ArayZ No.143 2023年11月発行タイでイノベーションを巻き起こす日本発スタートアップ
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カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2023.11.09
GBA構想とは、中国南部の大湾区を新興経済圏化する計画であり、2019年に中国政府により発表された。その後、20年にコロナ禍に入ってしまいその計画は事実上止まってしまう。しかし、コロナが明けた今、改めてGBA構想への期待感が高まっているのだ。GBAは、サンフランシスコ、ニューヨーク、東京といった世界三大ベイエリアに続く次世代成長地域と見做されており、域内の人口や経済規模もさることながら、圧倒的な数のテック企業が特徴である(図表1)。
事実、中国政府としても、GBAを世界的なテクノロジーイノベーションハブにしたいと考えており、その中心都市は「中国のシリコンバレー」とも呼ばれる深圳だ。深圳はHuawei、TencentやドローンのDJI、その他数多くのテック系スタートアップが存在する世界屈指の先進都市となっている。
深圳は香港と物理的に近い位置に存在しており、消費者動向や小売市場において互いに影響し合っている。香港・深圳間はMTRで繋がっており、40分程度で行き来ができることから、商圏として一体化しても不思議ではない。他方、家計支出平均を見ると、両地域の差は大きく、22年の香港は深圳の6倍近くもある。当然ながら、それぞれの都市で売られているものの物価水準も異なる。そのため、香港に住む消費者が週末に物価の安い深圳に行って一週間の買い出しを行うという購買行動はコロナ禍前から一般化していた。往来が復活したコロナ禍後には、深圳への越境購買は更に活性化しているが、その背景には香港消費者の家計状況の変化がある。実は、コロナ前後の香港の物価と所得水準を比べると、物価上昇に対して所得上昇は下回っている。
この状況自体は一過性とも取れるが、実際に香港から深圳への越境購買を加速させ、定着化させるという結果には繋がった。今後、所得水準が香港の物価上昇に追いついたとしても、一度根付いた深圳への越境購買の習慣は残るだろう。つまりは、香港小売市場は、深圳を含めた商圏として見る必要性が高まっているのだ。
香港の小売市場を業態別に見ると、専門店が多いことが特徴として挙げられる。食料品店、衣服店、薬局、宝飾店等、それぞれの商品カテゴリーに特化した小規模専門店が他アジア諸国と比べて多い(図表2)。
しかし、そうは言っても、総合業態シフトは徐々に進んできた。ローカルスーパーのTOP1、2であるWellcomeとParknShopはグループ総合力を活かして香港小売市場の中でのシェアを高めている。また、日系勢としてはDon Don Donkiもシェアを伸ばしている。結果として、スーパーやGMSといった総合小売業態が香港の中で、小規模専門店を少しずつ駆逐して存在感を高めている。
香港小売市場のもうひとつの特徴として、「EC化率が高くない」という点がある。狭い国土の中に前述の小規模小売店が密集しており、香港消費者は利便性の観点でEC購買する必要性をあまり感じてこなかった。しかし、その状況もコロナ禍での外出規制により変わった。香港小売市場におけるEC比率は高まり、EC購買が一般化していっているのだ(図表3)。
中でもQコマースと呼ばれる30分~1時間での即時ECが急速に普及している点は注目すべきだろう。Qコマースは中国では「即時配送」とも呼ばれ、深圳でも非常にポピュラーな購買チャネルとなっている。香港と深圳が商圏として密になったことで受けた影響と言えるだろう。なお、Qコマースで購買するものは食品等の日用品が多く、GMSやスーパーといった総合業態で扱う商材が対象となる傾向が強い。ゆえに前述の総合業態シフトも、Qコマースを組み合わせたモデルになっていくことが充分考えられる。
以上のようなGBAとの接続性も背景に、香港の小売市場は変わりつつある。冒頭に述べた通り、GBAにおける中心都市はやはり香港である。香港だけで見ると人口700万人の市場だが、ここをゲートウェイにして拡がっていくGBAは人口8,700万人を有する巨大市場だ。変化する香港市場を上手く掌握し、GBAへの展開を担っていくことは日系企業にとって重要な戦略になっていくはずだ。
Roland Berger下村 健一
一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現在は欧州最大の戦略コンサルティングファームであるローランド・ベルガーに在籍。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者(バンコク在住)として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。
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Principal Head of Asia Japan Desk
下村 健一 氏
一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現職。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。
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