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カテゴリー: ASEAN・中国・インド, 会計・法務
連載: ONE ASIA LAWYERS - ASIAビジネス法務
公開日 2025.11.04
近年、飲食店をはじめ、ベトナム人の「胃袋」を狙った日本企業のベトナム展開が活発ですが、市民の台所たるスーパーの食品コーナーを覗くと、「ハラル」マークの付いた商品を目にすることも多くあります。
なお、「ハラル」とは、イスラム法において「許される」という意味を持ち、食品や飲料、化粧品、物流、観光など多岐にわたる分野で、イスラム教徒が安心して利用できる製品・サービスを示す概念です。
ベトナム政府としては、農産品や水産品などの主要輸出産業において、ハラル認証を取得することでイスラム圏市場(特にマレーシア、インドネシア、中東諸国)への輸出を拡大し、外貨獲得を目指す狙いがあり、日系企業としてもその流れを理解しておくことは有意義と考え、本稿では、ベトナムの食文化と、ハラルとの関係について説明をしつつ、ハラル市場を狙うベトナムの政策の概要をご紹介いたします。
ベトナムはイスラム国家では無いため1、ベトナム国内で食品を販売する、飲食店を経営するといった場面で、ハラル認証の取得が強制されたり、あるいは特定食材を用いることが禁じられることはありません。
むしろ、食肉を例に挙げると、ベトナム人が一般によく口にするものとしては鶏、豚、牛のほかに、アヒル、ウズラ、水牛、ヤギ、カエルなど、日本よりも多様で、飲食店では、スズメやハト、野ネズミ、シカなどのメニューも定番のラインナップとなっています。
最近でこそ国際的な風当たりは強いですが犬を食べる地域もありますので、「何でも食べる国」と形容しても差し支えないでしょう。
そんなベトナムの食文化において、「食の制限」という面での特徴的な文化としては、根底に仏教を信仰する人が多数派であるなか、菜食を実践する人が一定数存在します。そのような人々は、旧暦の1日と15日に肉を食べず菜食にすることが多いです。
また、基本的に菜食にしているという人も一定層おり、街中で「菜食レストラン」を探すことは難しくありません。しかしながら、こういった菜食も、あくまで緩やかな制限であり、人や家庭によって異なります。
このような食文化のベトナムにあって、なぜスーパーには「ハラル認証」のついた食品が並ぶのでしょうか。
一つは、インドネシアやタイなどで、もともとハラル認証を取得して製造された食品がベトナム向けにそのまま輸出されているケースです。国際企業の中には、東南アジアのある国で製造したものを、他の東南アジア諸国向けに商品展開するパターンが多く、その一例と考えられます。
もう一つが、ベトナム企業がハラル対応の必要な国を含む各国向けに生産している輸出品を、国内でも販売しているケースです。こういった輸出系の商品は、お菓子やインスタント麺など保存性が高いものが多いです。
また、スーパーにはハラル認証がついている精肉が並んでいることもあり、これらは地域に住む外国人ムスリムのニーズに対応したものと思われます。


ベトナムのスーパーで販売されているハラルマークの付いた精肉(左)、お菓子(右)(写真:筆者撮影)
ベトナム政府は2023年2月14日、首相決定第10/QĐ-TTg号「2030年までのベトナムハラル産業発展のための国際協力強化計画」を承認し、国内および国際的なリソースを動員してベトナムのハラル産業を構築・発展させるための国家レベルの方針を示しました。
世界人口の約4分の1を占めるイスラム教徒、2028年に10兆USD規模にまで拡大すると予想されるハラル市場2に積極的に参入しようとするもので、足もとではベトナム企業による各国で開催される展示会などでのアピールにとどまらず、ベトナム国内でもハラル製品の管理に関する政令の起草などが進められているほか、ハラル製品・市場に関する国際会議・展示会なども開かれています。
なお、すでにベトナムでは、「ハラル食品の一般要求事項」(TCVN 12944 : 2020)、「ハラル飼料」(TCVN 13709 : 2023)、「ハラル食品-動物屠殺の要求事項」(TCVN 13710 : 2023)といった国家規格(TCVN)を策定しているほか、ベトナム国内には複数のハラル認証団体があり、ベトナム国内でハラル認証を取得することも可能です。もっとも認証団体の数は少なく、専門人材の育成体制も整備途上です。
ベトナムはイスラム国家ではなく、国内消費市場としてハラル製品の需要は限定的ですが、上記のとおり、輸出産業としての成長ポテンシャルを見据えて、国家レベルでハラル産業の整備を進めています。
そのため、今後、イスラム圏市場向けの食品・化粧品・観光などの分野で、国際認証制度の整備や輸出支援が一層進む可能性があります。
日本企業にとっても、ハラル認証を通じてASEAN全域への販路を拡大する好機であり、ベトナムをハラル対応製造拠点として活用する戦略は十分検討に値すると考えられます。

One Asia Lawyers
Legal Coordinator/ベトナム語専門家
山本 史 氏
One Asia Lawyersベトナム事務所に駐在。ベトナム国内で10年以上の実務経験を有する。ネイティブレベルのベトナム語を駆使し、現地弁護士と協働して各種法律調査や進出日系企業に対して各種法的なサポートを行う。
One Asia Lawyers
One Asia Lawyers Groupは、東南アジア・インドの法律に関するアドバイスを、アジア各国のネットワークを基礎として、シームレスに、ワン・ストップで提供するために設立された法律事務所です。
Website : https://oneasia.legal

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