タイの物流が変わる 〜 トヨタが提唱する次世代のスマート倉庫

THAIBIZ No.168 2025年12月発行

THAIBIZ No.168 2025年12月発行タイ発、世界を動かすダイキンの人と技術

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タイの物流が変わる 〜 トヨタが提唱する次世代のスマート倉庫

公開日 2025.12.09 Sponsored

タイの製造・流通業界では今、物流の転換を迫られている。人口減少による人材不足やEコマース拡大に伴う業務の多品種少量化、保管スペースの効率化など、課題は複雑化している。

こうした背景の中、豊田自動織機の産業車両・物流ソリューション事業をグローバルに展開するトヨタマテリアルハンドリンググループは今年10月9日、タイにトヨタ初となる自動倉庫ショールーム「T-Innovation Center」を開設した。マニュアル機器から完全自動化システムまで構内物流プロセス全体を体験できるタイ唯一の統合型イノベーション拠点だ。

トヨタマテリアルハンドリング(タイランド)のマネージングディレクター松本滋氏に、同社の事業戦略や物流の未来展望を聞いた。

T-Innovation Centerオープニングセレモニー

日系企業が陥る倉庫の見えない課題

◎松本 滋 氏
Toyota Material Handling (Thailand) Co., Ltd.
Managing Director

2002年に豊田自動織機へ入社以来、一貫して物流機器部門に携わる。米国・中国・タイで各5年の駐在経験を持ち、各地域のマテリアルハンドリング機器特性に精通。2020年よりタイ子会社のマネージングディレクターとして、アセアン地域におけるトヨタグループの物流ソリューション展開を牽引している。

「タイに進出している日系企業の多くは、日本式の物流オペレーションをそのまま持ち込んでいる。しかし、タイと日本では倉庫の使い方が根本的に異なる。日本式のままだと、天井までの上部空間が無駄になっているケースが多く見られる」と松本氏は指摘する。

これは、一見すると気づきにくい問題だ。日本では地震対策の観点から、ラックの高さに制限がある。一方、タイではより高いラックやフォークリフトを活用した、空間を最大限に活かす物流設計が可能だ。

「フォークリフト企業」から脱却

豊田自動織機は、フォークリフトで世界シェア首位を占める企業だ。しかし、同社が近年力を入れているのは、倉庫の自動化システムなど、物流のトータルソリューション事業である。

背景にあるのは、顧客ニーズの変化だ。「かつてのようにフォークリフトさえあれば物流課題が解決できるという時代は終わった」と松本氏は語る。小型商品のピッキングや多品種少量化、人手不足、保管スペースの最適化など複雑化する課題に対しては、複数の機器とシステムを組み合わせた総合的なアプローチが必要になってきた。

同社はこうしたニーズの変化を先読みし、米国のバスティアンなど複数の物流ソリューション企業の買収を通じ、フォークリフトから自動化システムまで一気通貫で提案できる体制を日本や欧米で整えてきた。その統合力を東南アジアでも発揮するための統括拠点としての役割を、トヨタマテリアルハンドリング(タイランド)が担っている。

なぜ、今タイなのか

東南アジア諸国の中で、なぜタイに自動倉庫ショールームをオープンしたのか。松本氏はまず、「タイには日系製造業が集積しており、既存の販売ネットワークも強固で、需要が見込まれる」とした上で、「タイは東南アジアで唯一、人口減少が始まっている国だ。日本と同様、人手不足がこれから深刻化する。同時に、購買力のある中間層が厚く、Eコマース需要の拡大が続いており、自動化のニーズは今後さらに高まるだろう」と市場の成長性を見込む。

そして、立地的な優位性だ。東南アジアの中心に位置するタイを物流イノベーションの「パイロット拠点」として位置づけ、隣国への展開モデルを生み出すことも狙いだ。 

T-Innovation Centerの開設は、トヨタマテリアルハンドリング(タイランド)、豊田通商フォークリフト(タイランド)、トヨタマテリアルハンドリングウェアハウスソリューションズ(タイランド)の3社の既存のネットワークと、グループの知見を結集させたものといえる。

T-Innovation Centerの外観

顧客ごとに異なる柔軟な倉庫設計

トヨタマテリアルハンドリンググループの大きな特徴は、マニュアル機器と自動化システムを柔軟に組み合わせる「ハイブリッド提案」だ。

「100%自動化することが、必ずしも最善とは限らない」と松本氏は強調する。「事業内容や市場が変わると、システムが機能しなくなるリスクもある。だからこそ、たとえば30%をマニュアル、70%を自動化にするなど、われわれは将来の環境変化やリスクに備え、マニュアル部分を残すことでシステム全体に可変性と対応力を持たせる提案を行うことを重視し、顧客ごとにカスタマイズされた柔軟な設計で構内物流全体を最適化する総合力で差別化を図っている」と説明する。

こうした考え方は、トヨタグループが掲げる「モビリティカンパニー」の理念にも通じる。トヨタが着目する「ヒト・モノ・情報・エネルギー」の移動の中で、トヨタマテリアルハンドリンググループは「モノ」のモビリティ領域を担っている。「マニュアルであれ、自動化であれ、モノを効率的に動かすことがわれわれの役目だ」と同氏は語る。

利益を生み出す「空間の有効活用」

物流改善が企業の競争力に直結する理由について、松本氏はこう語る。

「保管スペースは本業のスペースを奪ってしまう。製造業では倉庫を縮小し、空いた場所を生産エリアに転用することで利益を生む構造に変えられる。一方で、倉庫業のように“保管そのもの”を事業とする業種では、空間を最大限活用することが収益に直結する。目的によって空間の意味は異なるが、どちらにおいても空間を“稼ぐ資産”に変えることが鍵となる」

こうした提案は、複数の欧米の物流ソリューション企業を傘下に抱え、それぞれの特性を熟知しているからこそ可能になるものだ。日本式の物流オペレーションにとらわれず、グローバルな視点で空間を活用することが、今後タイで求められる新しい物流の形となるだろう。

タイの競争力を高めるために

松本氏は最後に「日本式のやり方だけでは海外では通用しなくなってきている。人手不足、スペースの課題など、どんな課題でもわれわれは構内物流のプロとしてソリューションを提案できる。ぜひT-Innovation Centerを訪れ、新しいアイデアを探っていただきたい。物流のトータルソリューションパートナーとして、倉庫の課題を解決し、タイのお客様の競争力向上に寄与していきたい」と意欲を見せた。

THAIBIZ編集部
岡部真由美

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THAIBIZ No.168 2025年12月発行タイ発、世界を動かすダイキンの人と技術

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