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連載: タイ企業経営者インタビュー
公開日 2025.12.17
世界的な高齢化の波や感染症の拡大を背景に、ヘルスケア関連製品の需要は増加傾向にある。小売、サービス、その他さまざまな業界で衛生管理がますます重視されるようになり、現代において「ゴム手袋」は欠かせない存在だ。タイ最大手ゴム手袋メーカーのスリトラン・グローブス・タイランド(STGT)のジャリンヤー・ジロークン最高経営責任者(CEO) に、同社の強みやゴム手袋需要のトレンド、今後の事業戦略について話を聞いた。
(インタビューは7月11日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTHAIBIZ編集部)
目次
ジャリンヤーCEO:STGTは1989年に設立されました。当社は現在、タイ南部の4県(ソンクラー、スラーターニー、トラン、チュンポーン)に6つの工場を持っています。年間生産量は約510億枚で、タイ最大かつ世界第3位のゴム手袋メーカーです。タイ南部は、ゴム手袋の原料となる濃縮ラテックスの主要生産地であるため、原料調達面で優位性があります。
当社の主力製品は、ラテックス(天然ゴム素材)の検査用手袋、ニトリル(合成ゴム素材)の検査用手袋、粉付き・粉なしの手袋、手術用のロング手袋です。ゴム手袋は、医療現場だけでなく、ホテルやレストラン、美容サービス、食品工場など、あらゆる業界で使用されています。これは「すべての“触れる”瞬間を守りたい」という当社のビジョンとも一致しています。


STGTの製品(写真:STGT提供)
ジャリンヤーCEO:当社はラテックス製手袋の生産に力を入れています。近年、多くのメーカーがニトリル製手袋にシフトする中、当社では全体の70%がラテックス製、残り30%がニトリル製です。これは、われわれの親会社であるスリトラン・アグロインダストリー(STA)が世界有数の天然ゴム加工メーカーであるためです。
また、当社はバイオマス燃料を導入するなど、20~30年前からESG(環境・社会・ガバナンス)活動にも取り組んでおり、ラテックス製手袋はニトリル製手袋に比べ、二酸化炭素(CO2)排出量が少ない点も強みです。環境負荷の少ないラテックス製手袋は、欧米を中心とした市場で評価されています。販売比率はタイ国内が10%、残りの90%が輸出で、輸出先はアジアが35%、米国・欧州・中南米がそれぞれ18~20%となっています。
ジャリンヤーCEO:2021年のコロナ特需を除いても、世界のゴム手袋市場は2019年から2024年にかけて年平均約8%成長しています。マレーシアゴム手袋生産者協会(MARGMA)のデータによると、2019年の世界需要は約3,000億枚だったのに対して、2024年は約3,400億枚、さらに2025年は3,500億枚に達すると予測※されています。
近年、新興国では医療インフラへの投資が進んでおり、医療需要が伸びています。タイ国内では、医療分野とHORECA(ホテル、レストラン、カフェ・ケータリングを掛け合わせた造語で、飲食サービスや宿泊を提供するホスピタリティ産業)分野の需要が伸びています。欧州では、医療、高齢者ケア、小売など幅広い分野で需要が増加しています。
※インタビュー時点(2025年7月)
ジャリンヤーCEO:コロナ禍で多くの新規プレイヤーがゴム手袋製造に参入したことで、供給過多に陥り、価格競争力に優位性を持つ中国企業の攻勢により、価格競争が激化しました。さらに最近は、世界情勢や地政学リスクなど、サプライチェーンを取り巻く環境変化による影響が顕在化しています。
ジャリンヤーCEO:現在、175ヵ国へゴム手袋を輸出しています。また、中国、米国、ベトナム、フィリピン、インドネシアなど、世界各地に物流センターを構え、グローバルな供給体制を整えています。

ジャリンヤーCEO:創業から20年間は緩やかな成長でしたが、2017年以降、生産能力の拡大により年間生産量は150億枚から510億枚まで飛躍的に伸びました。
当社は世界各国で開催される医療機器展示会に参加しているほか、顧客との信頼関係の構築やニーズを把握するために定期的に顧客と面談も行っています。さらに米国、欧州、アジアにそれぞれグローバルマーケティングチームを配置し、タイ本社からも四半期ごとに現地訪問するなど、グローバルのサポート体制を築いています。
世界的な高齢化社会の広がりや健康意識の高まりにより、ゴム手袋の需要は今後もさらに増加すると見込んでいます。欧米諸国では1人当たりのゴム手袋の年間使用量は数百枚に上ります。一方で新興国では1〜2桁台と大きな差があり、今後も大きな伸びしろがあると考えています。
ジャリンヤーCEO:価格競争が激化しており、現在は生産効率や低コスト化、品質改善に向けた研究開発に力を入れています。
それと同時に長期目標としては、天然ゴムや合成ゴムに代わる新素材の研究を進めています。天然ゴムは季節による価格変動が大きく、さらに農家がより収益性の高い作物に転換するなど、原料の供給減少リスクもあります。一方、合成ゴムは石油精製品の副産物です。われわれにとって、新素材を開発することが次の重要なステップになると考えています。
ジャリンヤーCEO:当社の売上の約7%が日本への輸出です。日本の顧客は慎重で、仕様変更があれば、すべての工程を丁寧に検証します。品質基準も非常に高く、日本の基準を満たすことができれば、世界中に輸出できる品質が担保されるため、われわれの品質向上に対する原動力となっています。日本企業との信頼構築には時間がかかりますが、一度信頼関係を築くことができれば、長期的で安定した関係を維持することができます。
ジャリンヤー・ジロークン 氏(Ms. Jarinya Jirojkul)
Chief Executive Officer
Sri Trang Gloves(Thailand)PCL
2019年にSTGTのCEOに就任。複数のグループ企業の取締役も兼務し、同社のグローバル展開を主導している。キングモンクット工科大学トンブリ校(KMUTT)食品工学修士号取得。プリンス・オブ・ソンクラー大学農学部学士号取得。

THAIBIZ編集部
サラーウット・インタナサック / 岡部真由美

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