日本経済新聞、太田泰彦編集委員兼論説委員が解説 RCEPを読み解く

日本経済新聞、太田泰彦編集委員兼論説委員が解説 RCEPを読み解く

公開日 2017.04.30

RCEP妥結の行方と、その焦点とは。発効されれば、誰にとって何が変わるのか。
日本経済新聞社、編集委員 兼 論説委員の太田泰彦氏に解説していただいた。
※本記事は2017年3月24日のインタビューから作成したものです

2012年11月にカンボジア・プノンペンでRCEP交渉の立ち上げ式が行われた当時は、13年に交渉を開始し、15年末までに完了することを目指していました。しかし、15年11月にマレーシア・クアラルンプールで発出された声明で、完了は16年末に先送りとなります。さらに16年9月、ラオス・ヴィエンチャンで開かれたRCEP首脳会議では、「交渉進捗を歓迎する一方で、相当な作業が依然残っており、参加国の異なる発展段階を含む多様性を認識し、バランスの取れた成果を達成する」との声明が出され、合意の期限については明示できませんでした。

それが2017年に入り、年内妥結の動きが出てきています。3月24日には中国の李克強首相とオーストラリアのターンブル首相が会談し、2015年に発効した中豪FTAの対象を拡大することで合意したほか、RCEPについても、「引き続き合意に向けて協力することで合意した」というニュースが報じられました。

RCEPは本当に必要なのか

日本はすでにASEAN諸国とFTAを結んでおり、貿易や投資の自由化を進めていますが、RCEPで作ろうとしているのは今までよりも深い内容の協定ですから、ないよりはあったほうが対ASEAN輸出に有利でしょう。日本がFTAを締結できていない、中国がRCEP交渉国に入っている点もポイントです。中国とインドは非常に大きな市場でありながら、日系企業は高い関税を払う、投資が保護されない、小売市場への参入やさまざまな許認可の取得が難しいといった苦労を抱えており、交渉がまとまれば恩恵が見込めます。

オーストラリアとインドについても、日本はそれぞれとFTAを結んでいます。RCEPで16ヵ国が同じ枠組みで動き、これまでの1対1、点と点でのつながりが面になれば、複雑で臨機応変に組み変わるサプライチェーンもスムーズになり、貿易や商売はしやすくなるでしょう。

2017年末までに合意の機運

今年11月のAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議の開催国はベトナムで、この時期には東アジア首脳会議も開催される予定です。また、2017年はASEANの設立50周年であり、節目の年に何か大きな成果を打ち出したいはずですから、東アジア首脳会議に先立って開かれるASEAN首脳会議、ASEAN+3など一連の会合で、RCEPの大筋合意、基本合意を発表し、年末までに最終調整するというシナリオが考えられます(図表1)。

ただ、インドは国内の零細な小売業者や農家を守るため市場開放に消極的ですし、中国は高度成長を遂げているとはいえ、国内の構造改革が遅れていてドラスティックな自由化に舵を切れずにいます。ASEANも域内に格差があり、シンガポールやマレーシアのように貿易自由化に積極的で産業を高度化していこうという国があれば、ベトナムのように外からの市場開放圧力を利用して国内改革を進めようという国もあり、インドネシアやタイは態度を決めかねているようです。

このような理由からもたついていたRCEP交渉が、2104〜16年に動き出したのは、アメリカがオバマ政権の下でTPPを推し進めたからです。アジアの貿易ルールがアメリカに主導されるのを避けるため、追いかけるように進めてきたはずのRCEPが、今年になってトランプ政権がTPPを放棄した瞬間、世界から脚光を浴び始めたわけです。RCEP参加国の範囲が広いことでも注目されていますが、TPPに比べて協定の中身は薄く、同じFTAでも目指すものがかなり異なります。

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THAIBIZ編集部

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