公開日 2022.10.04
東京都中小企業振興公社は9月23日、東京への投資需要喚起を目的に東京に進出したいタイ企業を対象に「東京・タイビジネスパートナーシップセミナー」をオンライン・オフラインのハイブリッド方式で開催した。同時に個別相談会も実施し、タイと日本の投資関係の構築に役立つさまざまな情報を提供した。
セミナーではまず、東京都中手企業振興公社の総合支援部・海外人材支援担当課長の木村正幸氏(前タイ事務所長)のあいさつの後、パート1として東京への進出を希望する外資系企業のビジネスから生活までをサポートするBusiness Develop Center Tokyo(BDCT)の本田徹氏が「東京のビジネス環境と産業トレンド」と題して講演した。本田氏の講演は第1部「世界をリードする巨大経済圏、東京」、第2部「日本で活躍するアジア企業」、第3部「東京の快適なビジネス環境」の3部構成。
第1部では外国企業にとっての日本のビジネス環境面に注目し、日本でビジネス展開する上での阻害要因の1位が「ビジネスコストが高い」、続いて「人材確保の難しさ」が2位となっていると報告。一方で、外国企業が日本で事業展開する上での魅力の1位は「所得水準が高く、製品・サービスの顧客ボリュームが大きい」。2位は「交通、エネルギー、情報通信等のビジネスインフラが充実している」、3位が「製品・サービスの付加価値や流行に敏感で、新製品・新サービスに対する競争力が検証できる」点で、品質に厳しい日本の消費者に受け入れられると他の国でも成功しやすいと言われていると説明した。その上で、これまでの東京都による支援を通じた外国企業の立地実績についてモノのインターネット(IoT)や人工知能(AI)、ビッグデータを活用した技術革新を行う外国企業の誘致実績は5年間で約50社、このうち、約4割がアジア企業となっているのが特徴的だと指摘した。
本田氏は第2部で、「既に30社以上のタイ企業が日本で活躍している」として、具体的事例も報告。また、タイなどアジアの企業の日本進出以外にも、日本企業によるアジアDX企業等との連携が増加していると述べた。さらに3部では、通常BDCTと呼ばれている「ビジネスコンシェルジュ東京」のサポート内容を重点的に説明したほか、「東京開業ワンストップセンター」「パートナーシップ支援プログラム」「スタートアップ・エコシステム東京コンソーシアム」「外国人創業人材受入促進プログラム」などの支援プログラムを紹介した。
コーヒーブレイクを挟んだ第2部では、メディエーターのガンタトーン・ワンナワス社長がタイの農業・食品大手チャロン・ポカパン・フーズ(CPF)傘下のCPマーチャンダイジングのパイシン・ウォラウィスティクル副社長に質問する形での討論会が行われた。主な一問一答は以下の通り。
ガンタトーン氏:これまでの経歴は。
パイシン氏:タイの大学卒業後、日本の大学院を卒業した。タイに帰国してCPFに入社して27年目になる。CPFではこれまでずっと日本を担当しており、現在は日本向けビジネスを統括している。日本とビジネスをする上での大きな障壁は日本語と日本文化だ。仮に日本語ができても日本文化が分からないと難しい。自分はCPF入社して4年目に、4年間日本に駐在したことが幸運だった。
ガンタトーン氏:言語と文化の問題をより具体的に説明してほしい。
パイシン氏:タイに進出している日本のメーカーはなかなか英語ができず、商社の人間しか英語ができない。だから、ユーザーまで直接入ろうとしたら日本語が大事だ。文化面では日本人は否定しない、断らない。遠慮して、われわれが商品を提案すると、気に入らないとは言わず、検討しますと答える。しかし、受注にいたらないこともある。本当に興味を持ってもらえているかの判断は日本企業から積極的に提案、要求してくるかどうかだ。
ガンタトーン氏:これまで日本とのビジネス経験で得られたことは。
パイシン氏:日本人は保守的で、2年間お酒に付き合ってようやく取引ができるなど長い時間がかかる。信頼されてからビジネスが来る。CPFは欧州、日本、香港、シンガポール、韓国など全世界に輸出しているが、一番重点を置いているのが日本市場だ。どうやって日本人の心を捕まえるか。まず相手の利益が出るようにする。最初から自社の利益を取ろうとしたらだめだ。嘘をつかず、誠実に対応する。日本人は嘘はすぐ分かる。
ガンタトーン氏:CPFが日本で販売している商品は。
パイシン氏:日本で販売している商品はチキン、豚肉、エビ、加工食品などで、現在は植物由来肉の販売の準備をしている。
日本のセブンイレブンの店舗数は今、2万1000店以上とコンビニエンスストアでは最も多い。セブンイレブンではチキンのホットスナックを売っている。チキンサンドなどのチルド商品でもパンとか卵は違う業者のものだが、われわれのチキンが使われている。酒のつまみやのり巻きチキンなどの冷凍食品もある。
1万6000店舗以上ある2位のコンビニであるファミリーマートでも販売しており、スパイシーチキン、鶏のから揚げなどで使われている。2000店舗ぐらいあるミニストップにも納入しており、バジルチキンに使われている。
このほか、「すきや」や「サイゼリア」「ドトール」などの飲食チェーンに納入している。生活協同組合の「COOP(日本生活協同組合連合会)」の店舗販売品や宅配商品、「コストコ」でもチキンなどが使われている。「OKストア」ではガパオなどタイ料理の弁当の具材としてチキンが使われている。チキンガパオは毎月1コンテナ(10トン)納入。日本でもタイ料理が大きく成長する可能性がある。今、チキングリーンカレーやチキンライスも開発中だ。
ガンタトーン氏:日本の高齢化についてはどう思うか。
パイシン氏:日本の経済は良くない。高齢者が多く、労働人口が不足している。このため、タイや中国、ベトナムなど海外から労働者を入れる。ただタイの人件費も高くなっているので、CPFでは人の代わりに機械を導入している。新型コロナウイルス流行の収束に伴い、労働市場にも変化が出てきている。われわれの工場ではSKU(Stock keeping Unit=在庫管理単位)を極力絞ることにしている。生産能力を把握した上で、どの販路・マーケットにするかを決める。
ガンタトーン氏:なぜ東京に拠点を置いたのか。
パイシン氏:CPFでは東京支社がある。顧客と密接にコンタクトできるのが強みだ。日本の顧客とは常に情報交換をしなければいけない。例えば2か月後に材料の価格が高くなる場合にはまずオーダーしてもらう必要がある。競争相手もいるのでトレンドなどの情報を提供する。顧客が生き残り、われわれも生き残るための情報交換が重要だ。
TJRI編集部
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