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カテゴリー: ビジネス・経済, ASEAN・中国・インド
公開日 2025.07.25
NNAがアジアの日系企業駐在員らを対象に実施した調査で、勤務する国・地域の2025年下半期(7~12月)の景気が25年上半期(1~6月)から「穏やかに下降」または「下降」するとの見通しが合計35.7%に上った。悲観的な予測は前回調査の23.6%、前々回の19.3%から拡大。米国の「トランプ関税」による外需の不透明感に加え、進出先の内需も振るわないとする声が目立った。
25年下半期の景気予測について、最も多かったのが「横ばい」で全体の41.3%だった。ただ横ばい予測は、前回調査(24年12月実施、25年上半期の景気予測)の47.8%、前々回調査(24年6月実施、24年下半期の景気予測)の45.4%からは減っている。一方で「穏やかに下降」が27.8%、「下降」が7.9%となり、悲観的な予測は前回調査、前々回調査から拡大した。「穏やかに上昇」は20.2%、「上昇」は1.0%だった。
国・地域別に見ると、悲観的な予測(「下降」と「穏やかに下降」の合計)の比率はタイが51.3%で最も高かった。「米国関税の影響、および政治不安などが景気下振れ要因」(鉄鋼・金属)など、トランプ関税やカンボジアとの国境問題を巡るペートンタン首相(職務一時停止中)の発言に端を発した政局不安を懸念する声が目立った。「自動車が売れない」(四輪・二輪車・部品)と自動車生産・販売の低迷を景況感悪化の理由とする回答も多かった。
次いで悲観的な予測の比率が高かったのはインドネシアで44.6%だった。同国の25年第1四半期(1~3月)の実質国内総生産(GDP)成長率は、消費、公共投資が伸びを欠き前年同期比4.87%と、21年第3四半期(7~9月)以降で最低となった。「現状でも景気が冷え込んでいるが、トランプ関税発動でさらに落ち込むのでは」(建設・不動産)、「インフレ進行による買い控え」(貿易・商社)、「中間所得者層の絶対数が減少しているうえに、消費マインドは冷えていると感じるから」(貿易・商社)とトランプ関税のほか国内消費の低迷を不安材料とする回答が目立っている。
香港も悲観的予測が40.0%と4割に達した。香港では隣接する中国広東省深センなどへ市民が出かけて消費が流出する現象「北上消費」が、小売業界や飲食業界に打撃を与えている。回答者からは「現地のスタッフも週末は深センへ買い物に行く話をよくしている。最近、香港に以前からある店が閉店する話をよく耳にするようになった」(公的機関)と消費低迷を肌で感じるとする声が上がっている。
ほか悲観予測が3割を超えたのは中国(38.5%)、マレーシア(37.5%)、台湾(36.4%)、シンガポール(33.3%)、オーストラリア(32.6%)。理由としては「米中貿易摩擦や市場の落ち込みの回復が見えない」(中国/石油・化学・エネルギー)、「電気自動車(EV)関連の引き合いがなくなってきた」(中国/機械・機械部品)、「米関税、売り上げ・サービス税(SST)拡大、電気料金改定の影響などマイナス要因が多いため」(マレーシア/貿易・商社)、「米国関税、為替(台湾元高)」(台湾/金融・保険・証券)、「(景気は)1~6月は上昇したものの、需要先食いとみている」(シンガポール/機械・機械部品)などが挙がっている。
インドやベトナムは楽観
一方、インドやベトナム、フィリピンは25年下半期の景気を楽観する見方が悲観的な予測を上回っている。25年下半期の景気が25年上半期から「穏やかに上昇」「上昇」するとの回答の合計は、インドで60.0%、ベトナムで40.7%、フィリピンで36.1%となった。
インドは、国際通貨基金(IMF)が25/26年度(25年4月~26年3月)の実質GDP成長率を6.2%、世界銀行が同6.3%と予測。トランプ関税の影響が指摘されてはいるが、他の東南アジア、東アジア諸国・地域に比べ高いペースでの経済成長が見込まれている。「世界経済は不安定だが内需が安定成長」(石油・化学・エネルギー)、「人口ボーナス期による経済成長」(電機・電子・半導体)、「引き続き自動車生産および公共事業投資が旺盛なことを予想している」(貿易・商社)と自国内での消費や投資が好調を維持するため、景気も上昇するとの予測が出ている。
他の東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国に先駆けて、7月2日に米国との関税交渉合意が発表されたベトナム。「関税が当初の46%より大幅に下がり、ASEAN内でも他国より低く輸出の優位性が期待される」(サービス)、「トランプ関税が域内で1番低いため、外需はベトナムに戻る」(石油・化学・エネルギー)と、20%に落ち着いた米国の関税率が域内での競争で優位につながるとの意見が多かった。
フィリピンでは「経済成長に伴い、肌で感じる景気も上昇すると期待」(その他の製造業)、「他国より北米の関税が低い」(四輪・二輪車・部品)と、ASEANでも比較的堅調な経済、7月9日時点で20%となっている米国の相互関税税率を背景に、景気先行きを楽観する声が多数を占めている。
韓国は悲観的予測と楽観的予測がいずれも23.1%で拮抗(きっこう)。横ばいとの予測は53.8%で、調査対象国・地域の中でマレーシア(54.2%)に次いで高かった。横ばい予測の理由としては、「米国関税の影響が継続することと、内需拡大につながる材料が乏しい」(電機・電子・半導体)、「景気上昇のきっかけが見当たらない」(貿易・商社)と、景気安定というよりは上向く理由が見つけにくいといった意見が目立った。
25年下半期の景気見通しを業種別に見ると、悲観的な予測の比率が高かったのは「繊維」(63.6%)、「その他の非製造業」(50.0%)、「運搬・倉庫」(46.9%)、「四輪・二輪車・部品」(44.9%)など。楽観的な予測は「建設・不動産」(40.7%)、「金融・保険・証券」(32.0%)、「機械・機械部品」(26.8%)の順で高かった。
現在の景気、悲観が4割強
25年上半期の景気が24年下半期と比べどうなったかを聞いたところ、「穏やかに下降」「下降」したとする回答の合計が40.9%に達した。「横ばい」の36.5%、「穏やかに上昇」「上昇」の合計21.1%を上回った。
国・地域別で悲観的な回答の比率が高かったのはインドネシア(68.6%)、香港(51.4%)、タイ(48.7%)、韓国(46.2%)、マレーシア(45.8%)、中国(44.0%)。理由としては「中間所得層を中心に将来不安が募り、自動車などの耐久消費財に対する消費が下降傾向にある」(インドネシア/四輪・二輪車・部品)、「自動車が売れない」(タイ/四輪・二輪車・部品)、「トランプ大統領就任による混乱(特に関税政策)で海外向け輸出市場が鈍化」(中国/電機・電子・半導体)、「大型案件の減少とデフレにより値段交渉が難しくなったため」(中国/機械・機械部品)などがあった。
楽観的な回答の比率は、ベトナム(55.9%)、台湾(45.5%)、インド(40.0%)、シンガポール(33.3%)、フィリピン(30.6%)で高い。「米国の追加関税の期限までの対米国の駆け込み製造・輸出が増加したと思われる」(ベトナム/機械・機械部品)、「人工知能(AI)関連の拡大」(台湾/機械・機械部品)、「自動車生産・販売回復」(インド/石油・化学・エネルギー)、「一時ほどの上昇率は感じないものの、引き続き高止まり感はある」(シンガポール/貿易・商社)といった理由が挙がっている。
上期業績見通し、「減収減益」最多
自社現地拠点の25年上半期の業績見通しを聞いたところ、前年同期に比べ「減収減益」との回答が31.4%で最も多かった。これに「増収増益」(21.8%)、「前年同期並み」(20.8%)が続いた。
国・地域別では、「減収減益」予測が目立ったのは香港(48.6%)、タイ(42.1%)、中国(37.0%)、マレーシア(33.3%)、インドネシア(31.4%)、オーストラリア(30.2%)。「増収増益」の回答比率は韓国(46.2%)、フィリピン(38.9%)、インド(32.5%)で高い。
業種別で見ると、「減収減益」は「繊維」(45.5%)、「食品・飲料」(44.4%)、「四輪・二輪車・部品」(44.1%)で4割を超え、「鉄鋼・金属」(38.7%)、「運搬・倉庫」(34.4%)、「貿易・商社」(34.1%)、「建設・不動産」(33.3%)、「石油・化学・エネルギー」(32.1%)、「機械・機械部品」(31.7%)、「その他の非製造業」(31.3%)でも3割以上となった。「増収増益」は、「電機・電子・半導体」(40.3%)が最も高く、これに「その他の非製造業」(31.3%)、「小売り・卸売り」(29.2%)、「サービス」(29.2%)、「鉄鋼・金属」(25.8%)、「機械・機械部品」(23.2%)、「貿易・商社」(20.0%)が続いた。
<アンケートの概要>
調査は25年7月10日から15日にかけて、アジア太平洋地域の駐在員らにインターネットで実施。12カ国・地域の687人が回答した。業種の内訳は製造業が48.0%、非製造業が47.6%、公的機関などその他が4.4%だった。国・地域別の内訳は中国200件、インドネシア121件、タイ76件、ベトナム59件、オーストラリア43件、インド40件、フィリピン36件、香港35件、マレーシア24件、台湾22件、シンガポール18件、韓国13件などとなっている。
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