BCGの中核は農業・食品、そして大麻?

BCGの中核は農業・食品、そして大麻?

公開日 2022.06.21

タイの新しい国家戦略「バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデル」とは改めて何か。タイ投資委員会(BOI)の資料の中では「足るを知る経済の哲学に則って安全保障、繁栄、そして持続性を持つ先進国家になる」とその基本概念を説明している。具体的な重点産業についてある資料では「食品・農業」「バイオ素材・エネルギー」「健康・医療」「観光・クリエーティブ産業」の4分野としているが、電気自動車(EV)関係、デジタル関係も対象に含めることもあり、まだ明確ではない。ただ、その中ではタイが強みを持つ「農業・食品」分野が中核であることは間違いない。

食品輸出の堅調さとタイの豊かさ

タイ投資委員会(BOI)は昨年来、タイのBCG産業における投資機会とBOI支援策に関するプレゼンテーションを何度も行っている。その資料では同産業分野におけるタイの優位性について ①生物多様性では世界18位 ②キャッサバ輸出では世界1位 ③バイオプラスチック輸出では世界3位 ④砂糖生産では世界4位 ⑤バイオディーゼル生産では世界5位 ⑥精米収穫量では世界6位-などとアピールしている。これらはいずれも植物など生物資源関係だ。

タイ工業省傘下の国家食品研究所(NFI)によると、タイの2021年の食品輸出額は前年比11.8%増の1兆1074億5000万バーツと、過去最高を記録した。市場シェアは2.3%、食品輸出国として世界13位の座を維持しているという。新型コロナウイルス流行のピーク時にはタイの主力の自動車産業など工業製品は世界の物流の混乱、半導体不足もあって急激に落ち込むなど大きな打撃を受けた。そんな中でも農産物・食品輸出はおおむね底堅さ維持した。こうした中でタイは改めて農業・食品に自らの強みがあることを認識しつつあるようだ。

先日、東北部ブリラム県を初めて旅行したがブリラム市の中心部にある巨大生鮮市場では野菜、果物、精肉など食材にあふれており、地方の農産物・食の豊かさを改めて実感できる。コロナ禍の中でよく言われた、タイ人はバンコクで仕事がなくなっても、田舎に帰れば何とかで生活していけると言う根拠の一つがこういうことなのだろうと感じた。タイの食料自給率は約150%とされ、日本を含めた先進国と違う豊かさを再認識する。

大麻もBCG経済の主要プレーヤー?

新型コロナウイルス流行が一つのピークを迎えていた昨年中ごろ、タイ産の伝統ハーブ「グリーンチレッタ(タイ語名ファータライジョーン)」が新型コロナの軽症患者に効果があるとしてタイ国内では大きな話題となった。漢方薬もそうだが、こうした伝統的な薬草の栽培は日本でも農業の新分野の一つとして注目されている。タイ人は昔からあちこちに生えているファータライジョーンを風邪薬としてちぎって噛んでいたという。それは今話題の大麻もタイ人にとっては同様の身近な薬草だったのかもしれない。

大麻については国際的にまださまざまな異論・反論があり、特に日本人は大麻自由化のタイ政府の姿勢に違和感を覚え、旗振り役のタイ誇り党とその党首アヌティン副首相兼保健相の政治的思惑を感じる向きもあるかもしれない。同副首相は最近ことあるごとに医療用に限定していることや、産業振興策であることを強調している。確かに大麻がさまざまな用途で製品化されれば、政府が推進するBCG経済モデルの中核である、農業、食品、そして医療分野の主要プレーヤーになる可能性もある。

大麻入りドリンクの販売、大麻フェア会場内にて = 6月11日、ブリラム

タイでライセンスを取得し大麻ビジネスをスタートさせたある日系企業の担当者は、「今まさにアジアでもグリーンラッシュ(大麻ビジネスの爆発的拡大)の第2波がタイを中心に始まっている。その市場規模は北米を追い抜くとも予想されている」と強調。その一方で、「違法業者による違法農薬の使用、違法製品のまん延という使用者が安心して利用できない状況も生まれている」と警鐘を鳴らしている。

THAIBIZ Chief News Editor

増田 篤

一橋大学卒業後、時事通信社に入社。証券部配、徳島支局を経て、英国金融雑誌に転職。時事通信社復職後、商況部、外国経済部、シカゴ特派員など務めるほか、編集長としてデジタル農業誌Agrioを創刊。2018年3月から2021年末まで泰国時事通信社社長兼編集長としてバンコク駐在。2022年5月にMediatorに加入。

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