撤退危機から会社再生― 日新電機タイの「現場」潜入レポ

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撤退危機から会社再生― 日新電機タイの「現場」潜入レポ

公開日 2026.10.14

1990年代、外的要因から撤退の危機に直面した日新電機タイ。そこから新たな事業として立ち上げた受託生産事業を成長させ、現在では約90社の顧客を抱え、売上62億円(2024年度)を誇るまでになった。

その再生の鍵は、事業転換だけではない。設備の内製化や現場改善、タイ人社員への権限移譲などを通じて、組織そのものを変えてきたことにある。

同社は、何を変え、どうやって社員を巻き込んできたのか。

THAIBIZは9月23日、「第21回オンサイトビジット」として日新電機タイを訪問。会社説明に加え、実際に工場を見学し、経営者やタイ人幹部との質疑応答を行った。今回は、その現場で得られた学びをレポートする。

撤退危機から、受託生産事業を成長の柱へ

1987年、日新電機グループ初の海外工場としてタイに設立された日新電機タイ。1990年代、日本の電力需要の減少などを背景に厳しい事業環境に直面し、新たな事業の柱として取り組み始めたのが受託生産事業だった。

当時の社長が日系企業への飛び込み営業から事業を立ち上げ、少しずつ顧客を増やしていった結果、現在では主要事業の一つに成長。同社の顧客は約90社に上り、現在は半導体関連が売上の6割以上を占める。

同社の強みは、材料調達から折曲・切削、溶接、表面処理、組み立てまでを一貫して社内で対応できることだ。半導体製造装置をはじめ、電力機器、工作機械、焼き芋製造装置、バンコクのレッドラインの改札機・自動券売機の部品など、幅広い製品を手掛ける。

今回の訪問では、会社再生の過程で組織がどう変わったのかを現場で探った。

事業転換の裏側にあった、組織そのものの改革

オンサイトビジット冒頭では、同社の生方寛之社長から「タイ人を主役にする組織改革」をテーマとする講演があった。

2020年4月に社長に就任した同社長が当時の工場で目にしたのは、一部幹部によるトップダウンへの依存、労働災害の多発、顧客への対応力不足、部署間のセクショナリズムなど、さまざまな課題だった。

そこで改革の軸としたのが、「個人からチームへ」「タイ人メンバーが活躍できる体制づくり」「日新電機グループとしての自覚を持つ」という3つの考え方だったという。

まず取り組んだのは、朝の挨拶、ゼロ災コール、ラジオ体操など、規律の徹底。日本人駐在員自身が先頭に立って行動することで、タイ人社員にも変化を促した。

さらに、本社のコーポレート部門に協力を仰ぎ、安全・品質・環境・人材開発・改善・技能などの内容を盛り込んだ教育プログラムを開発。カリキュラムは現在も増え続け、企業文化の醸成にも役立っている。

生方社長は教育の進め方について「人間は人から認められると嬉しい生き物。褒める文化をつくることにも注力した」と当時を振り返った。

同社長は今でも毎朝工場を歩き、改善を見つけると、その場で社員を褒める。小さな改善でも成功体験として認めることで、「自分たちで工場を良くする」という意識を育ているという。

日新電機タイの生方寛之社長
日新電機タイの生方寛之社長

「これも自分たちで?」現場に根付く内製化

講演後の工場見学で参加者が目にしたのは、社員自身が製作・施工した設備間のパーテーションや安全架台などだった。

生方社長によれば、2011年の大洪水では工場周辺が2メートルを超えて冠水。その後、隣接企業が撤退した土地を2018年に購入し、社員自ら清掃や電気配線などを行って工場として再生したという。

現在も、各種設備などの設計・修理・改善を自社で行うことを基本としており、参加者からは「約40年経った工場とは思えないほど整っている」「内製化の徹底に驚いた」といった声が聞かれた。

しかし、工場を歩いて分かったのは、単なる設備の充実ではない。

需要が変わればレイアウトを変え、問題が起きれば現場で考える。必要なものは自分たちでつくる。「自分たちで現場を変える」という徹底した姿勢が、工場の至るところに表れていた。

さらに、生方社長の講演で語られた「規律の徹底」も、工場見学を通じて実感することとなった。見学者と目が合うたびに、丁寧に挨拶をする現場スタッフ。その姿に、「ここまで挨拶が徹底されているタイの工場は、なかなかない」という声も参加者から聞かれた。

工場見学の様子
工場見学の様子

着実に進む、タイ人リーダーへのバトンタッチ

工場見学の後には、参加者との質疑応答が行われた。

参加者自身が日頃の経営や組織運営で抱える課題に関する質問が次々と出た中で、最も関心が高かったのは「現地のキーマンをどう見つけたのか」「タイ人社員にどう権限を移譲したのか」といった現地への権限移譲に関することだった。

日新電機タイでは、事業部長や副事業部長、生産技術マネジャーなど、タイ人リーダーへの実務のバトンタッチを着々と進めている。

ただし、権限を渡す人選には時間を惜しまず徹底的にこだわった。

生方社長自身、就任後は毎朝工場を歩き、部品や設備を自分の目で見て、現場を理解することに時間を費やした。その中で、数字をもとに経営と現場を見られる人、組織を引っ張る力のある人を見出し、彼らに重要な役割を託していったという。

現在では、トラブルが起きれば現場にデスクを持ち込んで指揮を執る事業部長や、毎日プロジェクトリーダーを集めて納期を調整する副事業部長など、現場を起点に意思決定するタイ人リーダーの姿が定着している。

日本人駐在員がすべてを指示するのではなく、タイ人リーダーが現場を見て、自ら判断し、組織を動かす。今回の訪問では、その「バトンタッチ」が実際にどのように進められているのかを現場で確かめることができた。

参加者の質問に答えるキッチャヤー事業部長
参加者の質問に答えるキッチャヤー事業部長

THAIBIZオンサイトビジットの醍醐味

今回の日新電機タイ訪問で見えたのは、受託生産事業の成長だけではない。撤退危機をきっかけに新たな事業を立ち上げ、現場を変え、組織を変え、そしてタイ人リーダーへとバトンを渡していく。そのプロセスが、現在の工場や社員の働き方にまでつながっていた。

会社説明を聞くだけなら、「内製化に力を入れている」「タイ人への権限移譲を進めている」と理解することはできる。しかし、実際に工場を歩けば、どこまで内製しているのか、社員がどのように現場を動かしているのか、その空気まで感じることができる。

単なる企業訪問ではなく、「現場を見て、現場の人の言葉を聞き、自社に置き換えて考える」。 それが、THAIBIZオンサイトビジットの醍醐味だ。

日新電機タイが歩んできた会社再生のストーリーから、組織づくり、人材育成、現地化まで、参加者それぞれが自社に持ち帰るヒントを得た今回の訪問。THAIBIZでは今後も、企業の「リアルな現場」を訪問し、参加者同士で学び合う機会を提供していく。

参加者の声「生産ラインの工夫は多くの企業で見られますが、それをタイの現場で独自に推進されている点が印象的でした。また、質疑応答でも生方社長がタイ人幹部に積極的に発言を促しており、組織づくりの面でも学びが多くありました」 (公的機関)「THAIBIZ誌面だけでは分からなかった部分まで直接お話を伺うことができ、多くの学びを得ました。工場見学も大変参考になりました」 (製造業/地域統括 )

THAIBIZ Connectについて

THAIBIZでは、今回のオンサイトビジットのように日本企業・タイ企業への訪問イベントや勉強会を今後も開催予定です。THAIBIZ Connectにご加入いただくと、THAIBIZイベントに無料で何度でもご参加いただけます。本サービスにご関心をお持ちの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

THAIBIZ編集部
白井恵里子

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