カテゴリー: 会計・法務
公開日 2016.01.19
クラスター形成による経済発展を重要視するタイ政府は、2015年9月、クラスター型特別経済開発区政策、通称「クラスター政策」を発効した。クラスターとは、関連する事業や機関が集中的に立地し、縦横・相互に協力、支援、連携するものを指し、タイ政府は強固なバリューチェーンの構築、タイへの投資可能性の向上ならびに経済発展の地方分散化を図るとしている。
このクラスター政策では、有望な対象産業の生産拠点地域を格上げし、高度技術を使用する次世代産業の受け入れが図られる。クラスター地域におけるさまざまなセクター(川上・川中・川下産業、裾野産業、教育機関、研究機関、政府機関、民間機関など)を結び付けるほか、人材開発や技術開発、インフラ・物流システム開発における税制上の恩典ならびに税制以外の恩典の付与、資金面のサポート、障害となる規制の緩和など(図表8)、各政府機関による総合的なサポートも行う。
主要恩典は、8年間の法人税免除+5年間の法人税減免(50%)、機械の輸入関税免除など。さらに、重要度の高い産業には最長10〜15年の法人税免除が財務省で検討されている。タイはこれらの政策が産業クラスターを強化し、国際的な競争力をつけることができるとし、クラスター地域には、そのほかの地域における投資よりも優位な恩典を与えている。
タイ政府のクラスター政策では「スーパークラスター」と「その他の対象クラスター」、「クラスター支援事業」の3種類を打ち出している。スーパークラスターは、高度技術を使用する産業や次世代産業のためのクラスターで、①自動車・自動車部品クラスター、②電気・電子機器および電気通信機器クラスター、③環境にやさしい石油化学および化学品クラスター、④デジタルクラスター、⑤フードイノポリス(Food Innopolis)、⑥メディカルハブ(Medical Hub )などがある(フードイノポリスとメディカルハブの恩典に関しては今後公表される予定)。その他の対象クラスターは、①農産品加工クラスター、②
繊維・アパレルクラスターなどを指す。
クラスター恩典申請のための必須条件には、クラスターに立地する教育・研究・政府機関や、教育機関の先端技術などを研究するセンター(研究所)である中核的研究拠点(Center of Excellence :CoE )と、人材開発または技術向上のための協力があることが挙げられている。
例えば、政府機関の優秀な研究者を民間企業に派遣し、民間企業の研究に協力してもらうプロジェクト「タレント・モビリティ」や、科学技術省のプロジェクトである民間企業と教育機関をマッチングさせ、学生に有用なインターンシップを紹介する「職業統合学習」、大学レベルの学生を民間に派遣し、有用なインターンシップを行う「産学協同教育」、職業訓練の学生を民間企業に派遣し、有用なインターンシップを行う「Thawiphaki 」、また、BOI事務局が同意する人材開発または技術開発のための協力―などが求められる。
速やかに投資が行われるよう、2016年中に奨励申請書を提出、17年中に操業を開始することが申請条件。
ただし、大規模事業の場合など、必要に応じて、投資委員会事務局は操業開始期限の延長を適宜検討するとしている。
クラスター支援事業とは、スーパークラスター、その他の対象クラスター内に立地し、各クラスターで規定された分野を支援する事業で、対象業種は投資奨励業種リストの7類に分類される業種がメインとなり、ロジスティクス事業や研究開発、バイオテクノロジー、職業訓練学校などが該当。主要恩典としては、通常の投資奨励恩典の法人税免税期間終了後、投資から得られた純利益に対してその後5年間、法人所得税が50%減免となる。
2015年11月、「投資加速策」として新たに3つの奨励政策が閣議決定された。
第1に投資の早期実施を促すため、14年1月〜16年6月末までに投資申請を行い、17年末までに売上を計上した事業に対して次の恩典が与えられる。①16年6月末までに投資金額の70%以上を投資した場合、4年間の法人税免除+5年間の法人税減免(50%)、②同時期までに投資金額の50%以上を投資した場合、3年間の法人税免除+5年間の法人税減免(50%)、③16年12月末までに投資金額の50%以上を投資した場合、2年間の法人税免除+5年間の法人税減免(50%)、④16年12月末までに投資金額の50%未満の投資しかできなかった場合、SEZ内に立地で2年間、SEZ以外で1年間の法人税免税恩典を追加する。①〜④に共通して、投資金額は土地と運転資金を除き、また、すでに得ている法人税免税期間との合計が8年を超えないことという条件がある。なお、15年12月15日にBOIから布告が出され、施行済みだ。
第2には経済成長を引き上げるため、新たな成長エンジンを創出する。対象となるのは、持続的成長のための既存産業の強化5業種(次世代自動車、スマートエレクトロニクス、富裕層向け医療・福祉ツーリズム、農工業・バイオ技術、先進食品加工)と、さらなる発展のための未来産業の創出5業種(産業用ロボット、航空・物流、バイオ燃料・化学、デジタル、医療ハブ)の、計10業種。
恩典については10〜15年の法人税免除や、研究員などに対する個人所得税の免除など、BOIや財務省などが業種の優遇措置を検討している。また、一部の業種はスーパークラスターに追加される予定だ。
そして第3に、ハイテク産業支援のための基金を100億バーツ規模で設立する。
支援対象業種や条件、詳細は今後策定予定だが、補助金、投資の借入金利の補給などの支援が検討されているという。
次々と奨励政策が打ち出された2015年に続き、16年はクラスター政策や閣議決定された策のより具体的な運用、内容などが発表されることが予想されている。
ジェトロ・バンコク事務所
長谷場 純一郎
【監修・情報提供】
Investment Cooperation Dept.Director
1st Fl. of Nantawan Bldg., 161
Rajadamri Road, Bangkok 10330
TEL:02-651-8650
http://www.jetro.go.jp/jetro/overseas/th_bangkok
当記事は2015年12月時での内容となります。詳細はタイ投資委員会(BOI)のウェブサイト( http://www.boi.go.th )
をご参照いただくか、BOI問い合わせ窓口(Tel :02-553-8111/E-mail:[email protected])
までお問い合わせください。
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