カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2016.12.22
音楽でも凄腕のプロデューサーがいると、その楽曲やグループ、シンガーがヒットするように、私は日系企業にもビジネスをプロデュースし、自社で提供できるソリューションを生み出せる人材が必要なのではないかと考えています。
時間や費用はかかっても、ただ闇雲に人と会って人脈を広げるのではなく、「この人とあの会社」、「この技術とあの技術」というように、組み合わせた先にあるビジネス が見える人材を育成するべきではないかと思います。
この人材育成はコストと見るのではなく、ビジネスを進めるための投資、戦略のひとつとして捉えるべきです。もちろん、コストを考えることは大切なことですが、日本企業はコストという概念に囚われ過ぎているように感じます。人づくりには長期的なコミットメントと投資、ビジョンが求められます。「日本企業、日本人」としてのフィロソフィーと言いますか、根幹的な、基軸となる価値観をしっかりと時間をかけて作っていくことが大事です。経済的なルールに則ってきた北米に対し、経済的なルールだけでない価値観を見出して成長してきた日本企業が日本人としての価値観を無くしてしまって、果たして高度化に不可欠な価値づくりができるでしょうか。
本社の基軸だけでなく、もうひとつの個人としての基軸を持つことがその人の価値や魅力、人間力になっていきます。基軸を持つことで部下を動かし、人の上に立つ者としての資質を養うことが。また、企業や個人としての価値をはっきりと持つことでパートナー企業や個人と価値を共有することができます。
基軸や価値といった核となるものがない企業や人に誰も付いてきてはくれません。これも国に対して同じことが言えると思います。
日本企業は今、「To be profitable(利益追従型)」を目的とする企業やビジネスマンが増えていると思います。利益を上げることは企業として重要なことですが、それだけでは人は付いてきません。コンプライアンスというキーワードが注目されていますが、日本では労働問題に関するニュースがあったばかりです。
企業が利益を重視するばかりに法律に触れることまで行う、働く側も法律に違反していることに気付かない、または、気付いていても指摘できる環境がなかった、などの問題が浮き彫りになってきています。不法行為は黙認されるべきではありませんし、法律に違反しなければ良いという問題でもありません。
ただ、コンプライアンスを遵守(To obey)すればそれで良いかというと、やはり法には触れなくても倫理的にどうなのか(To be ethical)までしっかりと考え抜くことができるかが重要になります。その判断材料になるのは、自分がどう在りたいか(To be good)、何のために企業は存在するのか、という答えのない問いに向き合うことです。
このTo be goodには、それぞれの美徳があっていいと思います。ただ、日本人はトップマネジメントになってようやくこうした哲学的な問いについて意識し始めます。忙しいからそこまで考えられないという人がいるかもしれませんが、忙しいとは「心が亡くなる」と書きますから、結局はそこに問題があるのだと思います。
企業内なり、教育の中にでも問いに向き合う場は設けるべきであって、そこが欠けていると「日本」という魅力が薄れていく原因になります。モノが良い、技術が優れているというだけでなく、自分たちの本質を見つめ直すことが重要であり、「Learning by doing」といって、実務経験を積んで仕事を黙々とすることは本当の意味でのLearningにはなっていないのです。Learningとは「Reflection」、つまり自らを省みることで初めて成立するものです。
タイにもタイの、タイ人としての魅力や美徳を省みる時期が来ているのではないでしょうか。欧米諸国では小さい時から哲学に触れ、答えのない問題に答えを定義して考えていくという学習が行われています。日本の教育はマル・バツがある問題をこなしていくだけで、それでは記憶力は付いても「考える」という術は身に付きません。これが学習と教育の違いです。企業でもモノづくりにはマニュアルという正解があり、それを持って海外に進出し、合っている、間違っているというやり方で成功してきました。
しかしこれからは、正しいか間違っているか、賛成か反対か、良いか悪いかといった問いの立て方を改めるべきです。正解は無数にあり、文脈によって解は異なるもので、常に移ろい続けるものであるということを理解したうえで矛盾を一掃しようとしないことが重要です。心の発達に関する研究によると、二者択一思考は青少年の発達初期段階に形成されるそうです。
もうひとつ、100という財務的成果があるとして、この100という数字の裏側にある価値に対して、どのような意味づけをしていくことができるかも大切だと思います。
私は広島県出身なのですが、先日引退された広島カープの黒田投手はメジャーリーグから日本に戻る際に「これからそう長くはない野球人生の中で、投げられる球数は限られているということ考えた時に、このままメジャーで投げる1球とカープで投げる1球とでは重みが違う」と言われていました。球数という数字だけ見れば同じ1球ですが、その裏側にある彼の意味づけの在り方に人々は感動し、新たなストーリーを生み出していくのです。受験勉強とは異なり、経営の本質は組織を通じて価値を生み出すことであり、基本的にはチームを通じて成果を挙げます。ですからビジネススクールでは個人の成績のみならず、グループワークにおけるパフォーマンスが重視されるのです。
企業経営においても財務的な指標は非常にパワフルなツールであることは間違いありませんが、数値化のプロセスで何が失われてしまうのか、指標化の限界を知っておかなくてはなりません。事実とデータは異なります。データは数値化しやすいものを集めたものであり、事実の一部に過ぎないということを理解すべきでしょう。
ただ、現実のビジネスの場では、やはりコストという大きなレトリックが力を発揮します。こうした場で、コストという数値以上の何かを相手に伝えていかなくてはなりません。大型プロジェクトにおいては日本企業がひとつのパッケージ、「チーム・ジャパン」として戦略を推進していくことが大変重要になると思います。
先述した住宅の話でも、住宅メーカー、バスメーカーが個々に事業をやっても良い街づくりはできません。日本チームが参画した街づくり(日本ブランド)は、こんなに素晴らしいのだということを現地の人々に体験してもらう機会を創出することでパイ自体を拡大し、さらに競争のルールをも変えなくてはなりません。
時間は限りあるものです。時を有効に使い、最大限のアウトプットを生み出すために必要な戦略とはフォーカスすることです。必要なものを生かすには不必要なものを取り除かなくてはなりません。すべてを生かそうとすればそこそこのものしかできません。
最後になりますが、プミポン国王のSufficiency Economyを実践しているロイヤルプロジェクトで私たちが常に意識しているのは、私たちの活動は現地住民の方々が自分らしく生きていくための支援であって、タイという国が微笑みを捨ててまで虎になることを目指してはいないということです。
長寿企業に関する研究では、利益追求のみに走ると企業の寿命は短くなるということが示されています。これまで健康だった人が誘惑に負け、目先の快楽に興じるあまり衰弱していくように企業は衰退していくといわれます。
つまり、地域住民の幸福という絶対価値に結びつかない利己的な経済価値は追求しないという、日本人としての美徳が大切なのです。私が子供の頃に母に読んでもらった『星の王子さま』のサン=テグジュペリの次の言葉で締めくくりたいと思います。
「船をつくりたいなら、木を集め、手分けをして作業をするように部下に命じるのではなく、広大で果てしない可能性に満ちた海への憧れの気持ちを引き出してあげることなのです」。
次ページ:ASEANビジネスニュース 時事年表2016
THAIBIZ編集部
タイ産オーガニック食品、本場米国へ ~ハーモニーライフ大賀昌社長インタビュー(下)~
対談・インタビュー ー 2024.11.25
トランプ復権、米中対立とASEAN ~東南アジアの「バンブー外交」はどうなる~
ASEAN・中国・インド ー 2024.11.25
日産がタイで1000人リストラ、BOIはPCB投資の「大波」に確信
ニュース ー 2024.11.25
タイのオーガニック農業の現場から ~ハーモニーライフ大賀昌社長インタビュー(上)~
バイオ・BCG・農業 ー 2024.11.18
タイ農業はなぜ生産性が低いのか ~「イサーン」がタイ社会の基底を象徴~
バイオ・BCG・農業 ー 2024.11.18
「レッドブル」を製造するタイ飲料大手TCPグループのミュージアムを視察 〜TJRIミッションレポート〜
食品・小売・サービス ー 2024.11.18
SHARE