公開日 2022.10.18
新型コロナウイルス流行による約2年半もの全世界的な「鎖国」から「開国」に向かう中で、観光立国タイの立ち直りの速さが目立つ。今後、タイの観光産業がどの程度のペースで回復していくのかなどを10月4日、タイ政府観光庁(TAT)のユタサック総裁にインタビューした。
(聞き手はTJRI編集部の増田篤とサラーウット・インタナサック)
目次
「ツーリズムEXPOジャパン2022」に参加するために9月20日に日本を訪問した。同EXPOの東京での開催は2018年以来4年ぶりだった。日本はタイにとって大きな市場であり、新型コロナウイルス流行前の2018~2019年には日本からタイへの旅行者数は180万人と世界6位だった。コロナ後はこれらの旅行者数は激減した。タイは昨年から「プーケット・サンドボックス」方式での受け入れを始めてから徐々に増えていたが、7月1日からはほぼ全面開放した。
今年1月から9月までのタイへの外国人旅行者数は約600万人(10月11日まででは657万人に)で、2019年の4000万弱からはほど遠い。今年の外国人旅行者数は1000万人と予想している。日本からの旅行者数は既に20万人で、今年末までに35万人に達する見込みだ。
外国人観光客の1旅行当たりの消費額が減少していることから、旅行者数を重視する戦略を見直している。タイ政府はTATに対し、タイに長期滞在し、より多く消費してくれるような「quality tourist」を増やすことを求めている。日本については「COSMO」と呼ぶ5つの分野に焦点を合わせる戦略を取っている。「C」は「Corporate」で企業旅行、「O」は「Older」で高齢者旅行、「S」は「Solo」で個人旅行、「M」は「Me、Mom and more friends」で日本人女性の家族や友人などのグループ旅行、最後の「O」は「Outdoor」旅行だ。われわれは日本の若者にタイを訪問してもらい、ゴルフやダイビングなどのアウトドアスポーツを楽しんでほしいと思っている。そしてわれわれはこのCOSMO向けに設計されたパッケージツアーのために日本の旅行会社と一緒に「今こそ、タイへ」というキャンペーンを始めている。
一方、日本が10月11日に新型コロナウイルス対策の水際規制を大幅緩和したこともタイにとって大きなインパクトとなり、円安もあって年末までにタイ人の日本旅行も増えるだろう。タイ人は日本とその文化・食が大好きだ。コロナ前は日本人のタイ旅行者数は約180万人、タイから日本への旅行者数が130万人で、この50万人の黒字は短期、長期で維持していきたい。
今年これまでの外国人旅行者数でトップはマレーシア(10月11日までの累積108万4597人)だ。以下、インド(同60万6143人)、ラオス(同46万3015人)、カンボジア(33万5509人)、シンガポール(33万3130人)などと続く。これは現在、世界的に航空便数が限られ、飛行機のチケット代が高いという問題があり、一方、タイの隣国の旅行者は車で入国できることを反映している。ただ航空会社と旅行会社に対し、特に冬期休暇にはタイへの旅行需要は強いと説得しており、旅客輸送能力を今年夏に比べ74%増やすことに成功した。このため今年の外国人旅行者数の政府目標1000万人の達成を確信している。さらに、冬季には欧州、米国という長距離路線が戻り始めるため、外国人旅行者のランキングも変化するだろう。また、冬季のガス価格の上昇を背景に、旅行者にタイに来ることでガス料金を節約でき、プールビラに滞在してタイを満喫できるという「Always warm(常に暖かい)」キャンペーンを始めている。「warm」というコンセプトは、「warm weather」「warm hospitality」「warm welcome」で、このキャンペーンは2023年第1四半期まで継続する予定だ。
インドはタイにとって極めて重要だ。コロナ前でもトップ5に入っており、毎年増えていた。中国人旅行者は、中国政府が海外旅行を解禁するまで待たなければならないが、もうすぐだと思う。中東は欧米など長距離路線の旅行者が母国に戻った後の5~7月などの夏季に期待できるだろう。
気にしていない。なぜなら為替相場の変動はタイ旅行の判断に関係がなく、旅行は気持ちの問題だからだ。ただ、長期的には購買力の増減に影響することには留意する必要がある。
コロナ前はタイ経済に大きく貢献していた。実際、観光産業のサプライチェーンは極めて長く、草の根経済にもインパクトを与える。タイ政府は現在、TATに対し、観光収入をコロナ前の2019年比50%の水準を回復するとの目標を課した。来年には80%を目指しており、タイの観光産業は来年、外国人旅行者数2000万人で完全回復する。それ以上は中国次第だ。旅行者数がピーク時の半分でも観光収入80%を達成するためにTATは観光客の質の向上に注力する。
観光商品は本来、「自然」、ディズニーランドのような「人が作った商品」、「アクティビティー」の大きく3分野があるが、タイの場合は90%が自然であり、美しいビーチがあるから来る。しかし、コロナ後は新たに「NFT」というコンセプトで分野を再構成した。「N」は「Nature(自然)」だが、環境保護が求められる。「F」は「Food(食)」の探求で、タイにはストリートフードからミシュラン店まである。「T」は「Thainess(タイらしさ)」で、フェスティバル、伝統、ファッションなどだ。これらが、タイに質の高い訪問者を呼び込むために焦点を合わせている主要な魅力だ。
われわれは国内外の旅行者を誘致するために、22カ所を主要観光地、55カ所をsecondary cities(知名度の低い都市)として定義している。コロナ後も知名度の低い観光地の振興策は続けている。人々はパタヤやカオヤイなどバンコクから近い観光地に行きがちだが、われわれはもっと遠くに行ってほしいと思っており、多くの航空会社に旅客便数を増やすことで協力してもらっている。
知名度の低い都市に行った場合の現地の交通手段についてはもっと地元交通機関、自動車を使うよう勧めているが、同時に関係機関と協力して交通インフラ改善を含めたサプライサイドを整備する準備をしている。
もし、OTOP商品を土産物にしたいと思うなら、商品の大きな見直しをしなければならない。OTOPは地方の人々の収入増のための仕組みだが、売り手は観光客のニーズや行動に対応するためのコンセプトを採用する必要があるだろう。例えば、若者、高齢者、個人旅行者のニーズはそれぞれ違う。旅行者のための土産物作るためには、(OTOPの)マインドセットを変えなければならない。われわれは観光地にOTOP商品がほとんどないことを知っている。なぜならOTOPは国内市場向けだからだ。
私がTAT総裁に就任した後、日本の多くのコンセプトをタイに導入しようと試みた。例えば「道の駅」を導入しようと考えたが、国営タイ石油会社(PTT)のガソリンスタンドと競争できないのでうまく行かなかった。今、日本の「B級グルメ」のコンセプトを今年導入しようと計画している。また、国連教育科学文化機関(ユネスコ)による創造都市(クリエーティブ・シティーズ)ネットワーク選定で、プーケット県とペチャブリ県がガストロノミー(食文化)分野で認定されているが、まだやらなければならないことは多い。料理を食べるだけではなく、食を探す。例えばイサーンでは、コラート(ナコンラチャシマ)、コンケン、ウボンラチャタニ、ウドンタニのレストランは今年のミシュランガイド・タイに掲載されるだろう。
TATはこのアイデアを導入しており、直接関係がある。タイが促進したいと考えている商品を見ると、NFTのN(自然)があり、国内外のタイ旅行者には自然を維持してほしいと望んでおり、これはBCGだ。F(食)に関しては食品廃棄物を減らそうとしている。T(タイらしさ)では、われわれが世界中の旅行者に取り入れてほしいと思っている製品はBCGモデルに沿ったものだ。
最後に日本と日本人に対するメッセージを言うとすればやはり、「今こそ、タイへ」だ。
TJRI編集部
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