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カテゴリー: ビジネス・経済, ASEAN・中国・インド
公開日 2023.05.10
田村 優衣|産業調査部アジア室 エコノミスト
コロナによる経済の落ち込みやその反動といった短期的な変動が一巡し、各国経済が潜在的に有する中長期の成長性へと焦点が移りつつある。本稿では、潜在的な成長性を図るうえで重要な要素である人口動態について、メコン5の状況・見通しを整理し、各国における成長期待のポイントについて紹介する。
まず、経済成長と人口動態の関係について整理してみよう。中長期的な経済の成長性は様々な要因により決定されるが、重要な要因の一つが人口動態である。「人口ボーナス」の言葉で広く知られる通り、人口動態は経済成長と密接に関連している(図表1)。
いわゆる人口ボーナス期は、働き手世代である生産年齢人口(15~64歳人口)の増加が経済成長のドライバーとなる。生産年齢人口が増加、かつ総人口に占める比率が上昇する間は、経済全体で労働投入量が拡大し、労働による所得を原資として貯蓄が増加する。そして、その貯蓄が金融機関の仲介を通じて、投資につながりやすい環境が整う。
他方、社会の高齢化が進めば、生産年齢人口の比率が低下、さらには生産年齢人口そのものが減少し、貯蓄・投資や労働投入量の縮小とともに、人口動態による経済成長への寄与も低下していくことになる(いわゆる「人口オーナス期」)。
では、メコン5の人口はどのように変化していくのか。2022年7月に国連が発表した最新の人口推計によれば、メコン5では46年まで総人口が増加する見通しとなっている(図表2)。
年齢別にみると、生産年齢人口は35年まで増加が続くものの、同人口を上回るペースで65歳以上の高齢者が増加しており、総人口に占める生産年齢人口の比率はピークをすでに過ぎている(13年)。
他方、各国別についてみると、人口動態のフェーズは多様である。ラオス、カンボジアは、生産年齢人口および生産年齢人口比率が40年以降まで増加することが見込まれ、「若い」国々だと言える(図表3)。
ミャンマーでは生産年齢人口比率のピークが近づくものの、生産年齢人口は40年以降まで増加する。他方、ベトナムとタイはすでに生産年齢人口比率のピークを過ぎ、タイについては生産年齢人口も減少局面に突入している。
人口動態のフェーズが異なることは、各国における成長期待のポイントもそれぞれに分けて捉える必要性を示唆している。
まず、生産年齢人口比率の上昇と生産年齢人口の増加が続くラオス、カンボジア、ミャンマーでは、先に述べた「人口ボーナス」が経済成長のドライバーとなる。生産年齢人口の増加率が高い国は、賃金水準が低い傾向にあるため、繊維産業など労働集約的な産業が発展しやすい。実際に、JETROの投資コスト比較調査によれば、メコン5の中でもラオス、カンボジア、ミャンマーにおける一般工員の労働賃金は、他のアジア新興国に比しても安価である(図表4)。
そして、日系企業を対象としたアンケート調査(JBIC(2022)「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」)では、東南アジアを有望な事業展開先に挙げる理由として、「安価な労働力」が上位に並ぶ。このように、人口ボーナス期の国々では、豊富で安価な労働力が誘因となり、外資企業を呼び込むことが期待される。
無論、生産年齢人口増加は経済成長を必然的にもたらすものではなく、そのメリットを活かすためには、制度を含めたインフラ面での産業基盤の整備が前提条件となる。一般に、人口ボーナスの初期段階では産業が未熟なため、収入が不安定な農業に従事する比率が高い。そこで、インフラを整備して産業を立ち上げれば、豊富で安価な労働力を吸収して輸出競争力を発揮できるだけでなく、比較的安定した賃金収入を持つ労働者がボリュームゾーンとなり、国内消費への追い風も吹く。これに対し、産業基盤の整備が伴わないまま人口が増加すれば、農業への依存が続き、所得の伸び悩みや若年失業の増加などを通じて、生活不安や政情不安の引き金にもなりうる。
メコン5の中では、ミャンマー、ラオスで農業従事率が高く、特にラオスは低所得国平均をも上回る従事率である(図表5)。
ソフト面及びハード面でのビジネス環境の一層の整備が、今後の成長のカギとなろう。
一方、人口オーナス期に突入しているタイやそれに向かうベトナムでは、成長のポイントは大きく異なってくる。生産年齢人口の増加ペースが減速に向かう、あるいは減少局面が続くことから、自国内の成長要素には限界がある。こうした国々が成長を持続させるには、海外経済の成長取り込みや、より高い生産性・成長性が期待できる産業に注力していくことが重要となる。
海外経済の成長を取り込む手段には、広域経済圏や貿易連携協定等が挙げられる。すなわち、「グローバルバリューチェーン」に参画することで、海外の需要拡大の受け皿として、自国の輸出産業を活発化させる取り組みである。外資誘致等により、国内産業の高付加価値化や技術集積の機会にもつながることが期待される。実際、タイやベトナムはASEAN(AFTA)、RCEP、CPTPP(タイはCPTPP不参加)等の国際的な貿易枠組みへ複層的に参加し、国際的なサプライヤーとしての存在感を高めている(図表6)。
特に半導体や電子機器といった分野では、米中対立を背景としたサプライチェーンの脱中国依存を目的に、東南アジアでの投資が活発化する動きも見受けられる。
以上のとおり、メコン5における人口動態の多様さは、中長期的な成長のポイントが国によって異なることを示唆している。日系企業にとっては、今後のメコン5における事業活動の計画立案に際して、人口動態の要素を考慮することが重要といえるだろう。
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みずほ銀行メコン5課
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