カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2017.04.30
日本としては、自由化率が高く、ルール面でも質の高い内容でRCEP交渉を主導したい。しかしながら、シンガポールを除くASEAN諸国では、その高い要求にすぐには対応ができない可能性がある。AEC(ASEAN経済共同体)をみれば一目瞭然だが、ASEAN6の域内関税は、1993年に開始されたAFTAでまず5%以下に引き下げられ、完全に撤廃されたのは2010年のことだ。カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムの関税撤廃に関しては、18年1月の予定である。
中国に対しては、自動車(完成車25%)や日本酒(40%)など高関税が課されている品目が多くあり、関税引き下げによる輸出拡大に期待が掛かる。非関税障壁の面でも、地域や担当者によって法制度の運用・解釈が異なることが少なくないことから、法制度の整備や法規制の緩和における統一した運用を望む声が多い。また自動車産業、情報通信業界では、出資比率に制限が課されており、原則として外資がマジョリティーを取ることができないため、経営の自由度向上、技術流出防止の観点から規制緩和を求める声があり、ほかにも商品の冒認登録や模倣品が横行していることから、知的財産の対策強化が望まれている。
RCEPが発効し、さらにもし参加国が増えていけば、アメリカ企業はアジア市場における貿易で不利益を被ることが予想され、TPP参加へのアメリカ国内圧力(内圧)は強まるとみられている。そのためにも、日本にはRCEPの早期妥結を目指し、交渉を加速していくことが望まれる。安倍晋三首相は16年11月、TPPが頓挫すれば、アジア太平洋地域の経済圏の軸足はRCEPに移っていくとの見方を示しているが、17年2月には石原伸晃TPP担当相が、TPP交渉を進めていくとしたうえで、「TPPはアメリカを含めた全ての国に対して、開かれたものであることが大切」とのコメントを発表している。
トランプ大統領の就任を受け、JETRO(日本貿易振興機構)がまとめた資料によれば、タイ商務省は、アメリカがTPPから離脱することで受ける影響について、マイナス面よりもプラス面の方が大きいとの見方をまとめている。
その理由としては、将来のFTA交渉に備えて国内改革を進める時間的余裕が生まれたことや、ASEANで先にTPP参加を表明しているベトナム、マレーシア、シンガポールなどをはじめ、TPP参加国からタイが取り残される事態が避けられる見込みとなったことが挙げられている。マイナス面として挙げられたのは、中国への対抗軸となる新たなFTAの枠組み形成が困難になること、今後のアメリカとの2国間FTA交渉では、アメリカの利益が優先される難しい交渉が想定されることなどだ。
16年11月17日のバンコク・ポスト紙にはソムキット・チャトゥシーピタック副首相のコメントが掲載され、アメリカが引き続きTPPを推進するのであれば、タイは参加する意向であるとしたうえで、タイが参加しないままTPPが発効した場合の輸出機会の損失、参加した場合の国内小規模事業者へのダメージなどを考えれば、「タイの立場としてはTPPが頓挫した方がメリットは大きいだろう」とした。
また、商務省貿易交渉局のスナンタ・カンワングンギ副局長は、同月22日付のバンコク・ポスト紙のインタビューで、「TPPを推進するモメンタムが失われた今、アジア大洋州地域における自由貿易圏の創設のためには、RCEPがカギを握る」とのコメントを残している。
【参考資料・文献】
・日本・外務省HP(www.mofa.go.jp)
・日本・経済産業省HP(www.meti.go.jp)
・「中国 WTO・他協定加盟状況 各協定の加盟状況詳細」JETRO
・「環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の概要・データ集」JETRO
・「2016年米国大統領選挙の結果に対する見方」JETRO
・「日本のTPP貿易、RCEP貿易~TPPによる対米輸出への影響~」国際貿易投資研究所・研究主幹:大木博巳
・「米国のTPP離脱と東アジアの経済統合」亜細亜大学・教授、国際貿易投資研究所・客員研究員:石川幸一
THAIBIZ編集部
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