経済発展の礎と未来 タイ財閥

経済発展の礎と未来 タイ財閥

公開日 2017.02.28

タイ・ビバレッジを中核に持つ TCCグループ

創業者かつ現会長のチャローン・シリワダナパクディ氏の名前を取り、1960年に設立されたTCC(Thai Charoen Corporation)グループ。
当時、国営企業であったウイスキー醸造所に原材料を卸していたチャローン氏は、85年にタイ政府がウイスキー醸造事業を民営化したタイミングでライセンスを取得した。チャローン氏は経済界だけでなく、政界、王室関係にも強い人脈を持っているとされており、88年には故プミポン国王(ラマ9世)から「シリワダナパクディ」の姓を下賜され、一族は改姓している。

91年にはタイ・ビバレッジを設立し、デンマークのカールスバーグと提携しビール製造事業を開始する。ブンロート・ブリュワリーが製造するシンハービールが圧倒的なシェアを占める中、「チャーン」ブランドの低価格ビールを自社ウイスキーとセットで販売する戦略が功を奏し、瞬く間にシェアを拡大。ビール事業参入5年でシンハーのシェアを追い抜き、一時は60%までシェアを伸ばした。

08年にはタイで緑茶ブームを巻き起こしたオイシグループ、11年には長らくアメリカのペプシコと販売代理店契約を結んでいた大手飲料メーカー・スームスック、13年にはシンガポールの不動産・飲料複合企業であるフレーザー&ニーブ(F&N)などを相次いで買収。オイシは日本食レストラン事業を持っていたため、TCCグループはアルコール事業、飲料水事業、外食事業へと事業を多角化していく(図表2)。

キリンホールディングスは10年7月よりF&Nの株式約15%を保有していたが、TCCグループがF&Nを買収したことにより、東南アジアの総合飲料戦略を実現していくことが困難と判断、保有する全株式をTCCグループに譲渡した。

日系企業との関わり

また、2000年初頭からは不動産事業にも積極的に参入しており、グループ傘下企業のTCCランドを通じて、オフィス、住宅、商業施設、ホテルなど、さまざまな開発を行っている。
2012年にはホテルオークラと提携し、「オークラ・プレステージ・バンコク」をオープンしたほか、14年に日本のドラッグストアチェーンであるココカラファインがTCCグループ傘下の消費財大手バーリユッカーとの合弁で、タイへの輸出入、卸売り、OEM生産を手がける新会社を設立した。

15年にはTCCランドがゲートウェイ・エカマイ内に人工的に雪を降らせた施設「スノータウンバンコク」を、日本の不動産投資会社であるダヴィンチ・ホールディングスおよび日本のゲレンデ運営大手マックアースとともにオープンしている。

アグリビジネスから始まった CPグループ

CPグループはチェンワノン(謝)ファミリーによる企業集団で、1920年頃に広東省潮州出身のエクチョー・チェンワノン氏(謝易初)とチャンチャルーン氏(少飛)の兄弟がタイに渡り、中国から輸入した野菜の種苗の販売店「チアタイ」を始めたのが起源。その後、エクチョー氏の長男であるチャラン氏(謝民)が家畜飼料の輸入販売店「チャロン・ポカパーン(Charoen Pokphand)」を開店し、養鶏、エビ養殖などアグリビジネスを軸にCPグループを形成していく。

69年にはチャラン氏の四男で、創業者から数えて四代目となるダニン氏がグループの最高経営責任者(CEO)職に就く。ダニン氏はグループの多角化を進め、食料・食品分野では飼料生産、畜産、加工、流通・販売を手がけ、ほかにも金融、不動産、自動車、保険、通信分野に着手、事業を拡大し、タイ最大級のコングロマリットへと成長させた(図表3)。

CPグループは78年、中国が対外開放政策を始めると真っ先に中国へと進出した。中国での名前は「正大集団(チアタイ集団)」で、国内では知らない者はいないと言われるほどの大企業となっている。現在では世界17ヵ国で事業を展開している。

CPグループは、タイをはじめ東南アジアと中国を行ったり来たりしながら事業を拡大していった。ダニン氏たち兄弟姉妹はタイだけでなく中国でも教育を受け、中国語を自由自在に操る。さらに行き来した過程で築かれた中国ビジネスの経験や人脈があったおかげで、ダニン氏は華人華僑や中国人と自然に付き合うことができ、中華圏での事業をすばやく展開できたのだと語っている。

そのダニン氏だが、2017年1月9日付の人事で、長男と三男に会長職とCEO職を引き継いだ。ダニン氏は上級会長に就き、引き続きグループ経営に携わるという。会長となった長男スパキット氏は、グループ上級副会長として大型投資や中国の小売事業を、CEOに就いた三男スパチャイ氏はCPグループでタイ3位の携帯サービス会社トゥルー・コーポレーションのCEOを務めていた。

日系企業との関わり

CPグループと最も古くから提携していた明治乳業は、1989年に合弁会社CPメイジを設立、以来タイで牛乳、乳製品の製造販売を行っている。
最近では2014年7月に伊藤忠と業務・資本提携を締結し、CPグループは伊藤忠の株式4.7 %(16年3月末時点)を保有する大株主となった。一方で伊藤忠も中国、ベトナムで飼料事業、畜産・水産関連事業、食品加工事業を展開するCPグループの中核企業、CPポカパーンの株式25%を保有している。日本の総合商社による外資受け入れを伴う業務提携は過去に例がなく、株式の持ち合いというかたちで提携が実現した。

次ページ:多くの日系企業と提携する小売大手 セントラルグループ

THAIBIZ編集部

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