属人化が日系製造業の競争力を奪う 〜タイの資産を活かし、仕組みで戦う

THAIBIZ No.171 2026年3月発行

THAIBIZ No.171 2026年3月発行タイの若者に“届ける”には? – サントリー流マーケ戦略

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

属人化が日系製造業の競争力を奪う 〜タイの資産を活かし、仕組みで戦う

公開日 2026.03.10 Sponsored

タイは長年、ASEAN最大級の製造拠点としての地位を確立してきた。しかし近年、国内市場の伸び悩み、競争激化、サプライチェーンの複雑化など、かつてない環境変化の波が押し寄せている。これまでの成功モデルが通用しづらくなる中、在タイ日系企業はどう舵を切るべきか。

2014年から在タイ日系企業の経営課題に向き合ってきた、NTT Data(Thailand) Co., Ltd. Fortience Consulting Division(以下、フォーティエンスコンサルティング)のマネージングディレクター岡部修大氏への取材をもとに、日系製造業が直面する構造的な課題と打開策を探る。

業務が複雑化するほど、「属人化」は経営リスクに

岡部 修大 氏
NTT Data(Thailand)Co., Ltd. Fortience Consulting Division
Managing Director

タイの製造業、流通業、商社を中心にサプライチェーン計画・実行、会計領域の組織・人材開発、業務改革、DX中期計画等をリード。現地コンサルタントを率いて非日系企業に対する業務改革を推進。

在タイ日系企業を取り巻く事業環境の変化に伴い、工場の役割も変容している。岡部氏は「かつての大量生産モデルから、多様なニーズに応えるための多品種少量生産へのシフトが急速に進んでいる。販売チャネルも代理店、オンライン、直販と多岐にわたり、調達先も国内外で増加するなど、計画業務の難易度が格段に上がっている」と指摘する。

こうした業務の高度化・複雑化に対し、現場のオペレーションが追いついていない。特に深刻なのが「属人化」の問題だ。「例えば、ある企業の社員は有給休暇中でもLINEで問い合わせが来て対応している。本人も『頼られている』という充足感があり、むしろそれを楽しんでいるケースもある。しかし、これは組織として健全ではない」と同氏は語る。

タイ人は観察力に優れ、マニュアルがなくても先輩の背中を見て現場を回せるため、これまで製造現場はうまく機能してきた。しかし、人に依存した運営は業務の標準化を阻害し、「仕組み化」が進まない。

その結果、複雑化した計画業務やサプライチェーン管理が特定の担当者に依存し、その担当者が不在だと業務が回らない、あるいは退職するとノウハウが消滅するというリスクが顕在化している。「個人の能力では対応しきれないほど業務が複雑になっており、『仕組み』で解決しなければならないフェーズに来ている」と同氏は強調する。

他国にない独自の強みを持つタイ

このような課題がある一方で、タイには他国にはない独自の強みがある。岡部氏は「タイの強みは、1960年代から蓄積された成熟したサプライチェーン、インフラ、熟練人材といった産業基盤だ。タイ投資委員会(BOI)を中心とした投資奨励策により、さまざまな企業が集積し、調達のしやすさや安定性を高めている」と分析した上で、「人件費が上昇しても撤退しない企業が多いのは、タイは他国では代替できない価値を持っているからだ」という。

またタイは、カントリーリスクが低く、外国人を受け入れるオープンな社会である点も強みだ。少子高齢化の懸念はあるものの、ミャンマーやラオスなど周辺国から人材を受け入れやすい環境にある。「だからこそ、既存の工場や設備を含む経営資源をいかに有効活用し、効率的に収益を生むモデルに進化させるかが、今後の成長を左右する」と同氏は続ける。しかし、この強みを次世代に引き継ぐためには、属人化からの脱却という課題を避けては通れない。

「仕組み化」を支える5つの要素、崩れるのはバランスの問題

製造・流通業界を中心とした企業経営の課題に向き合うフォーティエンスコンサルティング。岡部氏は自らの役割を「企業のお医者さん」だと例える。「患者(企業)が『在庫が合わない』『納期が遅れる』といった症状を訴えてきた時、医者が熱の原因を探るように、われわれはその裏にある真の原因を特定する。多くの場合、お客様が最初に相談される内容と、実際の課題は異なっている」という。

同社が重視するのは、単なるシステム導入ではない。業務が回るように仕組みを設計することだ。そこで鍵となるのが、次の5つの要素だ。

①組織・ルール:ハード面の組織構造だけでなく、ポリシーやルール策定

②人材:特にマネジメント層のファシリテーション能力

③業務:業務フローや作業手順の明確化

④テクノロジー:ハードウェアやクラウド、AIなどのツール

⑤データ:受注伝票や顧客情報、勘定科目など業務遂行に必要な情報

「これら5つのバランスを取ることで、『業務が回る』状態を作り出せる。逆に、業務が回らないのは、③業務を中心に据えた時、残りの4つの要素のバランスが崩れているのが原因だ(図表1)」と同氏は明言する。

出所:THAIBIZ編集部が作成

特に日系企業で課題となっているのが、①組織・ルール、②人材の2つだ。「よく『PDCA(計画・実行・評価・改善)が回っていない』という声を聞くが、それは管理職が各メンバーに応じた適切なペース配分や軌道修正ができていないことが原因だ。トラブルが起きた際、担当者のミスとして片付けるのではなく、『なぜそのミスが起きたのか』『どうすれば防げるのか』を考え、ルール化するのが管理職の仕事。しかし、多くの管理職は『前任者のやり方』を踏襲するだけで、チェック機能としての役割を果たせていない」と指摘する。

同社では、④テクノロジーと⑤データを活用するだけでなく、それを機能させる①組織・ルールの整備と②人材の育成まで踏み込んで支援している。「企業オペレーションを仕組み化することで、事業環境の変化にしなやかに対応できる組織は作れる」と同氏は語る。

まだ間に合う、今こそ「経営効率」への転換を

「周辺国を見ると、ベトナムやインドネシアはスキルの向上だけでなく、人口も成長している。このままではタイは競争力を失いかねない。かつての『高品質なものを安く作る』だけで勝てる時代は終わった。これからは、限られた経営資源でいかに最大のアウトプットを出すかという『経営効率』の追求が不可欠だ」と岡部氏は訴える。

そのためには、日本人が得意としてきた暗黙知や根性論に頼るスタイルを捨て、欧米企業のように業務を標準化し、テクノロジーでガバナンスを効かせる仕組みへの転換が急務である。

「人件費が高いと嘆く前に、高い報酬に見合う人材をどう定着させるのか。人が入れ替わっても品質を維持できる組織をどう作るか。経営者がこの課題に本気で向き合い、タイで新たな付加価値を生み出すことが、日系企業が生き残る唯一の道だ」と同氏は強調する。

「何から手を付けるべきか」と悩む企業は多い。同氏は「多くの企業で、誰が何をどこまで担当しているのか、実は経営層も把握できていない。まずは現状を可視化し、どこに属人化やボトルネックがあるのかを明らかにすることが第一歩」と語る。

同社では、在タイ日系企業向けに業務診断やオペレーション改革の初期相談を行っている。タイで積み上げた資産を次世代に引き継ぎ、変化に強い組織を作るために、まずは業務の棚卸しから始めてみてはどうだろうか。


お問い合わせ
NTT Data(Thailand)Co., Ltd.
Fortience Consulting Division

NTTデータグループ傘下で総合コンサルティングサービスを提供するフォーティエンスコンサルティング株式会社(2024年10月、株式会社クニエから社名変更)のタイ拠点として2013年に設立。タイでは、製造および流通業界を中心に、主にサプライチェーンマネジメント、会計、ITの3領域におけるコンサルティングサービスを提供している。

担当者:岡部
Website:www.fortience.com
TEL:02-625-0998
E-mail:info_thailand@fortience.com

THAIBIZ編集部
岡部真由美

THAIBIZ No.171 2026年3月発行

THAIBIZ No.171 2026年3月発行タイの若者に“届ける”には? – サントリー流マーケ戦略

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

Recommend オススメ記事

Recent 新着記事

Ranking ランキング

TOP

SHARE