低下する日本のプレゼンス

THAIBIZ No.152 2024年8月発行

THAIBIZ No.152 2024年8月発行タイ老舗メーカーのブランド再生術の極意

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低下する日本のプレゼンス

公開日 2024.08.09

低下する日本のプレゼンス:長谷場氏コラム

最近、お客様と話していてタイにおける日本のプレゼンスの低下がよく話題に出る。以前からプレゼンスの低下傾向があったが、コロナ後に加速しているように感じる。タイの経済情勢の悪化による市場の縮小や中国企業の台頭で、日系企業の苦戦が続いていることもひとつの要因と考えられる。ここでは、いくつかの数字を見ながら、タイでの日本のプレゼンスの現在地について考えてみたい。

最初に、貿易面での2国間の関係。タイの貿易に占める対日貿易の割合は2000年には20%程度だったのが、2010年頃に15%になり、2023年は9.7%と10%を切ってしまった。2024年1〜5月は8.7%とさらに減少している。20年ちょっとで半減してしまったことになる(図表1)。

出所:タイ商務省のデータをもとにSBCS作成(注:貿易額とは輸出入合計額)

次に、タイへの投資国としての日本。長らく金額・件数ともに1位が日本の定位置だったタイ投資委員会(BOI)への投資申請は、2021年以降は毎年順位を落とし、2023年は金額で4位、件数で2位となった。さらに2024年第1四半期は金額でシンガポール、中国、香港、台湾、オーストラリアに続く6位、件数で4位にまで落ち込んだ。まだ第1四半期のデータしか出ていないので、これからに期待だが定位置に戻るのは厳しそうに感じている。

では、タイ人にとってのお客様としての日本はどうだろうか。

訪タイ日本人旅行者数は10年前の2013年は153万人で全体に占める割合は5.8%あったが、2023年はコロナからの回復途上ということもあり80万人で全体に占める割合は4.0%に減少した。さらに2024年第1四半期はこの割合が2.9%にまで減少している。極端な円安の影響もあるだろうが、全体に占める割合は10年前から半減してしまっている。

減ったのは旅行者数だけではない。タイで就労している日本人の数も減少している。日本人のワークパーミット(WP)取得者数はピークだった2017年12月の3万5,550人から2024年5月時点で2万3,871人と約35%減少している。コロナ直前の2020年2月と比べても27%の減少である。タイで働いている日本人も4分の1以上が減ってしまったことになる。

コンドミニアムの国籍別購入件数では、2023年で11位、トップの中国とは件数・金額共に25倍と大きな開きがある。こちらは、もともと日本が上位に組み込むことは少なかったマーケットではあるが存在感は薄い。

さらに、日系自動車メーカーのシェアは9割前後を占めていたが、中国系に徐々に奪われ、2024年1〜5月では75%程度にまで下落してしまった。また、2023年に急拡大した電気自動車(BEV)の販売台数ではトップ10に入った日系メーカーはない。販売減からくる生産台数減少の影響もあり、今年に入ってから日系メーカーによるタイでの自動車生産からの撤退や車体工場集約が相次いで発表された。

貿易、投資、観光、就労者数、さらには自動車市場でどんどんプレゼンスが下がっているという実態を数字でご理解いただけたかと思う。このような状態で、日本のプレゼンスを高めるにはどうしたらいいか。その一歩目は、在タイ日本人や日系企業が日本人社会の中でだけ活動するのではなく、タイ人やタイ企業との接点を増やしていくことが大切だろう。

2024年5月〜6月の経済・政治関連トピック

タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)の5月20日発表(図表2)によると、2024年第1四半期の経済成長率は、前年同期比+1.5%で、東南アジア主要国で最も低い伸び率だった。内訳は、サービス業が+11.8%(宿泊・サービス)と好調だったが、製造業は▲3.0%、農業も▲3.5%と低迷。輸出は▲0.2%、自動車生産・販売も不振が続いている。新政権発足後の2024年度予算執行が行われているが、公共投資が▲27.7%となるなど、財政出動の遅れが経済に影響したとみられる。タイ経済は徐々に持ち直しつつあるが、製造業の停滞、輸出の低迷、公共投資の減少などが重しとなり、力強い回復には至っていない。

出所:SBCS作成。(*)タイ中央銀行より引用

経済

タイ商務省が6月7日に発表した2024年5月の消費者物価指数(CPI)は108.84となり、前年同月比+1.54%であった。2024年4月から2ヵ月連続のプラスであり、エネルギー関連の値下がりの影響から一旦抑制されていた物価上昇圧力が再び高まったことを示唆している。また、前年の一時的な電気代値下げ政策の効果が薄れ、インフレ基調への回帰が窺える。

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6月14日付のタイ投資委員会(BOI)の発表によると、タイの電気自動車産業の発展に伴い、将来増加が懸念されるバッテリー劣化による環境負荷を低減するため、いくつかの業種を投資奨励業種として、追加認可した。認可されたのは、使用済みバッテリーの修理センター、不要のバッテリーおよび/またはエネルギー貯蔵システムの再パックあるいは再利用等。電気自動車に関連する業種以外でも追加認可があり、タイにおけるデータセンターを効率化するためのデータホスティング事業、輸出前の動物検疫所事業が認可された。


政治

タイ選挙管理委員会は5月30日に上院議員選挙の立候補者数が4万2,606人(失格者除く)になったと発表。地区レベル・県レベルの選挙の後、全国レベル選挙(いずれの選挙も立候補者による互選)を6月26日に実施。6月27日に一次結果が開示され、7月10日に候補者200人及び補欠99人が承認。政党との繋がりでは、タイ誇り党系が123人、前進党系が18人、タイ貢献党系が12人との報道がされた。なお、選挙不正の訴えがあり、今後当選者が補欠当選者に変更される可能性がある。

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6月25日の観光・スポーツ省の発表によると、2024年5月の訪タイ外国人旅行者数は前年同月比+30.8%の263.3万人。国別にみると、中国が55.9万人(同+95.9%)と5ヵ月連続最多で、マレーシアの44.3万人(同+18.4%)、インドの19.9万人(同+33.5%)と続いた。日本は12位で、6.7万人(同+25.2%)。2024年1〜5月の訪タイ外国人旅行者は前年同期比+37.6%の1476.1万人で、上位2ヵ国の中国(291.1万人、同+157.4%)とマレーシア(201.2万人、同+16.2%)が3位以下を引き離している。日本は11位で、40.1万人(同+47.8%)だった。

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SBCS Co., Ltd.
Executive Vice President and Advisor

長谷場 純一郎 氏

奈良県出身。2000年東京理科大学(物理学科)卒業。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。山形事務所などに勤務した後、2010年チュラロンコン大学留学(タイ語研修)。2012年から2018年までジェトロ・バンコク勤務。2019年5月SBCS入社。2023年4月より現職。

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SBCSは三井住友フィナンシャルグループが出資する、SMBCグループ企業です。1989年の設立以来、日系企業のお客さまのタイ事業を支援しております。

Website : https://www.sbcs.co.th/

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