アジア小売市場での戦い方(前編)

ArayZ No.146 2024年2月発行

ArayZ No.146 2024年2月発行タイ自動車市場〜潮目が変わった2023年と日系メーカーの挽回策〜

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アジア小売市場での戦い方(前編)

公開日 2024.02.09

日系企業にとっての アジア小売市場の位置付け

アジアはグローバルビジネスにおいて今後、よりその重要度を高める─この見解を示す代表的な数値として、グローバルGDPに占めるアジア比率がよく用いられる。だが、GDPではなくグローバル小売市場に占めるアジアの割合で見ると、アジアのプレゼンスが強まっていくのがよりクリアにわかる(図表1)。

グローバルGDP/小売市場/EC市場の地域別構成比

新興国含めたアジア全体の経済ステージが2030年に向けて上がっていき、小売市場の成熟度も高まっていくからだ。更には小売の中でもECに絞ってみると、アジアの存在感がより際立ってくる。

しかし、他方でアジア小売市場の中での日系企業の位置付けは決して高くない。例えば、日本の対外直接投資残高を見ると、小売業の金額は製造業の3割に満たない(図表2)。

これは業種の性質によるものではない。現にアメリカ大陸への日本からの投資については、製造業と小売業でそこまで大きな差はない。前述の通り、グローバル小売市場においてアジアが持つプレゼンスを考慮すれば、本来、日系企業はアメリカ大陸ではなくアジアのリテールにもっと投資すべきだと思える。

もちろん、アジアでは小売における外資規制が厳しい国も少なくない。だが、それでも日系企業は活路を見つけてアジアリテールでの存在感を高めていくべきだと考える。本稿でも取り上げているが、アジアのリテールビジネスは従来的なものに留まらず、多様な業態と手法が登場している。かつてと比較して、やり様の幅は拡がっているはずだ。

ローランド・ベルガーはアジアのあらゆる国、あらゆる小売業態に対して多くのコンサルティング支援を行ってきた。日系企業のみならず、ローカルや欧米系リテーラーに対しても多面的な支援を実施している。その中で得られた知見をもとに、日系企業に対する4つの重要論点を複数回に分けてご提示したい。

一つ目は、「価値観ベースで現地消費者をセグメンテーションする」、二つ目は「国・事業を跨いだ事業ポートフォリオを組む」、三つ目は「マネタイズポイントを複線化する」、そして、最後に四つ目は「都市圏内のサプライチェーンを精緻化する」だ。

価値観ベースで現地消費者をセグメンテーションする

今のアジア消費者はかつての新興国消費者とは違う。もはやトップダウン型のマーケティングでは現地消費者を捉え切れなくなっている。彼らは、メーカーやブランドからのマスマーケティングで啓蒙されず、ソーシャルメディアで自ら情報を取捨選択し、時には発信者にもなり得る。それぞれの価値観に応じた個性を持った購買行動を示すようになっており、セグメンテーションの細分化が進んでいる。

いわゆる「フォロワー層」が各国・各地域で減っており、より特徴立った様々な消費者セグメントが登場してきているのだ。価値観が購買行動を決める傾向が強まっているため、デモグラで切った実購買データからは示唆が得られなくなっている。「20代未婚女性には・・・」という発想でのプロモーション、商品はもはや通じなくなってきているのだ。価値観に基づいたセグメントをし、価値観に訴えかける戦略が必要となっている。

ローランド・ベルガーは独自の消費者分析ツールである『rbProfiler』にて、消費者の本質的な価値観を19に分解し、可視化することができる(図表3)。

「どこで、何を、いくらで買ったか」という表層的な購買行動ではなく、「なぜそのような購買行動に至るのか」を決定付ける価値観にまで深掘って消費者を分析する。その分析を基にすることで、デモグラによる安易な分類ではなく、価値観をベースとしたセグメンテーションも可能だ。

また、自社ブランドが消費者から見て、「どのような価値観を体現しているか」という分析もできる(商品ブランド、リテールブランド、いずれでも可能)(図表4)。

これによって、自分たちのブランドがどういった価値観を発しており、その価値観に賛同するセグメントがどの程度存在するかが見える化ができるのだ。仮に、自社ブランドの価値観と合致するセグメントが存在しないのであれば、抜本的なリブランディングに踏み切るという判断をしなければならない。 (次号に続く)

寄稿者プロフィール
  • 下村 健一 プロフィール写真
  • Roland Berger下村 健一

    一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現在は欧州最大の戦略コンサルティングファームであるローランド・ベルガーに在籍。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者(バンコク在住)として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。

  • Roland Berger ロゴマーク
  • TEL:+66 95 787 5835(下村)
    Mail:[email protected]

    URL:www.rolandberger.com

    17th Floor, Sathorn Square Office Tower, 98 North Sathorn Road, Silom, Bangrak, 10500 | Bangkok | Thailand

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Roland Berger Co., Ltd.
Principal Head of Asia Japan Desk

下村 健一 氏

一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現職。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。
[email protected]

Roland Berger Co., Ltd.

ローランド・ベルガーは戦略コンサルティング・ファームの中で唯一の欧州出自。
□ 自動車、消費財、小売等の業界に強み
□ 日系企業支援を専門とする「ジャパンデスク」も有
□ アジア全域での戦略策定・実行支援をサポート

17th Floor, Sathorn Square Office Tower, 98 North Sathorn Road, Silom,
Bangrak, 10500 | Bangkok | Thailand

Website : https://www.rolandberger.com/

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