
カテゴリー: 対談・インタビュー, 特集, 食品・小売・サービス
公開日 2026.03.10
目次
「Z世代とのコミュニケーションにおいては、彼らが持つ忍耐力はわずか1.6秒であると理解しておくことが重要だ」。そう語るのは、マーケティング担当シニア・バイス・プレジデントのユッタナ・ジットチャルンポーン氏だ。
極めて短い集中時間という厳しい条件の中で、企業はどのようにZ世代と対話するべきなのか。効果的なデジタル上での対話手法について深堀していく。

ユッタナ・ジットチャルンポーン 氏
Suntory PepsiCo Beverage(Thailand)Company Limited
Senior Vice President of Marketing
東南アジア各国でブランド構築やイノベーションを推進し、FMCGおよび小売業界で20年以上の経験を持つ。SPBT入社以前、ペプシコではアジア事業部エナジードリンクカテゴリーのリージョナル・マーケティング・ディレクターなどを歴任。セントラル・グループやテスコでも要職を務めた。
SPBTは現在9つのブランドを展開しており、ターゲットとするユーザー層も広範にわたる。その中でのZ世代の位置づけについてユッタナ氏は、「PEPSIやTEA+のようにZ世代の顧客比率が高いブランドがある。この世代は、あらゆる市場において、今後さらに存在感を増していく層であるため、彼らに向けたアプローチは極めて重要だ」と語る。
同氏によれば、明確なターゲットを設定した上で、マーケティング戦略を構築する際の主要ファクターは四つある。
第一が「パッション・ポイント(強い関心領域)」だ。「ターゲットと対話する際に、彼らが何に関心を持っているのかを的確に捉えることは、極めて普遍的な考え方である。例えば、Z世代の代表的なパッション・ポイントの一つが音楽であることは広く知られている」と同氏は説明する。
第二は「主要な飲用オケージョン」である。例えばPEPSIは、ランチやディナーといった食事の時間に限らず、友人と食事をシェアする場面や休憩時間、気軽な集まりなど、さまざまな日常・社交シーンで欠かせない飲料として位置づけられており、幅広いシーンで楽しめる“定番のリフレッシュメント”としての存在感を強めている。
第三のファクターは「製品の優位性」だ。同社の場合、その核となるのが「味」だという。味が伴わなければ、いかに生活者と対話を重ねても市場で生き残ることはできない。こうした考えのもと、同社は継続的な改良を重ねており、その一例としてTEA+は今年2月に製品のアップグレードを実施し、従来以上のおいしさを実現したという。
これら三つのマーケティング要素を支える最終条件として、ユッタナ氏が挙げるのが「サステナビリティ」だ。同氏は「近年、Z世代は従来以上にサステナビリティを重視する傾向にある。われわれが最も意識しているのは、見せかけに終わらせず、『有言実行』を徹底することだ」と説明する。
同氏によると、SPBTはタイの飲料市場において、100%再生PETボトル(rPET)を初めて導入した企業だという。現在、同社が使用するペットボトルの約4分の1はrPET製となっており、今後もその使用比率を段階的に高めていく方針だ。「これは、ブランドのためだけでなく、環境、そして最終的には消費者のための投資だ」と、同氏はその意義を強調する。
さらに、昨年12月に開催された、若者層を中心に高い人気を誇るタイ最大級の野外音楽フェス「Pepsi presents Big Mountain Music Festival」では、協賛企業として「Waste Nothing(ごみをゼロに)」キャンペーンを実施。来場者に使用済みペットボトルの分別・回収を呼びかけ、適切なリサイクルにつなげる取り組みを行った。このイベントだけで、約5トンものごみを回収したという。

同氏は「真のサステナビリティとは、それらしいコンセプトを掲げたり、美しい写真を撮ったりすることではない。実際に実現させることこそが重要であり、それがわれわれの届けたい価値だ」と力強く語る。
こうした戦略のもと、SPBTはどのようにZ世代と対話し、具体的なマーケティング活動へと落とし込んでいるのだろうか。
ユッタナ氏は、「まず理解すべきなのは、Z世代の忍耐力は非常に低いということだ。彼らがスマートフォンを手に取り、コンテンツに反応するまでに許容できる時間は、わずか1.6秒しかない」と指摘。「BTS(高架鉄道)などで若者を観察すれば分かるが、彼らは私たちの想像以上のスピードで画面をスワイプし、膨大な量のコンテンツを消費している」と、実態を語る。
こうした前提のもとで重要なのは、「ブランドが伝えたいこと」と「彼らが聞きたいこと」をいかに重ね合わせ、1.6秒という極めて短い時間の中で届けるか、という点だ。同氏によれば、Z世代には「無限スクロール」「アルゴリズムに基づく行動」「リアクションの即時性」という三つの特徴がある。彼らと効果的に対話するためには、これらの特性を正しく理解しておく必要があるという。
特定の分野において高い専門性を持ち、消費者の購買行動やブランド認知に大きな影響を与える人物は「キー・オピニオン・リーダー(KOL)」と呼ばれ、Z世代との対話において重要な存在だ。ユッタナ氏は、「Z世代にとってKOLは、自分と同じグループに属していると感じられる存在であることが重要だ。まったく関連性のない人物には共感できず、意思決定に影響を与えることもない」と解説する。
同氏はKOL活用の具体例として、昨年末に発売した「ペプシ・クリア」のプロモーションで起用した、若者層に人気のアーティスト「PROXIE」を挙げた。
「PROXIEが商品を紹介すると、ファンは単に情報を拡散するだけでなく、実際に商品を探しに店へ足を運ぶ。拡散という行為自体が、Z世代にとっては自分の大切な価値観を示す自己表現の一形態でもある」と、同氏はZ世代の心理を分析する。

KOLによる共感形成に加え、SPBTは実際の生活行動を支援する形でのZ世代との接点づくりにも注力している。同社が約3年前から取り組んでいるZ世代との対話手法の一つに、「ペプシ・ミットチュアン・ギン」がある。「昼食に何を食べるか、なかなか決められない」というインサイトから生まれた、優れた飲食店を推薦するWEBプラットフォームだ。
同氏は、「かつてタイでは、有名人や専門家による権威あるレビューや、公式な食品認証が『おいしい店』を保証する指標だった。しかし現在では、レストラン選びに最も影響を与えるのはソーシャルプルーフ、つまりSNS上で『おいしい』と共有されているかどうかだ」と、Z世代における飲食店選定基準の変化を指摘する。
「ペプシ・ミットチュアン・ギン」では、位置情報やメニュー、レーティングなどのデータを基に、SPBTのパートナーレストランを提案している。「重要なのは、顧客が食事をする場所を選ぶ、その瞬間に寄り添うことだ」と、同氏はその狙いを解説する。
ユッタナ氏もまた、「現場=Z世代と同じ場所を歩く」ことを重視しているという。同氏は「リサーチ資料を読むだけでは不十分だ。実際に彼らと同じ生活をし、その瞬間を共に過ごさなければ理解はできない。1.6秒の忍耐力というのも、現場で彼らを観察する中で実感したことだ」と語る。
彼らの人生の一部となり、その心理を問い続けることこそが、心に響くコミュニケーションの鍵になる。これが、サントリー流マーケティング戦略の根幹なのだ。

タイの文化に響いた!
エナジードリンク「Sting」のキャンペーン事例
タイの消費者が持つ強い信仰心、特に家庭の祠に赤い飲み物(ナムデーン)を供えるという長年の慣習を着想の源とし、SPBTのマーケティングチームはStingをお供え物として提案。「Stingを供えることで、神様がより早く、より強い力で願いを叶えてくれる」という遊び心のあるメッセージを打ち出した。このアイデアは多くの人々の共感を呼び、SNS上で爆発的な反響を呼んだだけでなく、その創造性と文化的親和性が高く評価され、数々の広告賞を受賞する結果となったそうだ。

THAIBIZ編集部
サラーウット・インタナサック / 白井恵里子

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