【ベトナム編】Vinamilk(ビナミルク)

ArayZ No.140 2023年8月発行

ArayZ No.140 2023年8月発行2030年 タイの消費財・ 小売りビジネスの未来

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【ベトナム編】Vinamilk(ビナミルク)

公開日 2023.08.09

タイをはじめとするアジア各国で絶大な影響力を持つ財閥系コングロマリット。東南アジアを代表する企業の勢力図や経営方針の変化、RCEPを見据えた域内の競争力向上に向けての戦略などを解説していく。

今回は、ベトナムの酪農・乳製品製造会社Vinamilk(ビナミルク)を紹介する。

Vinamilk(ビナミルク)企業概要

正式名称Vietnam Dairy Products Joint Stock Company
業種酪農・乳製品製造
設立1976年
グループ会社【国内】Vietnam Dairy Cow One Member Co., Ltd.(100%, 12ファーム)
【米国】Driftwood Dairy Holdings Corporation(100%)
【カンボジア】Angkor Dairy Products Co., Ltd.(100%)
【ラオス】Lao Jagro Development Xiengkhouang Co., Ltd. (85%)
  • 従業員数
9,506名(2022年12月31日時点)
連結総収益60,075十億VND(2022年12月31日時点)
時価総額159,046十億VND(2021年12月31日時点)

会社概要

ビナミルクはベトナム国内とカンボジア、米国で合わせて16ヵ所の工場を展開し、ベトナム国内最大シェアを誇る乳製品製造企業である。また、国内外の直営酪農場15ヵ所で乳牛を飼育しているほか、全国で約80の原乳買取所を展開して酪農家(独占契約パートナー6,000)から原乳を買い取っている。

販売については、国内の伝統的小売では200の独占ディストリビューターを通じて約21万店、近代的小売では約8,000店で取引している。国外は米国、日本、韓国含め世界約60ヵ国に乳製品を輸出しており、認知度も上々している。日本や韓国、米国といった品質基準の高い国に輸出できているのは、海外の大手栄養関連企業とパートナーシップを結び、国際基準の乳製品の開発に注力しているためである。それらの取組も奏功し、英ブランド・ファイナンス社が発表した世界の食品・飲料事業者のブランド力ランキング22年版では「世界の乳業ブランド価値トップ10」で第6位に位置付けられており、乳製品メーカーとしての世界的なポジションを獲得している。

同社の酪農事業や乳製品生産事業は、国内だけでなくラオスやカンボジア、米国等でも行っている点が特徴的である。米国からは乳牛を輸入し、ラオスまで運搬することもある。展開する製品数は多岐にわたるが、中核製品は牛乳、ヨーグルト、粉ミルク、練乳の4つに分類でき、いずれも国内第1位もしくは第2位のシェアとなっている(図表1)。

近年は、健康トレンドに沿って、栄養補助機能を持つ製品、代替品(ナッツミルク)等も展開している。

(1) 海外展開の強化

同社は設立以降、乳製品分野では酪農事業や原料生産事業への展開等をもって事業基盤を強化してきた。2022年の地域別売上では、約85%は国内が占めるが、国外ではASEAN周辺国への積極的な生産機能(酪農や工場)展開と、輸出・拡販を行っている。

生産機能においては前述の通りであるが、販売においては21年にデルモンテ社と折半出資で合弁し、フィリピンでデルモンテの販売網を活用して乳製品の販売を開始した。また中国で練乳ブランド製品を販売し、収益は21~22年に14%以上の成長率となった。さらに製品開発において自社の乳製品を活かしミルクティー市場へ参入し堅調な実績を残すなど、乳製品関連の事業展開においては成功体験を続けている。

(2) 乳製品以外の事業への挑戦

同社は、乳製品関連事業以外への多角化戦略においては何度も苦戦してきた印象であるが、それらの経験を踏まえ、近年新たな挑戦をしている。

まずはコーヒー事業について。コーヒー輸出国世界第2位であるベトナム国内で現在、3度目の挑戦をしている。過去に同事業に2度挑戦したが撤退を余儀なくされた。1度目は、03年に自社製品ブランドTrueCoffeeを開発したが、ネスレなど競合ひしめくベトナム市場において事業が不調となり、撤退した。2度目は05年にインスタントコーヒーブランドMomentを立ち上げ、英サッカークラブのアーセナルFCと提携し200万米ドルを費やし宣伝活動を行う等で、3%ほどの国内市場シェアを獲得した。

しかし、同事業は総収益の1%にしか貢献できず撤退を強いられ、サイゴンにあるコーヒー製品工場も10年頃にTrung Nguyen社に売却した。Momentの味がライトであり、ベトナム人の好む本質的な味ではなかった点、販売チャネルをモダントレードに重点を置きすぎた点などが、不振の原因となった。

2度にわたる撤退を踏まえ20年に開発した製品ブランドおよびカフェチェーンHi-Caféは同社肝いりの事業である。コーヒーのペットボトル製品を開発し、過去の失敗に倣ってモダントレードとトラディショナルトレードにバランスよく流通させている。さらには、全国に展開する乳製品販売直営ストアであるベトナムデイリードリームにHi-Caféを統合オープンする体制を整えている。(図表1)

コーヒー事業以外については、07年に世界第2位の英国ビール会社SABMiller社と折半出資の合弁でビンズオン省に醸造所を開設、年間1億リットルのビール工場を建設し、ブランド製品Zorokを立ち上げた。合弁パートナーのSABMiller社は、200ブランドを要する世界大手のビールグループだが、ビナミルクが既存の牛乳流通システムをビールの販売に活用することが困難であったため、09年に全株式を同社に譲渡することとなった。

その他、21年には、ベトナム最大の食品・食用油生産会社Kidoと4,000億VND(約1,740万ドル)を投資(ビナミルクは内51%)し、製品ブランドVibevで炭酸を除く清涼飲料水関連製品の生産、アイスクリームや冷凍食品の製造・販売を行った。しかし、22年に事業開発の方向性の変化やコロナウイルス等が原因の国内市場の不確実性の増大等を理由に、2年を待たずして解散となった。

(3) 外資系企業とのアライアンス強化

同社は外資との合弁やパートナーシップにも力を入れている。目立った動きとしては、15年頃のニュージーランドのミラカ社への出資に伴う牛乳加工工場建設、前述した21年のデルモンテ社とのフィリピン市場での拡販に向けた合弁が挙げられる。その他の取組としては、21年に、双日との合弁で牛肉製品の加工・販売事業への参入を決定した。 双日の畜産製品販売のノウハウとビナミルクの販売網を合わせ、ASEAN国内外での展開を視野に入れている。

また23年4月にビナミルクは、乳児用調整粉乳(粉ミルク)の原料供給に関する戦略的パートナーシップを兼松ベトナムやDSM(スイス)ら6社と締結し、ビナミルクの粉ミルク品質の国際水準への引き上げに取り組んでいる。

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MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Managing Director

池上 一希 氏

日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に入社、2018年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等に取り組む。

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三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のシンクタンク・コンサルティングファームです。国や地方自治体の政策に関する調査研究・提言、 民間企業向けの各種コンサルティング、経営情報サービスの提供、企業人材の育成支援など幅広い事業を展開しています。

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