カテゴリー: 自動車・製造業, ASEAN・中国・インド
公開日 2025.05.09
2025年3月末のバンコク国際モーターショー(BIMS)では、成約台数でBYDがこれまでモーターショーで一貫して首位をキープしてきたトヨタを抜き、初めて首位に立った。上位10ブランドのうち中国勢が5ブランドを占め、日系勢に並んだ。
BIMSの成約台数は自己申告制で実際の販売との差は大きいという指摘はあるものの、昨年のBIMSと比べると、中国メーカー各社は成約台数を倍増させ、ラインナップ拡充や大幅値下げによる販促を強めている。さらにBYD以外の新興ブランドが浸透しつつある点も注目される。
目次
今年のBIMSの成約件数は7万7,349台と、昨年の5万3,438台から45%増と好調であった。昨年から続く自動車の国内販売の低迷からみれば、回復の兆候がみられると言いたいところだが、筆者は景気が悪いこともあり、各社の主要モデルの値下げが成約件数の増加に影響したとみる。
自動車の全体市場は依然として厳しい状況にあり、販売低迷の主因となっている不良債権率は高い水準で推移しており、成約件数がどれだけ実際の販売に結び付くかは慎重にみる必要がある。
ブランド別では、BYDが首位、トヨタが2位となったことはメディア的に大きな話題となっているが、その他に注目される点として、広州汽車(GAC)が昨年の7位から3位に、長安汽車(Changan)は6位から4位に上がるなど、新興中国勢のプレゼンスが上がっていることだ。
また、今回初参加のJaecooも11位と健闘した。さらにZeekrやXPeng等の比較的高価格帯の中華系EVブランドも順位を上げている。一方で、中国勢のなかで最もタイの進出の歴史が長い上海汽車(MG)は、EVの新規モデルのMG4を投入したが伸び悩み、順位を落としている。また、低価格EVで一時EV販売で2位だったNetaに至っては、昨年に比べて成約台数が減った。BYDや広州汽車が競合する廉価EVモデルでの販売攻勢を強めたことの影響が出た(図表1)。
BIMS 2025の特徴は主に5点あり、それぞれについて下記で触れる。
BYDが昨年に比べて倍増している要因として、モデルラインナップの拡大と、激しい値下げ攻勢の2点が挙げられる。BYDは昨年の5モデルから今年は8モデルを販売しており、新しいモデルとしては上級SUVのSealion7、ピックアップのShark6、乗用バンのM6が加わった。
プラグインハイブリッド(PHEV)のSealion6はモデル名としては新しいが、去年SealionUの名で先行予約受付。特に、昨年末に販売開始したSealion7が加わったことが大きい。これでBYDはフルモデルラインナップがほぼ揃ったと言えよう。
成約台数の内訳をみると、Dolphinが約4,000台、Sealion7が約2,000台、Atto3が約2,000台と、上位3モデルで全体の8割を占める。Dolphinが昨年に比べて約倍増しているのは、人気が上がったというよりは、価格を大幅に下げたためだと言える。
Dolphinはモーターショー期間中に最低価格を57万バーツから50万バーツ以下に下げた。以前購入した顧客から消費者委員会に訴えられたが、今年も値下げ攻勢を緩める気配はない。しかし、このようなBYDの値下げ攻勢も長続きしないことがBIMS 2025で見えてきた。
Atto3に至っては、10万バーツ値下げしたが、昨年の約1,500台から約2,000台に増えただけであり、値下げ効果は限定的であった。BYDとしてはトヨタを抜いて首位になったことは、メディア戦略的には成功だったかもしれないが、激しい値下げによる販促に依存しており、長続きはしない。また、大幅な値下げにより、一部の顧客の信頼を失うことになり、今後はその代償を払うことになるかもしれない。
BIMS 2025で成約台数の伸びをけん引した中国勢に比べ、日系の展開は地味だったが、実は健闘したと言える。例えば、トヨタは高級車種Camry以外に主要な新規投入モデルがなかったが、昨年に比べて成約台数を1,000台以上増やし、モーターショーでは過去最高を記録。
しかも成約台数の4割がハイブリッドだった。おそらく来年は新車モデル効果で首位を挽回するだろう。タイでは日系のシェア低下が注目されがちであるが、実際にはトヨタの昨年の販売台数は22万台と17%減少したものの、市場シェアは38.5%に拡大し、2010年以来の高水準を記録している。
いすゞ、ホンダ、三菱、日産などその他日系も昨年比で順位を下げたが、成約件数は増加。三菱がHEVの新車XForceを出すなど、HEVを中心とする販売が好調であることが要因だ。昨年のHEVの販売台数は前年の9万4,000台から12万2,000台に増加する一方で、EVは7万8,000台から7万2,000台に減少している。
日系と比べると、欧州勢のMercedesとBMWが軒並み成約件数と順位を下げており、欧州の高級車のブランド力に陰りが出ており、より深刻かもしれない。これはグローバルでもいえるが、欧州勢は、EVでは中国勢に競争できず、かと言って日系のようにHEVで勝負するわけにはもいかず、今のところ切り札が見当たらない。
BYD以外の中国勢では、GACの「AION V」やChanganの「Deepal S07」が売れたようで、それぞれ昨年比で成約件数が倍増。両モデルとも売れ筋のCセグメントのSUVで、デザインも良い。これら中国勢は、総合力、価格、ラインナップではBYDにはかなわないが、それでもBYDと一定の差別化を図ったモデルでは一定層の支持を勝ち得たと言える。
その一方で、吉利汽車の電動ピックアップブランドのRiddaraの販売は振るわなかった。また、BYDは約160万バーツでPHEVのShark6を投入したが、目標成約件数を下回る153台にとどまった。長距離移動に使うピックアップユーザーにとっては、積載能力が低く、航続距離が限られる電動ピックアップ購入には慎重であることがうかがわれる。また、BYDのピックアップは、重量の重いピックアップであるために、より大きな容量のバッテリーを搭載する必要があり、価格競争力がないことが影響したと推測される。
NRI Consulting & Solutions (Thailand)Co., Ltd.
Principal
山本 肇 氏
シンクタンクの研究員として従事した後、2004年からチュラロンコン大学サシン経営大学院(MBA)に留学。CSM Automotiveバンコクオフィスのダイレクターを経て、2013年から現職。
野村総合研究所タイ
ASEANに関する市場調査・戦略立案に始まり、実行支援までを一気通貫でサポート(製造業だけでなく、エネルギー・不動産・ヘルスケア・消費財等の幅広い産業に対応)
《業務内容》
経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション
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