【中国で勝ち抜く】EV部品を現地開発 ~TPR、中国で技術吸収し成長へ~

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

【中国で勝ち抜く】EV部品を現地開発 ~TPR、中国で技術吸収し成長へ~

公開日 2025.08.22

NNA掲載:2025年6月16日

世界的な電気自動車(EV)シフトで内燃機関部品メーカーが変革を迫られる中、中国企業と共同でEV向けの部品開発に乗り出し、商機をつかんだ企業がある。自動車エンジン用パワートレイン大手のTPRは、中国企業と合弁で調査・研究と企画・開発を手がけるR&Dセンターを立ち上げ、EV向けモーター部品や電池関係部品に付加価値をつける技術を開発。中国大手から受注を獲得することに成功した。生産の場から“技術を吸収し、開発する”場へ――。外資企業にとっての中国の位置付けが明確に変わりつつある。

安徽省安慶市の高速鉄道駅から車で30分ほど走ると、工業団地の中にその建物が見えてきた。TPRが2022年に中国自動車部品メーカーの安徽環新集団(ARN)と折半出資で設けたR&Dセンターだ。

TPRは1996年にARNと合弁を設け、中国でエンジン部品を生産してきた。22年に設けたR&Dセンターでは、EVなどの「新エネルギー車(NEV)」やCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)に対応する新技術・新製品の開発を進めている。

TPRが中国自動車部品メーカーの安徽環新集団(ARN)と折半出資で設けたR&Dセンター
=2025年4月、安徽省安慶市

当時、中国政府は販売補助金などを通じてNEV普及を後押ししており、NEVの販売台数は既に350万台を超える規模になっていた。「今後もNEVに対する大きな需要が見込める」と判断し、それぞれの合弁会社ごとに分かれていた新商品開発体制を改め、合弁R&Dセンターに統一した。

現在は新製品の7~8割を中国で技術開発する。23年から売り上げが立ち始めた中国のNEV関連製品は、24年の売上高が前年から2倍以上増え、25年には前年比2.5倍に増えると見込む。

立場が逆転

中国での研究開発体制を改めるきっかけになったのが、「EVシフトでエンジン部品がなくなっていくのではないか」という危機感だ。

TPRはエンジン部品のピストンリングやシリンダーライナーで世界的なシェアを誇るが、EV化が進む中でエンジンが減り、部品の需要も減っていくと予想した。NEV市場が急成長する中国のスピードを目の当たりにした衝撃は大きく、現地での開発が最善と判断した。

エンジン部品で培った技術をEV向けの部品にも活用している。もともとシリンダーライナーに使っていた技術をEV用モーターの軸受けに転用したり、モーター内部にある回転軸のシャフトと組み合わせる高機能の樹脂部品を手がけたりしている。

「中国は日本に比べて、圧倒的にEVに関する技術情報があふれている」。現地に技術開発拠点を持つ強みについて、TPRの常務執行役員で、中国総代表の堀切秀彦氏はこう力を込める。変化の早い中国のスピード感に対応していくためには、トライしながら課題を解決していく必要があり、「顧客と向き合いながら課題を聞き、改善した技術を提案できるかどうかにかかっている」と話す。

TPR中国総代表の堀切秀彦氏は「市場も技術力も、中国は世界トップレベルになる」と話す
=2025年4月、安徽省安慶市

開発だけでなく、合弁パートナーのARNとは販売面でも連携する。「ARNの中国系自動車メーカーへの営業力は強く、中国の全ての自動車メーカーと付き合いがある」といい、「日本企業が中国系自動車メーカーから受注するのは非常に困難」と指摘する。

早くから中国系顧客の開拓を進めてきたこともあり、中国事業の25年3月期(24年4月~25年3月)の売上高は中国系メーカー向けが65%を占めた。日系向けは13%、欧米系向けは22%で、中国系の割合は圧倒的だ。

新しい取り組みとなるバッテリー関連部品では、日本や中国のメーカーから技術供与を受ける形で開発を進め、現在は試作品を顧客に納入している段階。

中国でNEV市場が急成長する中、堀切氏は「教える側の日本、教えられる側の中国という立場は徐々に均衡し、EVでは逆転されている」と指摘する。「中国ではどのようにして次の技術で主導権を取るかにかかっている。どういった技術が求められてくるか、移動をもっと快適にするためには何が必要か見定める必要がある」とみている。

TPRが次に目指すのは、複数の部品を組み合わせたユニット製品の開発だ。中国ではユニットで部品を調達することが多く、「従来のエンジン部品のようにピストンリングのみを取り換えるような取引はなくなる」と見通す。

中国企業の海外展開支援も

中国の自動車市場はメーカーが乱立し、激しい競争を通じたふるいにかけられ、結果として比亜迪(BYD)という世界でもひときわ存在感を放つ自動車メーカーを生み出した。中国企業は海外への展開を進めており、これがTPRにとって新たな商機になるとみる。

堀切氏は「中国の自動車メーカーは中国政府の国策という恩恵の下に育ってきた面がある。海外展開を進めているが、北米や欧州などの市場はやり方が異なり、さまざまな課題にぶつかることになる」と指摘する。

そこで、既に北米や東南アジア諸国連合(ASEAN)、欧州に展開するTPRとしての強みを生かし、合弁パートナーである中国企業の海外展開をサポートしていく考えだ。

合弁による海外展開にも期待する。そうした取り組みの第1弾として、昨年にARNとの合弁でメキシコに工場を設置。EV部品を北米に供給する。

「市場も技術力も、中国は世界トップレベルになる。これまでは米国、欧州、日本が主導してきた自動車業界が、これからは中国だという現実をまざまざと見せつけられている」と堀切氏は語る。「ここで勝負しないならどこでやるのか。中国はそれだけ大きく、魅力的な市場だ」と意気込みを示す。

いまや日本よりも進む電動車技術を中国から取り込む。中国政府がさまざまな先端技術の開発を強力に支援する中、世界を代表する中国企業も複数育ってきた。自動車分野に限らず、幅広い分野で中国から技術を吸収する外資の動きが広がる可能性を秘めている。

NNA ASIA

12カ国・地域から1日300本のアジア発のビジネスニュースを発信。累計100万本以上の圧倒的な情報量で日系企業のビジネス拡大に貢献します。

NNAの購読について詳細はこちら

Recommend オススメ記事

Recent 新着記事

Ranking ランキング

TOP

SHARE