タイの若者に“届ける”には? – サントリー流マーケ戦略

THAIBIZ No.171 2026年3月発行

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タイの若者に“届ける”には? – サントリー流マーケ戦略

公開日 2026.03.10

SNSでのクチコミ力、審美眼、ブランドへの共感度—タイの消費市場は、こうした若者層の独特な価値観を取り込めるかどうかで勝敗が決まる時代に入った。

サントリーは、健康増進ビジネスを担う「サントリー・ビバレッジ・アンド・フード(タイランド)(SBFT)」と、清涼飲料市場における主要プレーヤーの一つ「サントリー・ペプシコ・ビバレッジ(タイランド)(SPBT)」が両輪となり、多様なブランドを武器にZ世代を中心としたタイの若者市場も深耕している。

どのようにしてタイの若者層の心をつかみ、行動を促すのか。両社の戦略から、そのヒントを探っていく。

長年にわたり愛されるブランド「BRAND’S」シリーズ

サントリーグループは、清涼飲料、アルコール飲料、ウェルネス製品など多様なポートフォリオを有するグローバルカンパニーだ。同グループのサントリー食品インターナショナル株式会社(以下、SBF)は、ノンアルコール飲料のブランド展開・製造・販売を担う。

SBFグループにおいて、タイおよび周辺国で健康増進分野の「BRAND’S(ブランズ)」シリーズの生産・販売を担っているのがSBFTである。同シリーズは長年にわたり幅広い層のタイ人から支持を集めてきた実績があり、近年同社は、若者の嗜好や価値観を踏まえた新製品開発にも注力している。

SBFTのオマー・マリクCEOに、同社の沿革や価値観、それらを土台とするマーケティング戦略について話を聞いた。

オマー・マリク 氏
Suntory Beverage & Food (Thailand)Co., Ltd.
Chief Executive Officer

日用消費財(FMCG)業界で30年以上の経験を持つ経営者。ペプシコでは約15年にわたり飲料・スナック事業に従事。2017~2020年にSPBTのCEOとして合弁事業の立ち上げと成長を主導。その後、ペプシコ東南アジア地域飲料事業担当VPを務め、9ヵ国にまたがるボトリング事業を統括。2023年4月より現職。

歴史あるチキンスープが起点

SBFTの歴史は50年以上にわたり、さらにその源流は1830年代半ばにまでさかのぼる。当時、英国王室のシェフであったヘンダーソン・ウィリアム・ブランド氏が、国王の健康を願って考案した特別なチキンスープ「チキンエキス(Essence of Chicken)」が起点だった。

1974年、「Cerebos Pacific」がノンタブリー県に生産工場を開設し、BRAND’Sを立ち上げ、タイでのチキンエキスの生産・販売を開始した。その後、市場の急拡大に伴い、チョンブリー県のレムチャバン工業団地およびピントン工業団地にも生産工場を建設した。

オマーCEOは、「1990年、サントリーはCerebos Pacificを買収し、日本で培ってきたものづくりの哲学と先進的な製造技術をタイに本格的に導入することで、同国における健康増進ビジネスを拡大し、飲料および健康食品分野のイノベーションを牽引してきた」と説明する。

現在、SBFTはアジアを中心に10ヵ国以上で事業を展開しており、アジア全体ではタイが最大のシェアを占めている。

親が子どもに飲ませる習慣が定着

BRAND’Sシリーズの中核製品であるチキンエキスは、集中力や記憶力の向上をサポートする製品として、タイで広く認知されている。親が子どもに飲ませる習慣も根付いており、特に大学入試シーズンには、多くの受験生の間で飲用が定着している。

BRAND’Sシリーズの製品(チキンエキス)(写真提供:SBFT)

オマーCEOは、「天然由来の製品であるため、親が罪悪感なく子どもに与えることができる点が特徴の一つだ。子ども時代にチキンエキスを飲んで試験に臨んだ人々は、成長して大人になった今、自ら購入して飲むようになった。自社調査によると、同製品は主に朝の時間帯にコンビニエンスストアで購入されることが多く、一日の始まりの朝食習慣の一環として、他の食品や飲料、コーヒーとあわせて購入される傾向がある」と説明する。

さらに同CEOは、「タイ人は、朝起きて一生懸命に勉強や仕事に取り組み、そして全力で遊ぶ。チキンエキスは、そうしたタイ人のライフスタイルや価値観に適した製品だ」と、タイ市場との相性の良さを強調した。

改めて価値訴求が必要な理由

一方で、市場環境は常に変化している。消費者の選択肢は増え続け、脳の活性化に良いとされる成分や製品が市場にあふれる中、同社はこの変化にどう向き合っているのだろうか。

オマーCEOは、「『父親や母親が飲んでいたものだから、自分は飲みたくない』と考える若者世代は少なくない。製品とその効果が世代を超えて受け入れられ続けるようにすることが、われわれにとっての大きな挑戦だ」と語る。

突破口の一つは、製品価値を丁寧に伝え続けることだという。同CEOは、「かつては当たり前のように共有されていた『なぜBRAND’Sが良いのか』という理解が、時間の経過とともに徐々に薄れてきた。そうした状況を受け、われわれは自らの取り組みを見つめ直し、BRAND’Sの価値をより明確に、そして自信をもって伝えることに改めて注力している」と話す。

そのうえで、「マーケティングの基本に立ち返り、科学的根拠、ロイヤルユーザーの声、ならびに多様な健康ニーズに対応する製品展開を通じて、新世代の消費者に対する製品価値の訴求を強化していく必要がある」と説明する。

若者向けには、人気キャラとのコラボや新製品開発も

チキンエキスの効能に関する科学的根拠については継続的に研究が進められている。同社によれば、2024年に日本で実施された研究では、チキンエキスが神経炎症や酸化ストレスを軽減する可能性が示唆され、ストレス下における脳細胞の保護につながることが示された。

こうしたデータを正確に消費者に伝えるとともに、同社はメインターゲットとする「親から自立し始める25〜30代」に向け、新たな施策も積極的に打ち出してきた。同CEOは、「この世代の認知や関心を高めるため、チキンエキスは2025年から日本の人気キャラクター『クレヨンしんちゃん』を起用している」と説明。

(写真提供:SBFT)

さらに下の世代に向けては、美容やスマートフォン・PCの使用過多による眼精疲労など若い世代特有の悩みに応えるとともに、飲む楽しさや満足感も提供する製品として、「VETA(ビタ)」シリーズも展開している。

「消費者」ではなく「生活者」の理解が鍵

サントリーの消費者アプローチの根底には「生活者」という考え方があり、若者世代向けのマーケティング戦略を語るうえでも欠かせない概念だ。

オマーCEOは、「一般的な調査では製品使用後の感想を聞くことが多いが、われわれは消費者になる前の『人間』を見るようにしている。生活者の日々の暮らしや感情、習慣、関心、価値観、そしてどのような場面で商品を購入するのかを理解したうえで、それに即した商品開発を行っている」と説明する(図表1)。

出所:サントリー公開情報に基づきTHAIBIZ編集部が作成

加えて、サントリーはコーポレートバリューの一つである「やってみなはれ」精神に基づき、失敗を恐れずに色々な方法を試してみることも大切だと考えているそうだ。

同CEOは、「かつてのように『テレビでマイケル・ジャクソンがPEPSIを飲めば、皆が飲む』という時代は終わった」と指摘する。「現在の若者は、安全性や環境への配慮を重視し、有名人よりも実際に使用している一般消費者の声を重んじる傾向が強い。いかに『自分が属するグループのための製品だ』と感じてもらえるかが重要だ」と、Z世代を中心とする若者層との向き合い方について語った。

THAIBIZ編集部
サラーウット・インタナサック / 白井恵里子

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