タイハーブ×最先端技術で世界市場へ ～SNPSのティーラヤーCEOインタビュー

カテゴリー： 対談・インタビュー, 食品・小売・サービス

連載： タイ企業経営者インタビュー

公開日 2025.12.24

タイハーブは、体のバランスを整え、さまざまな不調を和らげる知恵として、世代を超えて受け継がれてきた。近年は科学技術の進歩により、その有効成分がより詳しく解明されつつある。健康やウェルネスへの関心が高まる今、タイハーブは自然由来の素材として、再び注目を集めている。

Specialty Natural Products Public Company Limited（SNPS）は、25年以上の歴史を誇り、タイの天然抽出物分野における研究開発の最前線に立つ企業だ。

「4C ― Cultivation（栽培・育成）、Creation（創造）、Conversion（変換）、Contribution（貢献）」を掲げ、持続可能で信頼できるパートナーや原料供給源の確立に取り組むとともに、科学に基づくハーブイノベーションを生み出し、タイの伝統知を現代のバイオテックソリューションへと昇華させている。さらに、コミュニティや社会への知識と価値の還元も推進している。

SNPSのティーラヤー・クリッサダーポンCEOに、同社の最先端の取り組み、バイオテクノロジー産業の未来、そして国際協業の可能性について話を聞いた。

伝統×サイエンスの融合でビジネスを展開

Q. SNPSの事業内容について

ティーラヤーCEO：当社は、植物から天然成分を抽出するバイオテクノロジー企業です。タイハーブに含まれる有効成分を、科学的・技術的手法を用いて抽出・開発することに注力しており、サムットプラカーン県とチョンブリー県に工場を保有しています。

タイハーブは古くから伝統医療として利用されてきましたが、当社はハーブに含まれる通常は目に見えない価値ある成分を抽出し、その量を正確に計測することで、用途に応じた最適な配合比を特定できるようにしています。こうして抽出された有効成分は、化粧品、食品、医薬品、またその他のヘルス＆ウェルネス製品の原料として活用することが可能です。

SNPSグループは、以下の4つの主要事業部門で構成されています。

・Wellnovation Co., Ltd.： タイ国立科学技術開発庁（NSTDA）との合弁企業で、健康研究を基盤とし、競争優位性につながる革新的技術の開発を担っている。

〈左〉SNPSのサンプル製品／〈右〉Specialty Innovationのサンプル製品

Q. SNPSの製品の特長は

ティーラヤーCEO：当社の天然抽出物製品は、主に次の3つのカテゴリーに分類されます。

・Enhance（向上させる）：「NaturTheory Moisturizing」、「NaturTheory Anti-Allergic」 、「Anti-Pollution」など、肌の若返りや再生を促す製品。

・Prevent（予防する）：「B Gold」など、エイジングの予防や遅延を目的とした製品。

・Cure（治す）：吐き気や乗り物酔いの緩和に効果のあるショウガ抽出物「Zinnox」など、治癒をサポートする製品。

また当社は、ハーブをベースとした新製品の開発も継続的に行っています。特に注目いただきたい新製品が、天然由来のカラー製品です。これらは鮮やかな色味だけでなく、健康面でのメリットも強みとしています。例えば、赤色はロゼラ（ハイビスカス）の色素由来で、カロテンを含み炎症の軽減に役立ちます。青色はバタフライピーの花から、黄色はクチナシの果実から抽出されています。

販売代理店とタッグを組み、輸出増に成功

Q. SNPSの国際展開戦略について

ティーラヤーCEO：本格的に海外輸出を開始したのは数年前ですが、現在では輸出が売上全体の約10％に達しています。当社の製品は海外でも高い評価を受けており、2024年の輸出の売り上げは二桁の成長を記録しました。

今年は、化粧品分野のディストリビューターと協業し、当社の有効成分を海外顧客へ輸出する取り組みを強化しています。今後は、健康食品向け原料のディストリビューターとの協業を拡大していきたいと考えています。

Q. SNPSと日本の関係は

ティーラヤーCEO：日本は当社にとって最も重要な市場の一つであり、初めての海外顧客でもありました。タイハーブはかつて伝統的で古風なものと見なされていましたが、日本はその価値をいち早く認め、受け入れてくれた国です。

農家を直接支援し、信頼性の高い原料調達を実現

Q. 国内外から信頼される製品を提供する秘訣は

ティーラヤーCEO：当社では、サプライチェーンの透明性と持続可能性を事業運営の基本としています。その象徴として「Tankhun Thai Farm（ターンクン・タイ・ファーム）」というプロジェクトがあり、スタッフが全国の農場を訪問し、信頼できる農家から直接ハーブを仕入れています。

さらに、収穫方法の指導や土壌管理の推進など、農法改善の支援も行っています。こうした取り組みにより、当社が取り扱うハーブは、高品質で安全性の高い、トレーサブルな原料であることが保証されています。現在、約250の農家世帯から原料を調達しており、将来的にはこの数をさらに増やすことが目標です。

Q. 経営において最も重要視するポイントは

ティーラヤーCEO：経営で最も重要かつ難しいのは、「人のマネジメント」です。すべては正しいマインドセットを築くことから始まります。当社は、社会や人々の健康にポジティブな影響をもたらすビジネスの創造に力を注いでおり、そのうえで、従業員が多様性を受け入れ、互いに尊重しながら協働できる環境を整えています。

リーダーに求められるのは、まず耳を傾けること。実験や失敗から学ぶ姿勢を持ち、若い世代に機会を与え、変化には柔軟に対応することだと考えています。

タイのバイオテクノロジー産業に“協業”が必要な理由

Q. タイの強みは

ティーラヤーCEO：タイは協力を重んじる文化を持つため、アジアのハブとなる可能性を秘めています。また、豊かな生物多様性、地理的優位性、そして豊富な天然資源に恵まれており、これらの強みは製品の高付加価値化を促す源となります。高付加価値化は、さらなる収入源となるだけでなく、国の経済成長に貢献する機会も提供するでしょう。

Q. タイハーブの将来をどのように見ているか

ティーラヤーCEO：今後、タイハーブは健康や美容分野で、さらに重要な役割を担うでしょう。消費者の健康・ウェルネスへの関心が高まる一方で、日常生活だけでは十分に対応できない場面もあり、補完的な解決策が求められています。ハーブ抽出物は、天然由来で安全という特性から、注目される選択肢のひとつです。

タイ政府も、特にブラックジンジャーやターメリックのようなタイ特有のハーブ製品の普及を推進しており、これらは日本でも人気を集めています。さらに、高齢化社会の進展に伴い、健康維持や疾病予防のためのハーブ需要も高まっています。こうした市場ニーズに対応するため、当社は、主要研究機関や、チュラーロンコーン病院やシリラート病院などの医療機関と協力しながら、研究成果の実用化に取り組んでいます。

Q. タイのバイオテクノロジー産業の将来をどのように見ているか

ティーラヤーCEO：タイのバイオテクノロジー産業には大きな可能性が秘められています。タイの研究者たちは世界水準の研究開発を行う能力を持っています。しかし、彼らの研究成果を消費者に届けるには、重要分野の研究をより深く追求し、実用化を促進する必要があります。また、さまざまな分野の専門家と協力し、お互いの強みを最大限に活かすことも欠かせません。国内外での協業こそが、タイのバイオテクノロジー産業を持続的に成長させる鍵となるでしょう。