貿易と関税について

THAIBIZ No.162 2025年6月発行

THAIBIZ No.162 2025年6月発行激動するタイ市場を走破せよ! 三菱自動車が挑む日本のHEV最前線

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    貿易と関税について

    公開日 2025.06.10

    貿易と関税について

    2025年に入ってから関税に関する議論が活発になっている。様々な意見があるのは承知しているが、少し基本に立ち返って考えてみたい。

    そもそも「なぜ人は貿易をするのか」という点から始める。国境を越える取引は「貿易」と呼ばれ、難解なことを議論しているように感じられるが、実際には国境を越えない単なる売買と本質は変わらない。

    基本的にわれわれは、自分一人であらゆるものを作ることはできない。このため、何かを生産またはサービスを提供して交換することになる。そこにお金が介在することで利便性が高まっている。

    もし、このような取引を行わなければ非常に非効率な社会になってしまう。例えば、パンを製造販売する例で考えてみよう。小麦、バターといった原材料からオーブンまで自分で作るよりも、それぞれの生産に特化した人から必要な量だけ購入してパンを作り、販売から得たお金を使って、再び必要な材料を購入する方がはるかに効率的だ。 

    これは直感的に理解できる話だが、これを理論的に説明してくれるのが2国2財モデルという国際貿易理論だ。端的に説明すると、「2つの国が2つの同じ財(モノ)を生産できると仮定する。この時、各国が自国にとって比較優位のある財に特化して生産することで全体の生産量を増やすことができる。そして、生産した物を相互に交換(貿易)することで、双方が利益を得ることができる」という理論になっている。

    非常にわかりやすく、直感にも合致した理論だ。さらに、この考え方は日々の仕事にも応用できる。例えば、「ある仕事を得意とする(または他と比較して優位性がある)人に、得意なことを多く担当してもらうことで、組織全体の生産性が高まる」ということの裏付けにもなる。ここまで考えると非常に興味深い理論なので、関心がある方は是非、調べてみて欲しい。

    これまでの世界は、全体として生産性向上の恩恵を享受するために「自由貿易推進」という方向で進んできた。具体的には、世界貿易機関(WTO)や自由貿易協定(FTA)を通じて関税の低減や非関税障壁の撤廃が進められてきた。

    しかし、この自由貿易はフェアな条件で行われることが大前提である。アンフェアな例として「政府が企業に高額な補助金を与え、格安の商品を生産して輸出する」というケースが考えられる。このような場合、同じ商品を生産している他国の企業は、 格安の競合品の流入によって、大きな損害を受ける可能性がある。

    そこで、現在話題となっている関税の議論が出てくる。例で挙げたようなケースでは、補助金で安くなった価格分を相殺するために関税をかけることで、自国産業を保護するという考え方である。しかし、これまで安価な商品を購入できていた輸入国の消費者にとっては、関税によって価格が上昇した商品か高い自国産品を買わざるを得なくなることになる。

    また、農産物のように食糧安全保障に関わる品目については、自国の農業を保護するために比較的高い関税が設定されている場合も多い。輸入元が輸出してくれなくなったら国民が飢え死にしてしまうリスクがあるからだ。

    ここまでの議論からご理解いただけると思うが、全体の最適化という観点で言えば関税は無い方が望ましい。しかし、特定の産業については、各国の事情によって保護が必要な場合もあり、最小限の関税がかかるのは容認されるべきだろう。また、補助金に対する相殺関税も理解できる。

    とはいえ、過剰な関税をかけて国内産業を保護しすぎると、全体最適から外れてしまい、結果として国内で物価の上昇を招く可能性が高くなる。

    極端な政策を取ってしまうと、これまで積み重ねてきた制度や信頼が根底から崩れてしまう危険性もある。結局のところ、重要なのはバランスである。いま起きていることには、このバランスが音を立てて壊れていくような怖さを感じている。

    2025年3〜4月の経済・政治関連トピック

    タイ商務省の4月24日の発表によれば、2025年第1四半期の輸出額は前年同期比+15.2%の815.3億米ドル、輸入額は同+7.4%の804.5億米ドルで、貿易収支は10.8億米ドルの黒字となった。品目別輸出額は、農産物・加工品が同+0.2%(119.6億米ドル)、電子製品・同部品が同+29.8%(149.9億米ドル)、自動車・同部品が同▲3.2%(98.1億米ドル)だった。国・地域別輸出額は、首位が米国で前年同期比+25.4%の158.1億米ドル、次いで中国が同+19.5%の87.8億米ドル、日本が同+0.1%の58.9億米ドルだった。


    経済

    米国のトランプ大統領は4月2日(現地時間)、すべての国・地域に対して一律10%の関税を課し、さらに貿易相手国に上乗せする「相互関税」の税率を発表した。ただし、4月10日に、中国以外の国・地域に対する相互関税を90日間停止し、10%の一律関税を適用すると発表した。

    タイの相互関税率は36%で、日本の24%よりも高いが、ASEAN内で比較すると、カンボジアの49%、ラオスの48%、ベトナムの46%、ミャンマーの44%よりも低い。タイ政府は、この税率がタイ経済へ与える影響は約8,800億バーツで、輸出目標を見直す必要があるとの見解を示している。

    対応策として、タイ国内で供給不足の品目の米国から輸入の推進、タイを使った原産地偽装の問題解決、米国の一部品目に対する関税の減免、輸入規制緩和等を材料として交渉する予定。タイは米国の貿易赤字ランキング11位(2024年赤字額456億米ドル)。2024年の主な輸出品目はスマートフォン・携帯電話、コンピューターおよび関連装置、ゴム製の空気タイヤ、半導体機器、変圧器である。

    ・・・・

    エネルギー政策計画事務局(EPPO)の発表によると、2024年のタイのエネルギー消費による二酸化炭素(CO2)排出量は前年比+1.0%の2億4,570万トンで、増加に転じた。これは、特に下半期の経済成長によるエネルギー需要増加に伴うものであるとEPPOは説明した。

    エネルギー単位当たりの排出量は2023年の1.991トン/TOE(石油換算トン)から1.989トン/TOEと微減。経済部門別に見ると、発電は前年比+5.1%と増加率が最も大きい。一方、工業は同▲4.5%と減少した。

    ・・・・

    タイ政府は4月29日の閣議で、プラグインハイブリッド車(PHEV)に関する物品税を実質的に引き下げる改正を承認した。従来、1回の充電で走行可能な距離が80キロメートル以上であっても、燃料タンクの最大容量が45リットルを超える場合、物品税率は10%であった。

    しかし、今回の改正で燃料タンクの最大容量の規制は撤廃され、1回の充電で走行可能な距離が80キロメートル以上の場合は物品税率5%、1回の充電で走行可能な距離が80キロメートル未満の場合は物品税率10%となった。この改正は2026年1月1日から適用される。


    政治

    3月28日午後、ミャンマーを震源としたマグニチュード7.7の地震が発生した。震源地から約1,000キロメートル離れたバンコクも、ビルの亀裂や建設中のビルが倒壊する等の被害が出た。タイ政府が非常事態宣言を出したが、全壊したビル以外のエリアは大きな被害が無いため、4月3日に災害終息宣言を出した。また、倒壊したビルについては5月10日に捜索終了を発表した。

    タイ災害防止軽減局によると、5月12日時点で被害のあった範囲はバンコクを含めて18県、死亡者は96人とされている。また、タイ商工会議所は、地震の被害は国内総生産(GDP)の0.06〜0.12%相当の106〜221億バーツに達するとの見通しを発表し、特に観光業への影響が大きいとの見解を示した。

    ・・・・

    5月2日の観光・スポーツ省の発表によると、2025年4月の訪タイ外国人観光者数は前年同月比▲7.6%の254.7万人で、3ヶ月連続のマイナスとなった。国別では、マレーシアが36.3万人(同▲9.6%)とトップになり、中国の31.7万人(同▲46.7%)、インドの20.6万人(同+20.9%)と続いた。日本は18位で、5.8万人(同▲6.7%)だった。

    2025年1〜4月の訪タイ外国人観光者数は前年同期比▲0.3%の1,209.6万人とマイナスに転じた。中国が同▲29.9%の164.9万人で、首位であるものの、2月から大幅に減少している。日本は10位で、37.5万人(同+12.3%)だった。一方、2025年1〜4月の観光収入額は同+5.2%の5,768.5億バーツだった。また、5月1日から外国人を対象に、ウェブサイトで登録するオンライン入国カード(TDAC)が導入された。

    SBCS Co., Ltd.
    Executive Vice President and Advisor

    長谷場 純一郎 氏

    奈良県出身。2000年東京理科大学(物理学科)卒業。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。山形事務所などに勤務した後、2010年チュラロンコン大学留学(タイ語研修)。2012年から2018年までジェトロ・バンコク勤務。2019年5月SBCS入社。2023年4月より現職。

    SBCS Co., Ltd

    Mail : [email protected]
    URL : www.sbcs.co.th
    SBCSは三井住友フィナンシャルグループが出資する、SMBCグループ企業です。1989年の設立以来、日系企業のお客さまのタイ事業を支援しております。

    Website : https://www.sbcs.co.th/

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