視点によって異なる景気状況

THAIBIZ No.150 2024年6月発行

THAIBIZ No.150 2024年6月発行味の素が向かう究極のバイオサイクル

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視点によって異なる景気状況

公開日 2024.06.07

視点によって異なる景気状況:長谷場氏コラム

今年に入ってから、タイに詳しい方から「タイの景気は良いのか?悪いのか?」という質問を受けることが何度かあった。通常、景気と言えばGDP成長率である。2023年は対前年比1.9%という低調な伸びに止まったことから「悪い」というのが一般的な見方だろう。しかし、もう少し深堀して視点を変えてみると、人によって異なる世界が見えていることに気付く。

日本人の方に聞くとビジネス環境が厳しい、という声が多いように感じる。中国製EVに押されて日系自動車メーカーの販売台数が落ち込んでいることや、世界経済減速の影響で輸出が伸びない、といった理由が挙げられる。日本人の労働許可証取得者数もコロナ前のピークだった2020年2月と比較して2024年3月時点で27.6%も減少している。

一方、タイの失業率は2021年第3四半期の2.29をピークに2023年第4四半期では0.81まで低下している。社会保険の加入者数(サラリーマンの数)は2024年2月時点で1,186万人で、コロナ前のピークだった1,173万人を上回っている。従って、タイ人にとって「選ばなければ仕事がある」という状態になっている。特に雇用者数が増加しているのが「ホテル・飲食業」で「商業」が続く。

産業別社会保険加入者の増減(2024年2月/前年同月比)
出所:労働省 労働経済データ、国家経済社会開発委員会(NESDC)のデータをもとにSBCS作成

コロナが明けて経済活動が通常に戻ってきたことに加え、外国人観光客が急激に回復したことが要因だ。従って、「ホテル・飲食業」「商業」の景気は良いということになる。しかしこれらの業種は外国人事業法で外資の参入が制限されているため、主にタイ人がビジネスに携わっている。対照的に日系企業が多く従事している「製造業」では雇用が減少している。

セター政権はタイ中央銀行に利下げを迫っていることから分かるように、景気認識は明らかに悪い。同首相の前職は不動産大手のCEOである。当然、不動産の動向は景気認識に影響を与えると考えられる。そこで新規住宅登記件数を見ると、2019年の12万戸からコロナの影響で2021年に8万戸まで減少し、2022年に9.7万戸まで回復したものの2023年は9.6万戸に減少してしまった。

ローン規制の影響もあり、特に500万バーツ以下の中・低価格帯の販売戸数が減少している。この視点からは、景気は悪いということになる。

輸出は2023年は前年比でバーツ換算で1.5%減少し、2024年第1四半期は4.2%増加した。しかし、バーツ安が進んでいることもあり、ドル換算では2024年第1四半期も前年同期比で0.2%の減少と微妙な数字になる。特に昨年から減少が目立つ品目はHDD(ハードディスクドライブ)である。タイではHDDは外資しか製造していない。

一方、2023年は中国向けのドリアンが前年比で3割増加し、中国向け輸出品目(HS6桁ベース)のトップになる等、農産品は品目によって多少違いがあるものの、悪くはない。

しかし、個人向けローンの不良債権総額は2023年末時点で前年比12.3%増加している。対GDP比で90%近く家計債務があるため、借金の多いタイ人は金利上昇に付いていけず不良債権化している、ということだろう。さらに、金利上昇から家のみならず車といった高額の製品が売れにくくなっている。

要するに日系を始めとする工業製品やローン規制のある不動産は不調である一方、農産品の輸出やサービス業は明るい状態にある。産業とその背景によって、各視点で景気認識が大きく異なる状態が生まれているようだ。

■ 2024年3月~4月の経済・政治関連トピック

5月2日のBOIの発表によると、2024年1~3月のBOIへの新規投資申請額は前年同期比+31%の2,282億バーツ、申請件数は同+94%の724件だった。そのうちFDIは、金額が同+16%の1,693億バーツ、件数が同+130%の460件だった。国別では、首位がシンガポールの425億バーツ。

これに、中国の347億バーツ、香港の266億バーツ、台湾の200億バーツ、オーストラリアの172億バーツが続いた。日本はトップ5に入っていない。産業別では、首位が電気・電子の申請額772億バーツ、2位が自動車・部品の213億バーツだった。


経済

タイ商務省貿易政策・戦略事務局(TPSO)の発表によると、2024年3月の生産者物価指数(PPI)は、前年同月比+2.1%で112.4となった。2024年第1四半期の上昇率は、前年同期比+1.2%だった。PPI指数は2015年を100として基準にしており、3ヵ月連続の上昇となった。

2024年3月の品目別では、「農業・水産」が前年同月比+5.9%「工業製品」が同+2.4%と好調。マイナスとなった主な項目は「鉱業」で同▲13.7%だった。鉱業のうち、「原油・天然ガス」が同▲16.2%、「鉱石」が同▲9.9%。「コンピューター・電子機器」は同▲1.7%だった。

・・・・

工業連盟(FTI)が4月25日に発表した3月の自動車生産台数は、前年同月比▲23.1%の13.8万台だった。内訳は国内向けが同▲41.0%の4.7万台、輸出向けが同▲9.1%の9.2万台。新型コロナ前の2019年3月の生産台数19.9万台を下回った。また、3月の国内新車販売台数は同▲29.8%の5.6万台で、輸出台数は同▲3.3%の9.5万台。新型コロナ前の2019年3月の販売台数が10.3万台、輸出台数が11.8万台であり、販売台数、輸出台数ともに新型コロナ前の水準を下回った。

同時に、FTIが4月25日に発表した3月の自動二輪車生産台数は、前年同月比▲4.0%の21.9万台で、9ヵ月連続のマイナスを記録した。2019年3月の生産台数は23.9万台であり、新型コロナ前の水準を下回った。内訳は完成車(CBU)が同▲9.4%の18.0万台で、完全組み立て部品(CKD)が同+31.3%の4.0万台。

・・・・

BOIのナリット長官は3月26日、セター首相が就任以降に訪問した14ヵ国・地域での投資誘致活動により、少なくとも5,580億バーツの投資が見込めると発表。部門別では、デジタル分野に2,500億バーツ、電気自動車(EV)と部品に2,100億バーツ、電子・半導体に950億バーツ、物流に30億バーツを見込む。デジタル分野では、年内にデータセンターやクラウドサービスに2社が大型投資をすると明かした。

同氏は、これまでの投資誘致政策の成果として、EV支援策を推進した結果、大手中国EVメーカーがタイ進出したと述べた。日本の大手自動車メーカーもEV分野にさらなる投資を予定しており、政府は今後、米国や欧州のEVメーカーやバッテリーセルメーカーと協議を進める意向を示した。


政治

3月18日、政府は2034年開港予定の北部パヤオ県の新空港建設に22億バーツを投資予定と発表。同空港はパヤオ県中心部から約18キロメートル離れたドークカムタイ郡に建設予定。敷地面積は2,813ライ(約4.5平方キロメートル)。

セター首相は開発に先がけて同県を訪問し、北部地方の観光促進に対して意欲を示した。また、タイ空港公社(AOT)が発表した2024年2月の主要6空港利用者数は、前年同月比+28.6%の1,068.8万人だった。国際線が同+50.2%の667.2万人、国内線は同+3.8%の401.7万人だった。

・・・・

2024年3月26日にタイ賃金委員会は、パタヤやプーケット等の主要観光地10ヵ所の4つ星以上および従業員50人以上のホテルで働く従業員の最低日給を1日400バーツに引き上げると発表。4月2日の閣議で承認され、4月13日から施行予定。今回の引き上げ前の最低賃金(今年1月の引き上げ後)は地域により330~370バーツ。

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SBCS Co., Ltd.
Executive Vice President and Advisor

長谷場 純一郎 氏

奈良県出身。2000年東京理科大学(物理学科)卒業。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。山形事務所などに勤務した後、2010年チュラロンコン大学留学(タイ語研修)。2012年から2018年までジェトロ・バンコク勤務。2019年5月SBCS入社。2023年4月より現職。

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URL : www.sbcs.co.th
SBCSは三井住友フィナンシャルグループが出資する、SMBCグループ企業です。1989年の設立以来、日系企業のお客さまのタイ事業を支援しております。

Website : https://www.sbcs.co.th/

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