ArayZ No.132 2022年12月発行タイ財閥最新動向 - 変貌を遂げるアジアのコングロマリット
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カテゴリー: ASEAN・中国・インド, カーボンニュートラル
公開日 2022.12.10
みずほ銀行バンコック支店メコン5課が発行する企業向け会報誌 『Mekong 5 Journal』よりメコン川周辺国の最新情報を一部抜粋して紹介
大西 勝視|国際戦略情報部 シンガポール駐在 参事役
国際的に脱炭素化の機運が高まる中、「国連候変動枠組条約締約国会議(COP)」の開催を受け、メコン5地域でも脱炭素に向けた動きが加速している。本稿では、メコン5各国における現状と戦略、および域内における日本企業の事業機会についても紹介する。
1992年に国連総会で採決された気候変動枠組条約に基づいた「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)」が2021年10月末からイギリスのグラスゴーで開催され、各国首脳による脱炭素に向けた取り組みが相次いで発表された。米中の気候変動協力に関する共同宣言、日本の岸田首相によるアジアへの100億米ドル支援、インドのモディ首相によるインド2070年カーボンニュートラル宣言などである。また、COP26を受けてメコン5各国においても脱炭素に向けた新しい取り組みが一部で見られる。
COP26首脳級会議においてタイのプラユット首相やベトナムのファム・ミン・チン首相はそれぞれ、2065年や2050年までの温室効果ガス排出ゼロを目指すことを発表している。COP26にはカンボジア、ラオスからも環境担当相クラスが参加していたが、ミャンマーは国軍が派遣した代表団の参加が拒否されており不参加となった。2022年11月にエジプトで開催されるCOP27には90以上の国から首脳級の参加が見込まれており、今後もメコン5における脱炭素化の流れは進んでいくと考えられる。
メコン5における人口一人当たりの温室効果ガス排出量は世界平均を下回っている状況である。タイを除いては各国とも発電容量に占める再生可能エネルギーの割合が多いことも背景にあると考えられ、2020年時点ではベトナム、ミャンマー、カンボジアはそれぞれ発電容量に占める再生可能エネルギー(水力を含む)割合が5割前後、ラオスでは8割を超えるエネルギーが水力発電を中心に供給されている(図表1)。
しかし、今後の経済成長に伴う電力消費量の増加などによって、自然と温室効果ガス排出は増えていくものである(図表2)。
それに対して各国は脱炭素排出に関する目標を掲げている。上述のタイ、ベトナム政府のネットゼロ宣言に加え、他3ヵ国についても2050年までのネットゼロ目標を掲げており、達成に向けた長期的な戦略を取りまとめている。
タイ政府はCOP26前の2021年10月中旬に「温室効果ガス低排出に関する長期開発戦略」(LT-LEDS : Mid-century, Long-term Low Greenhouse Gas Emission Development Strategy)を策定し、国の経済成長戦略であるBCG(バイオ、クリーン、グリーン)経済モデルと合わせた国の方向性を示し、電力、交通、製造、ビル、住宅などの各セクターにおける温室効果ガス排出削減に向けた指針となるものが記載されている。その中で、電力においては石炭やガス火力発電におけるCCS(二酸化炭素回収・貯蔵)の活用、2050年の発電容量に占める再生可能エネルギーの割合を33%に増やすことなどが盛り込まれており、バイオエネルギー発電の活用についても言及されている。また、電気自動車のシェア増加やバイオ燃料の活用などにも触れられている。
同じように、ベトナム政府はCOP26での誓約を実現するために首相を議長とした国家運営委員会を設立し、2022年1月に発表した通達「No. 30/TB-VPCP」においては、電気自動車や再生可能エネルギーの活用、農業やグリーン建材など多岐にわたった項目にて脱炭素の指針が挙げられている。2022年10月にはベトナムとシンガポール政府間でカーボンクレジット取引分野での協力に関する覚書が締結され、国際的な連携にも取り組んでいる。2021年にはカンボジア(2021年12月発表Long-term Strategy for Carbon Neutrality)、ミャンマー(2021年発表Myanmar Climate Change Strategy 2019-2030)などでも電力や交通、農業分野にわたる長期的な脱炭素に関する戦略が策定された。
これら国の政策、また上場企業を中心とした脱炭素経営意識の世界的な広がりにより、国営エネルギー企業や大手財閥グループなどで脱炭素化に向けた目標宣言、具体的な温室効果ガス削減行動計画の作成、新規事業への展開を試みる企業がメコン5においてもみられるようになった(図表3)。
メコン5においても国の政策および各企業の脱炭素に向けた取り組みは一定の進展がみられる。このような中で、日本企業においてはまずは自社の域内現地法人の脱炭素化(見える化及び電力調達やサプライチェーンの変更)などを日本本社同様に検討・推進していく必要がある。そのうえで、脱炭素に絡む新しいビジネスを検討していくことが重要と考える。
すぐに始められるものとしては、脱炭素化経営の一環として再エネ利用・省エネ活用をすすめる現地企業に対する製品・サービスの拡大である。この文脈においては、日本政府の補助金である二国間クレジット制度などの活用も考えられる。すでにタイやベトナムでは多くの日本企業や現地企業によって利用されている制度である(図表4)。
また様々な企業が新規事業として電気自動車(EV)や再生可能エネルギー、脱プラスチックなどへの投資を行っており、それらの新分野へのマーケティングアプローチも重要であるが、市場成長性も鑑みながら慎重に判別していく必要もある。一人当たりのGDPが成長段階にあるメコン5において、脱炭素意識もさることながら経済成長に応じた製品展開も現地企業からは求められており、脱炭素と経済発展の両輪を鑑みた地域戦略が重要である。
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