独自の指標で見るASEAN自動車産業

ArayZ No.131 2022年11月発行

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独自の指標で見るASEAN自動車産業

公開日 2022.11.10

5分野・26項目をもとに自動車産業の変化を可視化

弊社では2017年から年に2回、EV(電気自動車)を含むグローバルの自動車産業の変化について弊社独自の指標である「Automotive Disruption Radar(以下、本指標)」を用い、世界各国で定点観測を行っている。本稿では、その最新版をもとに東南アジアにおける自動車業界の方向性を探っていきたい。

指標は、自動車業界における重要テーマを5分野にまたがる26項目をもとに評価を行う(図表1)。

自動車産業におけるグローバル平均とタイの比較

各指標を同心円状に配置したレーダーチャートとなっており、その点数に応じて塗り潰す。この塗り潰された面積が広いほど、変革への取り組みが進んでいることが確認できるチャートだ。5つの分野においては、以下の調査項目を設定している。

1. 消費者の関心:モビリティサービスや自動運転・デジタル・EVといった新しいトレンド への受容性・関心があるか、どのくらい新しいモビリティサービスを活用しているか、どのくらいEV/PHEV(プラグイン・ハイブリッド車) が売れているか 等

2. 規制:自動運転車に関する規制の整備動向、環境関連規制の動向、自動車業界団体の規制への働きかけの状況 等

3. テクノロジー:自動運転車の技術開発レベル、特許動向、EVバッテリーコスト、自動運転や人工知能への投資動向 等

4. インフラ:5Gカバレッジ、EV充電ポイントの整備動向、車間通信の普及動向、自動運転向けの実証実験道路の整備動向 等

5. 自動車業界の動き:自動運転車の開発動向やその技術への投資動向、販売モデルのうちEVが占めるシェア、オンライン・デジタル販売チャネルの整備動向、シェアード車両の台数 等

トップを走る中国・オランダ
アーリーステージのタイ

最新の本指標では、中国やオランダが総合評価において上位に位置している(図表2)。

「Automotive Disruption Radar」による各国評価

中国は自動運転の進展に不可欠な5Gで優勢だ。オランダはノルウェーやスウェーデンに次いで、EV・PHEV・FCEV(水素などを動力源とした燃料電池自動車)の販売割合が高く、EVの充電ステーションの数(道路100kmあたりの数)においては、韓国に次いで2位に位置している。

またノルウェーは、前回から順位を上げ4位に位置しており、CO2の排出量ターゲットと内燃機関(ICE)の使用禁止検討が他国よりも進んでいる。なお日本は23ヵ国中16位で、前年の13位から順位を落とした形になる。

東南アジアを見ると、シンガポールは全体で3位と高順位。シンガポールのモビリティ施策は政府も推進するところであり、Grabといった民間プレイヤーの勢いもある。一方でタイとインドネシアはそれぞれ21位と23位であり、他国と比べるとまだまだ低い。

図表1に戻り、グローバル平均とタイの指標を比較したものを見ると、タイ消費者のEVに対する関心は強いものの、ICE生産のサプライチェーンが確立されていることもあり、ガソリン車を規制する動きは弱い。結果、実購買としてのEV・PHEVの販売台数は現時点ではわずかしかない状況だ。

最新の本指標では前述した結果となっているが、筆者としてはこの状況は数年内に変わる可能性が充分にあると考える。

中国OEMのEV侵攻

本指標とは別で行ったアンケートで、各国の自動車ユーザーに対して「あなたがEVを購入する際に中国車は候補に入りますか?」と聞いた結果、中国OEMのEVは中国81%・インド53%・タイ53%・インドネシア51%が「候補に入る/候補に入ると思う」と答えており、アジア地域で高い人気を誇っていることが伺える。

中国国内で高い評価を得ていることに驚きはないが、アジア諸国でも50%以上の指示を得ている点には脅威を感じる。

現在はまだEVの黎明期にあたるタイだが、消費市場としても域内でのサプライチェーンのハブとしても大きな可能性を秘めていることは疑いない。政府としても、中進国の罠から抜け出すための鍵としてEVを捉えているのは周知の事実だ。そこに消費者の需要も既に醸成されているのであればもはや機は熟していると見える。

実際、弊社にも中国OEMからのタイ・ASEANマーケットについての相談は増えている。日本人コンサルタントとしては、この状況を少々悩ましく見ている。

100年に一度の変化と言われる自動車業界。世界各所でその震源地は存在するが、タイを中心とするASEANも間違いなくそのひとつだろう。

域内でICEのエコシステムを作ったのは日系OEMであるが、大きい変化を迎える中でどう舵を取るかによって、グローバルにおける今後のプレゼンスにも影響を及ぼすのではないだろうか。

寄稿者プロフィール
  • 下村 健一 プロフィール写真
  • Roland Berger下村 健一

    一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現在は欧州最大の戦略コンサルティングファームであるローランド・ベルガーに在籍。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者(バンコク在住)として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。

  • Roland Berger ロゴマーク
  • TEL:+66 95 787 5835(下村)

    Mail:[email protected]

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Roland Berger Co., Ltd.
Principal Head of Asia Japan Desk

下村 健一 氏

一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現職。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。
[email protected]

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ローランド・ベルガーは戦略コンサルティング・ファームの中で唯一の欧州出自。
□ 自動車、消費財、小売等の業界に強み
□ 日系企業支援を専門とする「ジャパンデスク」も有
□ アジア全域での戦略策定・実行支援をサポート

17th Floor, Sathorn Square Office Tower, 98 North Sathorn Road, Silom,
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Website : https://www.rolandberger.com/

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