ArayZ No.98 2020年2月発行タイ・ASEAN飛躍の切り札 デジタライゼーション
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カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2020.02.02
資生堂の地域本社の中核となる「資生堂アジアパシフィック(シンガポール)」の社長などを歴任してきたジャン・フィリップ・シャリエ氏。アジア太平洋地域の統括機能や、展開するブランドのマーケティング機能を日本本社より移管した同社のトップに2015年7月に就任。それまで売上拡大に苦戦していた同社を、再び躍進させることを最大の使命として本社から派遣された。最初に着手したことは、本社に機能が集中していた中央集権型から同地域に権限を大幅に移譲する分権型に転換することであった。結果的に、19年12月に退任するまでの約5年間で売上が倍増した。サシン経営大学院日本センターの藤岡資正所長が、シャリエ氏に日本企業のアジア展開について聞いた。
「日本企業が共通して陥る落とし穴は、東京の本社がすべてを決めてしまうこと。日本製品は高品質だが、現地のニーズに応えなければ意味がない。現地の消費者の声に耳を傾ける。現地従業員に権限を移譲し、リーダーシップを発揮してもらうこと」と、シャリエ氏は強調する。そのために、「いかに現地の管理者・従業員と意思疎通を図るか」が重要と付け加える。
流行の移り変わりの激しい美容業界。「さらに消費者の日常生活や消費行動、教育、そして気候条件などが深く関わっている。私は積極的に現地の事情に通じている優秀な中間層の獲得に乗り出した」と、人材の現地化について持論を展開する。
「資生堂の起源は日本だが、完全なアジア企業への変貌を目指した。120名の従業員が働いているが、国籍(日本、フランス、台湾、シンガポールなど14ヵ国・地域)はバラバラ」で、日系企業でこれだけ多様性に富み、多文化な会社はないと誇る。さらに「現地従業員が主導権をとるべき」という信念を貫き、古い体質だったタイ法人のCEOに初めて女性を登用する画期的な人事を行った。
世界最大の化粧品会社で、グローバル企業として称賛されるロレアルもかつては、フランス人が現地のトップに就く時代が続いたが、試行錯誤を経て、現在の組織体制にたどり着いた。「日本企業はロレアルの多様性や組織設計から学ぶことができる。日本で変革を推し進めることは難しいが、アジアから変えていくことは可能かもしれない」と期待を示した。同氏は現在、シンガポールで法人登記の手続きを進めており、「化粧品業界に限らず、アジアで事業展開を図る企業を支援していきたい。豊富な経験を還元できれば幸い」と新たな挑戦に胸を躍らす。
日欧を代表する世界的消費財メーカーのアジア展開の指揮をとってきたシャリエ氏は、日本的経営の長短を理解したうえで、MBA仕込みの経営手法を融合させることで、資生堂のアジア事業展開を軌道にのせた経営者である。日本主導のアジア化の限界や、市場との対話を通じた価値創造を担う人材育成の重要性を再認識する機会となった。
資生堂アジアパシフィック前社長
ジャン・フィリップ・シャリエ 氏
Jean-Philippe Charrier
略歴 仏大学院でMBA取得後、ロレアルに入社。その後20年間、同社の日本、韓国、タイ、シンガポールにおいて要職を歴任。2009年より資生堂に加わり、14年に執行役員に就任。19年12月まで、同社のアジア地域統括責任者を務めた。
写真撮影:石田直之氏
サシン経営大学院日本センター所長
藤岡 資正 氏
Dr. Takamasa Fujioka
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THAIBIZ編集部
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