ArayZ No.123 2022年3月発行タイにおけるFTA活用の現状
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公開日 2022.03.10
未来に向けて持続可能な発展が求められる今、環境・社会・ガバナンス(ESG)は企業の経営課題としてその重要性が増しています。
企業活動にESGの概念とフレームワークを取り込む動きは全世界で着実に進んできている一方で、具体的にビジネスにどう組み込んでいくべきか模索している企業が多いのではないでしょうか。
京都議定書やCOP21等の話題性からも、気候変動問題や報告義務など環境面の問題は比較的見えやすいですが、E・S・Gの3つの側面が等しく重視されることが重要です。例えば、S:社会問題への対応は、企業が従業員と自社が属する社会との関係を、しっかり把握し管理できるようになることが求められていることを意味します。
慈善的な取り組みに留まるのではなく、従業員構成、健康と安全面、サプライチェーンにおける紛争地域や不正労働関与の排除等、自社の信頼や評判がどのような社会的要因に影響されるかを検討する必要があるのです。
実際、ESGにおける社会的側面の問題は、ここ数年改めて問題として浮かび上がってきました。多くの労働者が社会的弱者となり、世界中で労働搾取の対象となる人口が増加したのも一因と考えられています。
これらの問題は、国境を越えて事業を展開する企業にとって非常に重要になってきます。
米国の人身売買被害者防止法(TVPA)等の関連法案は、世界中の人権と労働者の権利を持続的に改善することを目的にESGに先駆けて制定されましたが、今、その存在感は増し、同国と取引する企業にはESGと足並みを揃えて対応することが求められています。
米国国勢調査局によると、2021年の米国とタイの二国間貿易額は約600億米ドル(米国対内輸入額474億ドル、対タイ輸出額127憶ドル)であり、タイ中央銀行によれば米国は近年タイにとって最大の輸出相手国になります。
その米国国務省が毎年発表している人身売買報告書によると、タイは21年、Tier2監視リストに入り4年ぶりに格下げされました。本報告書において、米国政府は、タイ政府が尽力している点は認めつつも、特に貧困層や移民労働者搾取に関し、実質的な対応が基準を満たしていないと判断しています。
この格下げが持つ意味は大きく、同国への輸出に対する監視引き締めが強化され、特定物の輸入差し止め等二国間の貿易への影響が今後出てくる可能性も否定できません。
サプライチェーンにおける強制労働の問題は、今に始まったことではありません。米国税関・国境警備局(CBP)は、児童労働を含む強制労働によって外国で採掘、生産、製造された商品の全部または一部を輸入することを禁止する1930年関税法第307条(19 U.S.C. § 1307)により、90年以上にわたり立法手段を用いた措置を取ってきました。
CBPによる積極的な査閲・調査は年々高まっており、米国内輸入差し止め(違反商品保留命令)等の執行件数の増加も確認されています。アジアにおいても、中国や隣国のマレーシアにおいて複数の企業が、労働者搾取の理由でCBPによる制裁措置の対象となっていることが判明しました。
米国合衆国法典1589条第18項に「いかなる者も強制労働から故意に利益を得ることを禁じる」と明確に規定されていることからも、米国に輸出する企業は、サプライチェーンのデューデリジェンスの徹底と、ガバナンスとモニタリングの強化が求められています。単に「知らなかった」では済まされないのです。
また、この動きは米国だけでなく、EUでも、児童を含む現代の奴隷制度や強制労働を利用して生産された商品の輸入を禁止するための法案をまとめつつあります。政府、市場と消費者が、企業に対してより大きな説明責任と正しい行いを求め、企業はその声を無視できない時代に突入しているのは明らかです。
PwCのグローバル消費者インサイトパルス調査(21年6月)によると、約半数の回答者が、購買の判断においてサステナビリティの要素を考慮すると回答しています。
消費者の企業ヘの目は厳しくなってきており、かつてないほど購買意思決定においてサステナビリティを重要視しています。したがって、企業や投資家は、自社の事業や投資が持続可能であることを改めて考えESG経営を実践していく必要があります。
例えば、使用している原材料が次の世代を見据えた上で責任を持って使用・管理されているか、サプライチェーンを含め労働者が適切な報酬を受け、尊厳を持って扱われているかを担保する仕組みが導入されているか、それらの社会的責任をしっかり引き受け社会全体に示すことが求められています。
言うは易しですが、実際には消費者からのプレッシャーの高まりに加えて、投資家や顧客、サプライチェーン、ビジネスパートナーの期待にもビジネス面とESG面の双方で応えるのは決して容易ではありません。
どこから手をつければいいのか、費用対効果も含めて優先順位を決めるのは難しいことです。しかし、サプライチェーンにおけるESGコンプライアンスを見直すという観点では、考慮すべきポイントがあり、すぐに始められることもあります(図表1)。
ESGの流れは今後加速こそすれ止まることはなく、規制毎に対応していくのでは手遅れになりかねません。今後、企業の信頼・価値を向上させていくうえで、数字だけではなく、「善いことを行って成功する(Doing well by doing good)」にコミットしていることを社会に示す必要があるのではないでしょうか。
PwCタイ コンサルティング部門 ディレクター
吉川 英一
リスク管理・フォレンジック領域において日本国内外を含み計13年の経験を有し、2015年1月よりPwCタイに赴任。東南アジアにおける日本人フォレンジック専門家の第一人者として、不正調査、サイバーセキュリティー、データ分析、不正リスク管理体制の構築、半贈収賄コンプライアンス等の支援を多数指揮してきた。現在は、東南アジア域内における同サービスの日系企業向けの支援を管掌している。米国公認会計士。日本証券アナリスト協会検定会員。公認不正検査士。
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THAIBIZ編集部
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