タイの若者に“届ける”には? – サントリー流マーケ戦略

THAIBIZ No.171 2026年3月発行

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タイの若者に“届ける”には? – サントリー流マーケ戦略

公開日 2026.03.10

若者を理解するには、まず現場へ

若者層の価値観や心理を理解するために、サントリーが最も重視しているのは「現場に行く」ことだ。SBFTにてタイ・インドシナ地域マーケティング担当シニア・バイス・プレジデントを務めるジャトゥラポーン・タナポーンスンスット氏は、「リサーチは社員自らが売り場に出向いて行うことが多く、なるべく若者層の環境に入り込むことを意識している」と語る。

ジャトゥラポーン・タナポーンサンスット 氏
Suntory Beverage & Food (Thailand)Co., Ltd.
Senior Vice President – Marketing
Thailand & Indochina

マーケティングおよびブランディング分野で約30年の経験を持つマーケティングリーダー。Johnson & Johnsonなどで実績を積み、2022年4月にSBFTに入社。現在は、アジア6ヵ国市場における健康増進ポートフォリオの成長加速に向けたマーケティングおよびブランディング戦略を統括している。

タイ市場のユニークさと難点

若者層に限らず、タイ市場にはユニークな特徴がある。ジャトゥラポーン氏は「一般的にタイ人は新しいものに対して非常にオープンだ。新製品に強い関心を持ち、積極的に試そうとする傾向がある」と説明する。

その背景には、タイの独特な購買環境がある。街中に数多く展開するコンビニエンスストアでは、さまざまな商品が小容量パックで販売されており、SNSなどで目にした新商品を気軽に試しやすい環境が整っている。

一方で、こうした環境は課題もはらむ。同氏は「小パックの商品が棚一面に並び、選択肢が非常に多い。そのため、ブランド・ロイヤリティ(忠誠心)を築くことが難しい」と指摘する。

新規参入が相次ぎ、選択肢が増え続ける中で、ターゲット層をいかに維持していくか。その問いに対し、同氏は「ユニーク・バリュー(独自の価値)の創出が何より重要だ」と語る。「われわれのユニーク・バリューは、見た目の美しさや味、色といった要素以上に『効果と品質』にある。これらのバリューに妥協せず、徹底してこだわってきたことこそが、今日まで生き残ってきた理由だ」と明言した。

体験、味、リフレッシュ感を重視する若者層

長年にわたり支持されてきたチキンエキスを基盤に、BRAND’Sシリーズでは、ブランドならではのユニーク・バリューを保ちながら、Z世代を中心とする若者層に訴求するための製品開発も進めてきた。その一つが、BRAND’Sの知名度を確立した製品の一つである「燕の巣ドリンク(Bird’s Nest Drink)」だ。

従来の同製品の消費者層は、家族からの言い聞かせや信頼に基づいて購入するケースが多く、年齢層はやや高めだった。ジャトゥラポーン氏は、「ターゲットをより若い世代へと広げるためには、製品価値の訴求に加え、もう一工夫が必要だった。若者が重視するのは、体験や味わい、そして飲んだときのリフレッシュ感。そうした価値観を踏まえて、形状やフレーバーのバリエーションを拡充した」と説明する。

Z世代と対話するために開発された「VETA Jelly Strip」

VETAシリーズも、若者層のライフスタイルに寄り添うソリューションを提供する「機能性フルーツエッセンス」として、価値観や嗜好の変化に合わせて進化を続けている。同シリーズからは昨年、毎日の健康習慣を今風にアップデートする、スティックタイプのゼリー「VETA Jelly Strip(ビタ・ゼリー・ストリップ)」が発売された。

「VETA Jelly Strip」(左)、「Bird’s Nest Drink」(右)(写真提供:SBFT)

ジャトゥラポーン氏は、「この製品は『機能性ゼリー』として位置付けており、Z世代の消費者が、スナック感覚で楽しみつつ、機能性もしっかり実感できる商品だ。おいしく、クールで、持ち運びしやすく、友人とシェアしやすい点が特徴だ」と、商品設計の狙いを説明する。

さらに同氏は、「Z世代と対話するために、特別に構想・開発した製品だ。Z世代へのリーチを切り拓く存在になりうる」と、同製品に期待を寄せる。

「本物」と「関連性」が購買行動を左右する

若者層にリーチするうえで欠かせない要素として、ジャトゥラポーン氏は「オーセンティック(本物)」と「リレータブル(自分との関連性)」を挙げる。つまり若者は、実際に製品を使い、本音を語っていると感じられる人、そして自分たちと同じグループに属していると感じられる人の声を信じるということだ。

同氏は、「彼らは何かを購入する前に、店頭で立ち止まり、レビューを読んだうえで買うかどうかを判断している。たとえレビューが好意的であっても、その発信者が実際に商品を使っており、かつ自分たちが共感できるライフスタイルやコミュニティを体現していると感じられなければ、購入にはつながらない傾向がある」と解説する。

彼らの購買の決め手が大きく変化した背景には、テレビからの一方的な情報受信の時代から、SNSを通じて他人のリアルな購入体験に触れる時代へと移行したことがあるという。

社員自らが現場に行く理由

マーケティングにおいては「消費者リサーチ」も重要な役割を担うが、同社では独自のリサーチ手法を採っている。ジャトゥラポーン氏は、「リサーチ会社と協力することもあるが、大半は自分たちで行っている。マーケティング部門が継続的に『現場』、特に『売り場』に足を運ぶことで、消費者の変化を肌で感じ取ることができる」と、自社のリサーチ姿勢に胸を張る。

社内には「現場カレンダー」が設けられており、マーケティング部門に限らず、生産、営業、ファイナンス、そしてIT部門の社員もリサーチに参加。スーパーマーケットなどのモダントレード、個人商店などのジェネラルトレード、さらには学校や市場といった地域コミュニティまで、さまざまな販売チャネルを訪れているという。

年末のギフトシーズンには、社員が実際に売り場に立ち、自分たちの顧客がどのような人たちなのか、何を求め、どのような疑問を抱いているのかを、その場で観察する機会も設けているそうだ。これは、社員一人ひとりがブランドの担い手として、自身の体験や商品知識を消費者に直接伝えることを後押しする、貴重な機会にもなっている。

こうした取り組みの目的について同氏は、「他部門の視点は、マーケティング担当者が見落としがちな死角に気づかせてくれることがある。売ろうとする前に、まず消費者を理解することが重要だと考えているため、現場での経験は何よりも役立つ」と説明する。

「聞き手」として若者層の環境に入り込む

製品キャンペーンも、「消費者がいる場所に行く」という方針のもと、若者が集まるバンコクのサイアムスクエアなどで展開している。ジャトゥラポーン氏は、「サイアムスクエアは、週末に歩行者天国となり、若者たちが自らのスキルを披露し、表現する場になっている。われわれは、こうした場所に足を運び、彼らの言語で語りかけることを大切にしている」と説明する。 

サイアムスクエアで行ったキャンペーンの様子(写真提供:SBFT)

さらにSBFTは、コーポレートバリューである「Giving Back to Society(社会への還元)」に基づく社会貢献活動として30年以上にわたり実施してきた学生向け教育プログラム「BRAND’S Summer Camp(ブランズ・サマー・キャンプ)」を発展させ、2024年に「BRAND’S Brain Camp(ブランズ・ブレイン・キャンプ)」を立ち上げた。

「単なる学力向上を目指す時代から、『自己発見から始める』という新たな潮流へと移行していることを受け、エンジニアや医師、デザイナーなどを志す学生向けに、ロールモデルを招いて話を聞く形式へと発展させた」と、その狙いを語る。

同氏は、「彼らは非常に『自分自身』を持っている。単に新しいものにお金を使う世代だと思われがちだが、実際に対話すると、学生のうちから人生の基盤をどのように築くかを真剣に考えており、上の世代よりも早い段階で人生設計を行っていることが分かった」と解説する。

キャンペーンや教育プログラムはいずれも『現場』の哲学に基づいており、「若者をジャッジするのではなく、聞き手として彼らの環境に入り込むこと」を重視した姿勢から生まれた取り組みだという。

「なぜ」を掘り下げ、若者世代の本質に迫る

ジャトゥラポーン氏の話からは、若者向けマーケティングの基本が「彼らを深く理解すること」にあると分かる。同氏は最後に、「『なぜ』を何度も問い続けることが大切だ。氷山の一角だけを見て判断してはいけない。製品を一度ローンチして終わりではなく、継続的に彼らと対話し、彼らの思考や人生の目的とつながることが重要だ」と語り、インタビューを締めくくった。

THAIBIZ編集部
サラーウット・インタナサック / 白井恵里子

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