
カテゴリー: 自動車・製造業, ASEAN・中国・インド
連載: タイ・ASEANの自動車ビジネス新潮流 - 野村総合研究所
公開日 2026.01.09
第42回タイ国際モーターエキスポが昨年11月29日〜12月10日まで開催され、予約台数が昨年比48.5%増の8万1,147台に達した。タイ経済の景気が回復しない中でも数字が伸びた背景には、電気自動車(EV)奨励策「EV3.0」の補助金を受けられる最後の機会として、中国系メーカーが大規模な値引きキャンペーンを行い、駆け込み需要を呼び込んだためと見られる。

目次
トヨタとBYDが予約台数の首位・2位を維持した一方、中国新興の奇瑞汽車(Chery)傘下のOMODA&JAECOOや吉利汽車(Geely)が躍進した。また、欧州系の高級車ブランドであるBMWやメルセデスベンツが予約台数を前年に比べ2割近く落とす中、中国系のプレミアムブランドであるGeely傘下のZeekr、長安汽車(Changan)傘下のAvatr、Xpengが多目的自動車(MPV)を中心に健闘。
日本勢は従来のハイブリッド車(HEV)や内燃機関(ICE)車にゼロ金利などの販促を強化しながら新型EVも投入し、中国系に全面対抗する姿勢を見せた。
日本勢は10位以内にトヨタ、ホンダ、三菱の3社が残り、昨年8位だった日産は14位まで後退した(図表1)。日本勢で最も伸びたのは首位を守ったトヨタであり、フルモデルチェンジしたピックアップのHilux Travoや、今年8月に新規投入したYaris ATIVのHEV版等により前年比3割増となった。一方、中国系は7社が10位以内に入り一段とプレゼンスを高めた。BYDは昨年比4割増で2位を維持したほか、OMODA&JAECOOが昨年比6倍増、Geelyも同7倍増と大きく伸ばし、いずれも初めて10位以内に入った。

まず注目したいのは、中国系EVの値下げ競争が極限までエスカレートしたことである。GeelyはBセグメント・ハッチバックのEX5を43万バーツまで、OMODA&JAECOOはCセグメント・スポーツタイプ多目的車(SUV)のJAECOO 5を55万バーツまで下げた(図表2)。背景には、中国系の新規参入メーカーは赤字覚悟でまずシェアを取りに行くという方針がある。

これに対しBYDは、現地生産のATTO 3とDolphinの価格をそれぞれ定価から30%、44%下げて対抗。トヨタのカムリクラスにあたるDセグメント・セダンのSEALは4割近く下げた。BYDは自社のシェアを守るために1年程度で価格を1つ下のセグメントまで下げたことになる。
前に購入した既存顧客のことは考慮せず、なりふり構わず新規顧客の獲得を優先する。売り切りでなく、あくまで既存顧客へのアフターサービスを重視する日本勢のビジネスモデルとは対極にある。中国本土でも、シェア首位のBYDは2位のGeelyや3位のCheryと激しい価格競争を繰り広げており、中国本土での血みどろの競争がタイに持ち込まれた。
中国系メーカーの中で目立ったのは、BYDと同規模のブースを設け、派手な値引きを展開したCheryグループである。同グループは昨年輸出台数100万台を達成した中国最大の輸出メーカーだ。タイではCheryとOMODA&JAECOOの2ブランドを展開しており*、各ブランドで競い合うように異なるデザインを同セグメント・価格帯に投入し、ボリュームを追求する。
*OMODA&JAECOOはCheryの輸出専門ブランドで、中国国内では販売していない。
輸送会社のMONTRIなどを傘下に持つKING GENグループと合弁を組んでおり、タイでの生産は同社に委託している。KING GENグループは電動バス・トラックを生産・販売するNex Point社の旧経営層が関与しており、今回のモーターエキスポではGeelyグループの商用バンブランド「Farizon」も初公開した。
中国系は表では激しく競い合いながらも、裏では利害一致すれば生産設備や販売網をお互いに利用するしたたかさを持つ。CheryとGeelyはマレーシアに先立って工場進出しており、特恵関税を活用しながらタイなどのASEAN市場を攻略する構えだ。
今回、特に筆者の目を引いたのは、日本勢顔負けの中国系プレミアムブランドによる「おもてなし」である。例えばChangan傘下のAvatrは、ポルシェを販売する有力ディーラーRSと組んで富裕層の取り込みに注力。以前のベンツやBMWのブースのように、高級感のあるドリンクバーと顧客との打ち合わせスペースを設けた。
また、240万バーツ以上の限定プレミアムモデルを展示。自動ドアやパワーシート、超横長ディスプレイなど最新鋭のインフォテインメントで「テクノロジー」と「斬新なデザイン」を求める若年層や富裕層の注目を浴びていた。
Geely傘下のZeekrもBMWなどのディーラーを展開するミレニアムグループと組み、プレミアムセグメントを展開。240万バーツ以上のMPVを主力に、来場者一組あたり30分の時間枠を設け、セールスが顧客にマンツーマンで車内機能を説明。来場者は車内でくつろぎながら聞き入っていた。
富裕層らしきタイ人が知人と「日本や欧州の車の技術はもはや中国にかなわないな」と日本人には耳に痛い話をしており、欧州高級車の購入層にも中国メーカー車が着実に浸透していることを筆者は痛感した。
一方、これらの中国車は無税で完成車輸入されており、将来的にも簡単な組立に留まるとみられる。タイの雇用や収入にほとんど貢献しないことを考えると、EVの普及は消費・サービス中心の経済社会に傾斜しているタイの縮図なのかもしれない。
日本勢は今回、EVの投入をより本格化させた。トヨタは新型Hilux TravoのEV版を149万バーツ、bZ4Xを159万バーツと以前の日本勢では考えられない安価で投入した。ホンダやマツダも、中国から輸入販売するEVを披露。
日本勢の強みであるHEVの乗用車からディーゼルのピックアップ、EVまで幅広く製品を展開することは、「マルチパスウェイ戦略」の実現のみならず、先述のような「日本勢を時代遅れとみなすようになった層」の印象を変える効果をもたらすことを期待したい。

NRI Consulting & Solutions (Thailand)Co., Ltd.
Principal
山本 肇 氏
シンクタンクの研究員として従事した後、2004年からチュラロンコン大学サシン経営大学院(MBA)に留学。CSM Automotiveバンコクオフィスのダイレクターを経て、2013年から現職。
野村総合研究所タイ
ASEANに関する市場調査・戦略立案に始まり、実行支援までを一気通貫でサポート(製造業だけでなく、エネルギー・不動産・ヘルスケア・消費財等の幅広い産業に対応)
《業務内容》
経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション
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