
公開日 2026.03.10 Sponsored
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今回NEDOが行った追跡調査では、1999〜2005年にタイで実施されたNEDOプロジェクト「工業団地産業廃棄物有効利用設備モデル事業(以下、廃棄物モデル事業)」についてもヒアリング調査が実施された。工業団地で発生する産業廃棄物を燃焼し、その燃焼ガスのから水蒸気を回収、工業団地のプロセス蒸気として活用する技術を実証したプロジェクトだ。
実証事業の終了から20年。技術は大きく進化を遂げ、現在この設備を持つBangpoo Environmental Complex Co., Ltd. (以下、BPEC)は、有害廃棄物の焼却処理も可能な工場として国内トップクラスの評価を得ている。本稿では、BPECの統括会社であるWaste Management Siam Ltd.(以下、WMS)岡田美洋社長へのヒアリング調査結果を紹介する。

廃棄物モデル事業は、NEDOとタイ工業団地公社(IEAT)との間で締結されたMOUのもと、日本鋼管株式会社(現・JFEホールディングス)をプロジェクトの主幹実施者として推進された(図表2)。

同実証事業では、実証当時、産業廃棄物の排出量の増加が見込まれていたタイにおいて、産業廃棄物からのエネルギー回収を目的に、IEATが保有するサムットプラカーン県のバンプー工業団地に、廃棄物を燃焼し、蒸気にて熱回収する「流動床炉」が建設された。
流動床炉とは、砂などの粒状物に空気を吹き込み、沸騰した液体のように流動化させた状態の中で、廃棄物を燃焼・処理する炉のことを指す。低温燃焼が可能であるため、大気汚染物質である窒素酸化物(NOx)が発生しにくく、低エネルギーで操業できる特長を備えている。

同実証事業で開発した流動床炉の稼働に先立ち、IEATが導入先を募ったところ、名乗りを上げた企業の一つがWMSだった。
岡田社長はヒアリング調査の中で、「周辺に衛生管理への要求が極めて高い食品工場が集積する立地であったことに加え、蒸気供給や廃棄物回収をすべて自社で担う必要があったため、多くの企業は導入に慎重だった」と当時を振り返った。
こうした厳しい運用条件にもかかわらず、最終的にIEATとWMSがコンセッション契約を交わし、2006年にこのプロジェクトの受け皿としてBPECを設立した。なお、2009年にDOWAエコシステム株式会社(以下、DOWA社)がWMSを買収したことにより、現在BPECはDOWA社の傘下にある。
岡田社長は、「BPEC創業当初は非有害廃棄物のみを対象としていたが、設備改良や各種認可の取得を重ね、現在ではより難易度の高い有害廃棄物の処理にも対応できるようになった。有害廃棄物対応の焼却炉としては、タイ国内でもトップクラスだ」と自信をのぞかせた。ヒアリング調査当日には、WMSのロゴが入ったトラックがバンプー工業団地内で回収された廃棄物を搬入する様子も確認できた。

現在、BPECの事業は、①非有害・有害廃棄物の焼却、②焼却熱を活用した蒸気販売および発電、③車載用バッテリーのリサイクル、④フロン類の破壊処理(GHG)─の4事業へと広がっている。
岡田社長は「廃棄物を燃焼させて発生した蒸気は、工業団地内の工場でエネルギーとして利用されており、実証事業を通じて技術を確立し、現在も安定的に運用している。また、余剰蒸気は発電設備を通じて電力に変換し、タイ首都圏配電公社(MEA)に販売している」と説明した。
廃棄物モデル事業を通じて、適正な廃棄物管理に関する知識とノウハウを蓄積したことで、廃棄物を再生エネルギーとして有効活用できる体制が構築されたという。
とりわけ流動床炉の排ガス処理設備活用により、2019年からは車載用バッテリーの中間処理が可能となり、無害化を経てリサイクルへとつなげる取り組みは、タイ国内でも希少な事例といえる。
さらに2023年には、税関にて保管されていたフロン類を百数十トン規模で処理した実績を有し、エアバッグや医療廃棄物といった特殊廃棄物にも対応している。現在では、一日当たり約200トンの廃棄物を処理するまでに事業規模を拡大した。
非有害廃棄物の焼却に限定されていた事業が、有害廃棄物処理や発電、リサイクルへと発展したことは、同実証事業の大きな成果であり、技術と知見がもたらした波及効果を象徴している。
岡田社長は「適切なメンテナンスを施せば、流動床炉は今後さらに20年にわたり活用できる」との見通しを示し、今後一層の厳格化が見込まれる廃棄物規制や取り締まり強化を、むしろ事業機会と捉えている。規制強化によって、これまで不法投棄されてきた「見えないごみ」が顕在化し、正規の処理に対する需要が拡大する可能性が高いからだ。
BPECはこうした環境変化を見据え、有害廃棄物処理分野のトップランナーとして、持続可能な事業運営を継続していく方針だという。
廃棄物モデル事業は、単なる技術実証にとどまらず、タイにおける適正な廃棄物管理の基盤づくりと、民間事業として自立的に成長する道筋を示した。流動床炉を適正にかつ長期的に連続して運用する日本の技術は、焼却処理に加え、蒸気供給や発電、リサイクルへと用途を広げ、環境負荷低減と事業性を両立するモデルへと進化している。
規制強化が進む中、こうした先行事例は、タイ社会の持続可能性を支える重要なインフラとして、今後さらに存在感を高めていくだろう。

THAIBIZ編集部
白井恵里子

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