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公開日 2026.01.08
2025年のタイは、3月のミャンマー大地震、5月以降のカンボジアとの国境紛争とそれが発端となったペートンタン政権からアヌティン政権への交代、11月の南部大洪水といった国を揺るがす出来事が次々と起きた。その結果、25年の経済成長率は年初に見込まれていた2.8%から下方修正され、2%程度に減速するとみられている。トランプ米政権の「相互関税」の税率が当初の36%から19%に引き下げられたことや、関税発動前の駆け込み輸出で一時的に経済が押し上げられたことは好材料だった。しかし、対米輸出は需要の先食いによる反動減が既に一部の品目で始まっただけでなく、12月27日に停戦合意したカンボジアとの国境紛争が再び激化すれば、停戦を仲介してきたトランプ氏が関税の引き上げを持ち出す可能性もある。紛争・災害・政局の三重苦が引き起こした先行きの不透明感や来年の低成長予測を払拭できるかどうかは、アヌティン首相が早期の下院解散に打って出たことで来年2月に実施される総選挙の行方次第となりそうだ。

目次
5月下旬に東北部ウボンラチャタニ県のカンボジア国境地域で発生した交戦が国境紛争に火を付けた。6月に国境が全面的に閉鎖され、7月に起きた大規模衝突では民間人を含め30人以上が死亡したが、トランプ米大統領が関税交渉中だった両国に圧力をかけ、5日間で停戦した。
10月にはトランプ氏の立ち会いの下、両国が和平合意に調印。11月に入り国境地帯の重火器の撤去が始まったものの、タイ兵士が地雷で負傷したため、タイ政府はわずか10日で和平合意の履行を停止した。トランプ氏は両国の首脳と個別に電話会談し自制を求めた。
だが、この時からタイ政府は「カンボジア側が違反した」と強調し、強硬的な姿勢を見せ始める。そして、12月7日に衝突が再燃すると、タイ軍はF16戦闘機でカンボジア領内の軍事拠点などを空爆。トランプ氏は再び両国首脳と電話会談し仲介を図った。27日には両国が攻撃の停止で再び合意した。7日から27日までの双方の兵士・民間人の死者数は少なくとも58人となった。
カンボジア人労働者の帰国や国境閉鎖の継続により企業活動にも影響が出る中、アヌティン政権が強硬な姿勢を取ってきた理由として、タイ政治の研究者は「国民の軍部に対する支持の高まりという世論の流れを受け、次の選挙で多くの票を得るためだ」との見解を示した。
23年から政権を主導したタクシン元首相派の「タイ貢献党」が下野し、政治混乱の機に乗じた下院第3党の「タイの誇り党(名誉党)」が政権を奪取した。
タクシン氏の次女で貢献党の党首を務めていたペートンタン首相(当時)は、6月中旬にカンボジアとの国境問題を巡って、同国のフン・セン上院議長との会話が流出。発言を問題視した連立政権第2党の誇り党が連立から離脱した。ペートンタン氏は内閣改造で政権維持を狙うも、憲法裁判所は同氏の発言が倫理基準に反すると判断し、8月に首相解職を命じた。
さらに、貢献党の実質的なリーダーだったタクシン氏の収監も、同党にとって大きな打撃となった。最高裁判所は9月、タクシン氏に対し、23年の帰国後に健康問題を理由に収監逃れをしたとして刑期1年を命じた。
混迷する政局の中、誇り党のアヌティン党首は、民主派の最大野党「国民党」に4カ月以内の下院解散を約束し、協力を得て9月に政権を樹立した。主要な経済閣僚に外部人材を登用し「コン・ラ・クルン(コーペイメント)・プラス」などの目玉施策を実施。だが少数与党の政権運営の限界を理由に、12月12日に下院を解散した。来年2月8日に迎える総選挙では、国民党・貢献党・誇り党の3党が激しく争う見込み。

3月28日に発生したミャンマーを震源としたマグニチュード(M)8.2の地震による揺れは、震源地から約1,000キロメートル離れた首都バンコクでも観測され、大混乱に陥った。ビルの一部が剥落し、亀裂が生じるなど建物への被害が出たほか、公共交通機関が運行を停止。ペートンタン首相(当時)はバンコクを対象に非常事態宣言を出した。
特に衝撃を与えたのが、チャトチャック地区で建設中だったタイ国家会計検査委員会事務局(SAO)の新庁舎ビルが全壊したことだ。作業員ら少なくとも89人が死亡、7人が行方不明のままの大惨事となった。8月には、同ビルの建設を担当していたイタリアンタイ・デベロップメントと、同社と合弁会社を設立した中国中鉄傘下の中鉄十局のタイ法人および両社の幹部らが、不正建設によって死者を出したとして起訴された。

1年を通して各地で大雨や洪水が発生し、深刻な人的被害が出た。北部と中部では、雨期の終盤となった9~10月に16人が死亡する洪水が起き、10月下旬から11月上旬にかけてはモンスーン(季節風)の豪雨による洪水で、28人が死亡した。
そして11月17日以降の豪雨が引き起こした南部の洪水はソンクラー県を中心に甚大な被害をもたらし、犠牲者は270人以上に上った。洪水の影響を受けた人は410万人を超えた。北東モンスーンが強まったことで、南部最大都市のソンクラー県ハジャイでは1日当たりの雨量が335ミリと、過去300年で最多を記録した。
南部の洪水では初動対応に遅れたアヌティン首相への批判が強まった。一方、エクニティ副首相兼財務相は、経済損失が5,000億バーツ(約2兆5,000億円)に上るとの見通しも明らかにした。
水資源管理の専門家は「政府は『最悪の事態に備える』という考え方へ転換する必要がある。これまで300年に一度の災害に対応できるインフラを設計するための十分な予算はなかった。しかし、従来の防災・インフラ設計の前提はもはや適切ではなく、政策と予算配分を見直す必要がある」と述べた。
米国で1月、第2次トランプ政権が発足した。トランプ大統領は4月、貿易相手国への「相互関税」を課すと発表。タイには当初36%の税率とされたが、閣僚らが米国を訪問して協議を重ねた結果、19%まで下げられ、8月に発動した。
相互関税の新税率適用前には、米国向け輸出が伸長する「駆け込み需要」がみられた。1~10月の米国向け輸出額は588億米ドル(約9兆1,670億円)で、前年同期比で29%増。一方で今後は反動減が懸念される。
米国は10月、タイとの相互貿易協定の枠組みを発表。タイが米国からの輸入品の約99%に対する関税を撤廃するほか、米国の安全基準や排出ガス基準に準拠した自動車の輸入受け入れなど非関税障壁を緩和することが示された。相互貿易協定は12月時点でも締結に至っておらず、交渉は継続している。下院解散後の暫定政権下であるため、正式合意は総選挙を経て新政権の発足後となる見通し。
9月下旬に発足したアヌティン政権のスパジー商務相は米国以外の市場開拓を強化する方針を掲げ、欧州連合(EU)や韓国との早期の自由貿易協定(FTA)締結や、中東やアフリカなど新規市場への輸出拡大を推進する姿勢を示した。
25年のタイ経済は、最低賃金の引き上げが進む一方で内需の回復が鈍く、低成長にとどまった。国家経済社会開発委員会(NESDC)が11月に発表した第3四半期(7~9月)の実質国内総生産(GDP)成長率は前年同期比1.2%と、第2四半期の2.8%から大きく減速し、4年ぶりの低水準となった。
政府は7月1日、経済活動の活性化に向けて、バンコクなどの特定地域と、全国の観光業を中心に、最低賃金を1日当たり400バーツに引き上げた。景気減速下での人件費上昇に対し、タイ工業連盟(FTI)やホテル業界からは中小企業の負担増を懸念する声が相次いだ。実際、第3四半期は製造業や観光業の伸びが鈍化し、個人消費も横ばいにとどまった。
通年のGDP成長率については、サイアム商業銀行傘下の研究機関が、輸出の想定以上の伸びや政府の消費支援策を背景に、予測を2.1%へ引き上げた。一方、FTIなどの経済3団体は南部の洪水被害などを理由に、成長率は2.0%にとどまるとの見通しを示した。

25年のタイの自動車産業は、生産・販売に持ち直しの動きがみられた。国内向けの電気自動車(EV)の生産積み増しを背景に、9月以降の単月の生産台数は前年同月比で3カ月連続でプラスとなった。年初来の累計生産台数もマイナス幅が縮小し、市場関係者の間では底を打ったとの見方が広がる。
販売面では、11月の新車販売台数は前年同月比20.6%増と8カ月連続で前年を上回り、価格帯が下がったEV乗用車が伸びた。ピックアップトラックも、購入層の財務状況改善や金利低下を背景に、久しぶりに前年割れを免れた。
こうした状況の中、メーカーごとに置かれた立場の違いが鮮明になった。日系メーカーでは、国内需要の低迷や輸出環境の悪化を受け、三菱自動車と日産自動車が生産規模を絞り込む形で工場再編を進めた。中国系メーカーは、EV振興策「EV3.0」に基づく現地生産ノルマの期限が迫る中、在庫消化のためEVの値引き販売を強めた。その結果、比亜迪(BYD)などで販売台数は伸びたが、同時に価格競争は一段と激化した。
政府は過度な競争や供給過剰を抑えるため、EV振興策の修正に踏み切った。市場は底を打ったものの、本格回復にはなお時間を要し、日中メーカーともに戦略の再構築を迫られる局面が続いている。
25年にタイを訪れた外国人観光客は前年割れとなる見通しだ。中国人観光客が3割以上の大幅減となったことが主因で、代わりにインドやロシアからの観光客が伸びたが穴は埋まらなかった。
中国人客減少の背景には、1月に発生した中国人の男性俳優拉致事件に端を発したタイの安全性への懸念がある。男性俳優はタイに入国後、犯罪組織によりミャンマーへ連れ去られ、特殊詐欺への加担を強要されていた。タイ警察に保護されたものの、事件は中国の交流サイト(SNS)などを通じて拡散し、タイに対する危険なイメージが広がった。
これを受け、タイ政府は2月、詐欺拠点対策としてミャンマー東部カイン(カレン)州などの5カ所への送電を停止。国境を接するミャンマーの拠点から多数の外国人を保護するなど対策を講じたが、中国発タイ行きの便はキャンセルが急増し、その後も回復しなかった。
さらに足元ではバーツ高が進行し、対米ドルの為替レートは4年半ぶりの高値を記録。インドのルピーや日本の円、英国のポンドに対してもバーツは強含みでタイの観光業界は気をもんでいる。

25年のタイでは、日系の飲食・小売業が成長市場への布石を打つ動きが相次いだ。現地の日本食需要は堅調に推移し、外食を中心に専門店が次々と進出。競合がひしめく中でも、差別化や地域戦略で商機を広げている。
飲食では、つけ麺が看板のラーメン店「中華蕎麦とみ田」やもんじゃ焼き専門店「もへじ」など、日本独自の食文化を前面に出した専門店が1号店を開業。その専門性や体験価値が現地での支持を集めている。
郊外での開業を選んだ回転ずし「はま寿司」は、新興住宅地を狙った出店戦略が注目された。開業初日は昼過ぎに600人待ちとなる盛況ぶりで、現地の関心の高さがうかがえた。このほか、物語コーポレーションや任天堂のように、将来の事業展開を見据えた現地法人設立も進んだ。
小売りでは、しまむらがマスコットキャラクター「しまうさ」を前面に打ち出した衣料品店を新業態で展開。電子商取引(EC)との併用で現地消費者の信頼獲得を図るなど、タイ進出を東南アジア全体への拠点構築と位置付ける。無印良品は体験型空間を強化した東南アジア旗艦店を開業した。タイを域内の最重要拠点と位置付け、30年までに10店舗を追加開設する計画だ。
現地商業施設の集客力も相まって、日系サービス業全体が域内展開の足がかりとしてタイ市場に寄せる期待は、一段と高まっている。
タイで同性婚を認める改正法が1月に施行された。東南アジアでは初、アジアでは台湾、ネパールに次ぐ3カ国・地域目となった。施行日には全国で1,839組の同性カップルが結婚届を提出した。
民商法を改正し、婚姻を男女間に限定せず、18歳以上の「人と人の間」と変更した。結婚や離婚、財産、相続、養子縁組、病院への入院などに関わる権利や義務が男女間同様に付与された。カップルが双方とも外国人の場合でも、タイ国内で結婚登録ができる。
同性婚法制化はタクシン政権時代の01年に初めて提案されたが、反対の声が強く立ち消えとなった。だが、19年にプラユット政権下で法改正案が復活し、セーター政権下の24年3月に下院、同年6月に上院をそれぞれ通過した。民商法の改正法成立にはセーター元首相が大きな役割を果たした。セーター氏は住宅開発大手サンシリの元社長兼最高経営責任者(CEO)で、首相になる以前から多様性を重視した社会を目指すことを掲げて企業経営をしてきた。

シリキット王太后が10月24日、93歳で亡くなった。16年に死去したプミポン前国王の妻で、ワチラロンコン国王の母。体調不良のため19年9月から首都バンコクのタイ赤十字チュラロンコン病院に入院していた。
政府は、公務員、国営企業の従業員、政府職員が1年間喪に服すと発表した。国民にも90日間は黒または控えめな色の服を着用するよう協力を呼びかけた。
商業施設などではショーウインドーなどに展示する衣服が一斉に黒色に切り替わった。日系各社も、企業のウェブサイトやソーシャルメディアにお悔やみを掲載する、広告などの色味を控えめなものに調整するなどの対応を実施した。
服喪期間に予定されていたコンサートや花火大会などのイベントや、11月の伝統行事「ロイクラトン(灯籠流し)」は、祝賀的な要素を取り除くなど内容の調整や延期などの対応がなされた。

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