カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2017.12.19
EV(電気自動車)に関しては、電子マネーの現状もそうですが、日本やタイよりも中国のほうがよりスピード感を感じることができるでしょう。それは、ガソリンスタンドに代わる電気スタンドなどのインフラコストが安いからという理由もありますが、環境負荷も軽く、こうした破壊的なイノベーションが既存の自動車産業の競争のルールを変えてしまうことへの抵抗感が日本と比べると小さいということとも関係があると思います。中国を含めたアジア新興国にとっては、EVで得られるメリットは日本よりも大きくなるでしょう。
自動車のEV化によって、モノづくりの現場にも変化が起こると思います。EVは特にエンジン関連の部品点数が大幅に減少し、モノづくりのアーキテクトが今までのすり合わせ型からモジュール型になっていくかもしれません。日本が得意とするすり合わせ型からレゴブロックのようにインターフェースが規格化されたモジュール型になってくると、日本型のモノづくりの競争力を維持することは容易ではありません。
モジュール型のモノづくりのアーキテクチャーでは、ある意味、家電・電子産業と同じように、スマイルカーブの底の部分は世界最適調達でということになってくるでしょう。次は、水素自動車であるという意見もありますが、いずれにしても、ディスラプティブな変化に逆らうことは難しいと思いますので、日本企業としては、ムーアの法則に従わない部分はどこかであるかを理解し、そこへ資源配分を集中していくことも考える必要がでてくるでしょう。
いかなる産業においても、今後ますますIoT(Internet of Things)の波が押し寄せてきます。製品のみならず、チャネル自体がデジタル化することによって、産業の境界が崩れていきます。これをIndustry Convergenceと呼びますが、デジタル化の渦(digitalvortex)に巻き込まれることで、今ある事業がある日突然、業界ごと消滅するということが起こってきます。現在の取り扱い商品やサービスにとらわれることなく、技術ベースで既存の産業の枠組みにとらわれない事業構想をしていかなくてはなりません。
日本では専門家以外は十分な議論が行われているように思いませんが、IoTを考える上で重要な分野にセキュリティがあげられます。これは、グロービスの堀義人さんに招待していただいた東京での高密度な会議の中で世界の情報セキュリティの第一人者に教えてもらったことなのですが、たとえば、今まではテロ対策のABC(アトミック、バイオ、ケミカル)は、目に見える対象があり、ある程度の資本力・組織力が必要でした。
しかし、IoTが急速に進展すると、ネットワークの向こう側に相手がおり、一度構築されたシステムは不特定多数がほぼフリーで、遠隔操作で攻撃を仕掛けることが可能となります。すなわち、ネットワーク上の物質的に離れた距離にいる相手(見えない相手)を対象にしなくてはなりません。つまり、先ほどのABCに加えて、D(デジタル)を加えた対策が求められるのです。また、見えないデジタルの世界では、テロ攻撃の線引きも困難です。ミサイルですと飛んで来たら攻撃ですが、デジタルだとどこからが攻撃なのか線引きが難しくなります。
様々なものとつながるということは、境界が不明瞭になるということです。これに対してどのように対応していくのか、今まで想定していたルールでは追いつきません。グレーゾーンへの対応を早急にすることが今まで以上に大切になり、決定的な差を生みます。どこにグレーゾーンが発生するのかを見極め、高い視点から物事を俯瞰して考える能力が求められるでしょう。世界的にセキュリティが理解できる経営者や専門家が求められていますが、日本もアセアンも圧倒的に、この分野の人材が足りていません。
今までメーカーは安全第一の姿勢でしたが今後はセキュリティも同様に考えなければならない時代になりました。前例がないことですので、試行錯誤しながら、現実にもまれていかなければなりません。ここまでお話した、経営哲学、情報化、セキュリティ、そして新興国のビジネスは関係ないかと思われる方も多いと思いますが、私にとっては、経営者にとって、どれも等しく重要であると思います。タイで事業をされている方なら理解をされると思いますが、タイを含めた新興アジア諸国の胎動をいくら本国にいる役員に説明しても上手く伝わらないと思います。
たとえば、サファリランドにいるシマウマにこれまで守ってくれた檻が壊れて、ライオンが来るから逃げて、と言ってもなかなか理解されないでしょう。実際にライオンと対面してようやく事の重大さを理解することができます。ずっとサファリランドで生きていけるなら話は別ですが、こうした場所は着実に少なくなってきています。ライオンが目を覚ます前に起きて、一歩でも早く走り続けるということが生き残るためには必要なのです。生き続けるとは変わり続けるということなのです。
これまでの日本企業は「モノづくり」に対して非常に力がありました。正しいモノの作り方の正解が日本側にあったので、マニュアル通りに日本人がタイ人を指導して日本と同じ品質を維持することが顧客の価値創造につながるという時代でした。しかし、周知のように現在、顧客起点の発想の重要性が説かれ、新興国市場や社会において満たされていないニーズへの「価値提案」から戦略を考えることが大切です。
デジタル化によって、既存の価格を大幅に引き下げる価格価値、新たな体験をもたらす経験価値、オープンなつながりを創出するネットワーク価値が大きく変容し、競争のルールを変えつつあります。デジタル化の渦に企業が巻き込まれることで、今後5年間に各業界上位10社のうち4社が淘汰されるという研究が注目を集めたばかりです。また、新興国における事業展開には、日本のビジネス慣習にはない全く別のスキルが求められることがあります。
競争の次元が変化していくと、組織体制、予算管理、日本の本社と海外の子会社の関係を含めたガバナンスのあり方など戦略の変化に合わせて組織構造とオペレーションの整合性を図らなくてはなりません。戦略と組織構造の歪みの是正は、日系企業が抱える大きな課題の一つといえます。
THAIBIZ編集部
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