い。スイス系のスタートアップ育成会社であるSeedstars(シードスターズ)が、カンボジアの携帯電話サービス大手Smart Axiata(スマート・アクシアタ)や米国際開発庁(USAID)と連携し、スタートアップの育成プログラム「スマートスケール」を開始するような動きもあるが、現時点では限定的なものとなっており、資金面や体制整備を含めた海外支援が同国内のスタートアップ市場の成長においては不可欠であろう。

しかしカンボジアは、ASEANの中でも比較的投資規制のハードルが低いことが特徴であることに加え、近年は多くの分野において参入機会が広がっている。また参入方法も、成長期待ができる地場スタートアップとの提携、現地における実証実験等、多岐に渡る。スタートアップを含む日系企業はこのような市場の成長可能性を上手く捉え、海外事業の拡大に繋がることを期待したい。

ArayZ No.129 2022年9月発行

ArayZ No.129 2022年9月発行キーワードは「協創」日タイ関係新時代

ログインしてダウンロード

会員ログイン後、ダウンロードボタンをクリックください。ダウンロードができない場合は、お手数ですが、info@th-biz.com までご連絡ください。

みずほ銀行メコン5課

E-Mail : mekong5@mizuho-cb.com

98 Sathorn Square Office Tower 32nd-35th Floor, North Sathorn Road, Silom, Bangrak, Bangkok 10500 Thailand

Recommend オススメ記事

Recent 新着記事

Ranking ランキング

TOP

SHARE