ArayZ No.121 2022年1月発行危機における経営 ~未来への進路を描くために、人間性を取り戻す~
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カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2022.01.07
トラックメーカーにとって需要予測は、基本でありながら最も難しいとも言えるだろう。車両サイズ別にどの程度の台数需要が見込めるか。この予測を元に開発リソースの配分や生産計画、販売計画を立てる。だが、様々なファクター(推進要因)が存在するゆえその予測は簡単ではない。
今回はトラックのこれからの需要を占うに重要なファクターを、東南アジアにおける二大トラックマーケットのタイ、インドネシアの比較を見ながら論じたい。
トラック需要を巡るファクターは数多存在し、それぞれが複雑に関連し合っている。ゆえに需要予測が難しい。しかし、必ず押さえるべき基本ファクターがいくつか存在する。その中でも重要な三つをまず挙げたい。
一つ目は地理的前提だ。インドネシアは島嶼国でありジャワ島の東西距離が約1000km。陸路輸送の最大距離はせいぜいこの程度だ。
一方で、タイは東西南北で他国と陸路で繋がっており、ベトナム、ミャンマー等の他メコン国はもちろん中国とのクロスボーダー物流も増加傾向にある。トラック輸送の最大距離はインドネシアの倍以上と言われている。一概には言えないものの、輸送距離が長ければ長いほどトラックは大型化する傾向にある。
ただし、実際にはタイよりもインドネシアの方が中・大型トラックの割合は高い。そこに影響を与えているのが二つ目の国の産業構成比だ。
例えば、鉱業等の重厚長大系産業が成長すれば大型トラック需要が伸びる。他方、小売市場が成長し各店舗への配送が増えれば小型トラック需要が伸びる。事実、インドネシアのGDP構成として、鉱業や建設業、農業等、大型トラックを求める産業の割合が大きい。
三つ目として、他のロジスティクスモードの成熟度を挙げておく。つまり、鉄道輸送、船舶輸送、そして航空輸送だ。基本的にこれらロジスティクモードはトラック輸送よりも長距離を担う。
ただ、競合する輸送距離もあるため、単純化して言えばこれらのモードが強ければ大型トラック割合は下がる傾向にある。
これらはタイ、インドネシアのみならず他の国にも当てはまるトラック需要の基本ファクターだ。しかし、当然ながら実際にはそれらに加えて、各国特有の個別ファクターがいくつも存在している。
本稿では、タイ、インドネシアそれぞれの固有ファクターについて、これからの需要に影響する重要なものをそれぞれ二つずつ紹介したい。
タイの一つ目の固有ファクターはクロスボーダー物流だ。ここ数年、コロナ禍も経て中国からタイに陸路で入ってくるクロスボーダー物流は拡大している。中国からの越境ECが成長しており、陸路輸送の最大距離は伸長していると見られる。国境付近でのトラックターミナル開発の話もあり、中国も含めた大物流圏化は大型トラックの構成比を高めるファクターとなるだろう。
二つ目の固有ファクターは電気自動車(EV)だ。タイとインドネシアは乗用車含めた東南アジアのEV覇権をどちらが握るかを競い合っている。リチウム等の原材料の調達力ではインドネシアに軍配が上がる一方、タイは直近で一気に自動車産業政策をEVに傾けている。従前の自動車業界の土台もあるため、やはりタイが東南アジアEVをリードしていく見方も強い。
そしてEVはトラックのサイズ別需要にも影響を与えるファクターと見られている。航続距離やEV車両価格も踏まえ、トラックにおけるEV化は小型から始まることが一般的だ。しかし、補助金を考慮したとしてもEV小型トラックの価格は内燃機関(ICE)の小型トラックよりも高くなる。
そうなるとメーカーの価格政策で、ICE小型トラックの価格も一定上昇すると見られる。結果、小型の全体平均価格が上がるため、中・大型トラックへシフトする顧客も増えると言われているのだ。
インドネシアの一つ目の固有ファクターはECである。インドネシアは東南アジアの中でも最大のEC化スピードを見せている。2025年にはインドネシアのEC化率は34%に至るとの予測もある(タイは16%)。
EC市場が伸びれば、ラストマイルに求められる小型トラックの割合が高まることとなる。前述の通り、タイは中国からの越境EC割合が高い点が特徴だ。他方、インドネシアの越境EC割合はそれほど高くない。もっと言えば、インドネシアのEC商圏はインドネシア国内でも狭い点が特徴だ。
EC物流全体の55%が近距離都市間および都市内で完結している。例えば、ジャカルタ、ボゴール、ブカシ等、ジャワ島西部の近い都市圏内で閉じたEC物流が、大部分を占めているというわけだ。この点はトラック小型化により強く寄与すると言えよう。
もう一つのインドネシア固有ファクターとしては、規制強化を挙げておく。
トラック周辺で規制はいずれの国でも重要なファクターだ。しかし、ここから数年のインドネシアはその影響をより強く受けると見られる。積載量制限規制等が強化された点に加え、延期されたEURO4導入も22年から始まる。これらの要素がトラックのサイズ構成に与える影響は小さくないだろう。
以上に挙げたファクターはごく一部だ。実際にはより多くのファクターが複雑に影響し合って需要を作る。これらを正しく読むことが、正しい生産・販売戦略のまさに土台と言えよう。
Roland Berger下村 健一
一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現在は欧州最大の戦略系コンサルティングファームであるローランド・ベルガーのアジアジャパンデスク統括に在籍(バンコク在住)。ASEAN全域で、消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心に、グローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、企業再生等、幅広いテーマでの支援に従事している。
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Principal Head of Asia Japan Desk
下村 健一 氏
一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現職。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。
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