
カテゴリー: ビジネス・経済, ASEAN・中国・インド
連載: タイ経済概況 - SBCS
公開日 2026.02.10
タイの大学に留学していたとき強く感じたのが、「学生が非常に一生懸命勉強している」ということだ。勉強内容は暗記中心で、思考力の育成という点では疑問を覚えたものの、彼らはアルバイトやサークル活動にほとんど時間を費やさず、学業に打ち込んでいた。
タイ人を採用する立場になって、ようやくその理由が分かった。タイの就職活動では、履歴書とともに大学の成績表を提出するのが一般的だ。企業側は大学や学部・学科に加えて、総合成績であるGPA(Grade Point Average)を確認する。
満点は4.0で、3.0を超えていれば「優秀」「真面目」と評価されることが多い。GPAが低いと書類審査で不利になるのは当然で、さらにこの成績は大学院進学や転職の場面で一生ついて回る。学生たちが勉強に力を注ぐのは、GPAが人生を左右すると理解しているからだ。日本の「大学の成績」への意識とは、重みが根本的に異なる。
もっとも、彼らが学業に打ち込む理由は他にもある。タイではアルバイトの時給が一般的に50バーツ程度と低く、アルバイトに精を出すよりも、奨学金を得るために学業に励む方が経済面で効率的という側面がある。
さらに、就職活動において部活動を評価する文化が弱く、リーダー職を務めない限り、選考で有利に働かないといった背景も影響しているようだ。
ところで、履歴書に「First Class Honors」「Second Class Honors」と記載している志願者もいる。当初、筆者は「首席や次席が応募してきた」と気合を入れて面接に臨んだが、どうも話が嚙み合わない。調べてみると、一定の成績基準を満たした学生グループ全員に与えられる称号のようなものだった。学部や学科によっては半数以上がSecond Class以上になることもあり、日本の感覚とはズレがある。
さて、こうした背景を持つタイの教育制度はどうなっているのだろうか。基本的な教育制度は日本と同様の6年(小)─3年(中)─3年(高)─4年(大)制で、中学までが義務教育だ。2学期制で1学期が5月中旬〜8月下旬、2学期が11月上旬〜4月下旬。学期の間は休みとなる。新学期が始まると、高架鉄道(BTS)が急に混み始めたと感じることになる。学年の呼び方は独特だ。小学生は「ポー1〜6」、中高生は「モー1〜6」、大学生「ピー1〜4」と呼ぶ。中学と高校をまとめて中等教育と捉えているため、高校3年生は「モー6」となる(図表1)。
なお、高校段階では約3割が職業専門高校を選択する。前期3年(ポーウォーチョー)、後期2年(ポーウォーソー)を経て、多くは就職するが、大学3年生へ編入する道も開かれている。

また、高校1年から文系コースと理系コースに分かれる。理系人材不足が叫ばれるタイだが、意外なことに高校までは理系選択の方が多い。理系人材不足になる背景には、高校時に文系コースを選択していた人が、大学進学時に理系学部を選択することが制限されていることにある。
興味深いのは、教育段階が進むにつれて変化する学生の男女比だ。中学卒業時点では男性48%、女性52%と差はほとんど無い。これが、高卒時点では男性39%、女性61%、大卒時点では男性37%、女性63%、院卒では男性32%、女性68%と女性の割合が増えていく。女性の社会進出が目覚ましいタイだが、その背景には教育段階から女性優位の構造があることが浮き彫りになっている。
タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)の11月17日の発表によると、2025年第3四半期の経済成長率は前年同期比+1.2%となり、2021年第3四半期の▲0.1%以来の低水準となった(図表2)。

農業は同+1.9%、非農業は同+1.2%で、第2四半期のそれぞれ+6.4%、+2.5%から減速しており、製造業は同▲1.6%とマイナスに転じた。一方、卸・小売業および修理業は同+6.5%と、第2四半期の+6.3%から引き続き堅調だった。2025年1〜9月の経済成長率は同+2.4%となった。また、2025年通年の成長率見通しは+2.0%、2026年通年の成長率見通しは+1.2〜2.2%とされた。
国際協力銀行(JBIC)は、第37回となる「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」を2025年12月11日に公表した。本調査は同年7〜9月に実施され、541社から回答を得た。中期的な有望事業展開先国・地域(今後3年程度)では、タイはインド、米国、ベトナム、インドネシア、中国に次ぐ6位となった。
得票率は過去最低となり、順位も2024年から1ランク下落した。評価理由としては、「現地マーケットの今後の成長性」「現地マーケットの現状規模」「産業集積がある」といった点に加え、「第三国輸出拠点としての位置付け」も挙がった。一方、課題としては、回答企業の60%超が「労働コストの上昇」を挙げており、「他社との厳しい競争」も約60%まで急増した。
・・・・
タイ投資委員会(BOI)は、中国・上海で実施したロードショー(2025年12月17〜18日)および中国電気自動車(EV)産業の中核組織「China EV100」との連携を通じ、タイへの中国投資誘致とEVサプライチェーンの強化を加速させる方針を示した。
「Thailand–China Investment Forum 2025」で協議したSeenpin、Zhejiang Jinwo、Zhejiang XCCの3社はタイでの生産拠点設立を計画しており、第1フェーズの投資額は合計70億バーツ超となる見込み。ロボット部品クラスター形成への期待が高まっている。
また、Ant Internationalとはデジタル決済や越境決済における協力拡大、データセンターおよびクラウド分野への投資可能性について議論。GCL Groupとは、ペロブスカイト太陽電池の一貫生産に向けたタイ企業との共同投資構想を確認した。
さらにBOIは12月19日、China EV100とASEANで初となる覚書(MOU)を締結。研究開発、技術移転、人材育成、充電・バッテリー交換等のEVエコシステム整備を通じ、タイ企業の高度化と世界のEVサプライチェーン参入を後押しする。2020年から2025年9月までの中国によるBOI奨励申請は2,459件、総額6,100億バーツ超に達した。2025年1〜9月も1,400億バーツ超(前年同期比+26%)となり、中国企業のタイ投資は拡大基調にある。
12月2日、タイ商工会議所は、11月下旬からの豪雨によりソンクラー県ハジャイ市を中心に発生した南部洪水の被害額が、国内総生産(GDP)の0.22%に相当する400億バーツに達するとの見通しを発表した。
観光のハイシーズンであり、かつ東南アジア競技大会(SEA Games)の会場となる予定だったことから、観光・サービス業の被害が最も大きく、全体の56.1%にあたる約22.4億バーツを占めた。政府は12月2日の閣議で、政府系特定目的金融機関(SFI)による債務返済の12ヶ月間の一時停止(停止期間中の利息計算免除)や、低利の災害復旧ローン等を承認した。

SBCS Co., Ltd.
Executive Vice President and Advisor
長谷場 純一郎 氏
奈良県出身。2000年東京理科大学(物理学科)卒業。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。山形事務所などに勤務した後、2010年チュラロンコン大学留学(タイ語研修)。2012年から2018年までジェトロ・バンコク勤務。2019年5月SBCS入社。2023年4月より現職。
SBCS Co., Ltd
Mail : jhaseba@sbcs.co.th
URL : www.sbcs.co.th
SBCSは三井住友フィナンシャルグループが出資する、SMBCグループ企業です。1989年の設立以来、日系企業のお客さまのタイ事業を支援しております。
Website : https://www.sbcs.co.th/


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